表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/106

第九十一話

 道長様と顕成が何か言葉を交わしている様子が見てとれた。

 ややあって道長様は唐車に向かい、そのまま乗り込まれる。

 もうここからはその姿は見えない。

 そして舎人や随身など十数名の供を周りに従え、車はゆっくりと動き始めた。

 こちらの方向に進んで来たので、私は後ろに下がってしゃがんで隠れた。

 惟義は呆然としたまま固まっている。

 慌てて後ろからその袖を引っ張ると、よろめきながら下がってきて、私の近くに座った。

 やがて、ぎぃーという音が下から聞こえてくる。

 門が開けられ、一行がこの下をくぐり抜けて出て行くのを耳で感じ取った。


 舞い上がった土埃が消えてなくなり、やがてしんと静かになる。

 私は欄干に近付き、下を確認してみた。

 顕成が一人だけ残って立ち尽くしている。

 そして少し顔を上げ、私と目が合うとこちらに向かって歩いて来て、私が使った梯子を上って来た。

 私は手を伸ばして上りきるところを助けた。

 伏し目がちな表情で現れたその姿は、やはりはっとする程美しい。

 

「“あき”」

と後ろから呟く声が聞こえた。

 振り返ると、惟義が鋭さの消えた素朴な眼でじーっと顕成を見つめている。

 道長様と同じ反応――それほど顕成は、あきさんに似ているのか。

 顕成は首を左右に振った。

「僕はその名の方ではありません」

 見た目と不釣り合いな、かすれた低い声。

 惟義の瞳が少し揺れた。

「もしかして――蒼君?」

「それは幼い頃の名で、今は藤原顕成と言います」

「ではやはり蒼君。あきの息子か」

 あきの息子――

 惟義や中将内侍の幼馴染のあきさんが、顕成の母君かどうかは、朝まではまだ確定していなかった。

 ただ千種殿に勤める雑仕女という身分が一致していただけだから。

 それが先程、道長様が顕成を見て「あき」と呟いた瞬間、当たりだと思った。

 そして今。

 同じ反応をした惟義が、はっきりと「あきの息子」と言い切った事で更に確実になった。

 当事者の顕成を見ると、特に驚いた様子もない。

 そう言えば、道長様にも「私の母をご存知なのですか?」って聞いていた事を思うと、既に知っていたのかも知れない。

「あなたはありみちのこれよし殿ですね」

「私を知っていたのか」

 その目には涙が滲んでいるように見える。

「ええ。存じております。あなたと中将内侍と母の三人は幼馴染だったのですよね?」

 惟義は頷いた。

「二人とは、私が十歳になるかならないかの頃、父親について行った二条邸で出会った。年が近い三人はすぐに仲良くなって毎日のように庭で遊び――そのまま大人になるまで共に過ごし、夢や悩みを共有しながら共に成長したのだよ。私には二人妹がいたが、別々に暮らしていたのでね、実の妹よりも家族のような感覚だったな」

 妹――

 美濃さんの顔が思い浮かぶ。でも今はそれを口にするのはやめた。

「しかし、それは長徳の事件までの事だった」

 惟義の表情が少し曇った。

 長徳の事件とは長徳二年の政変の事だろう。

 まだ私も顕成も生まれていない頃の出来事だけど、有名な話だから私もよく知っている。

 道雅様の父君の伊周様とその弟の隆家様が、恋愛絡みの誤解から先帝の袖に弓を放つという不敬事件を起こしてしまう。

 更に親族の呪詛事件などの罪も発覚して二人は京から追放され、政権は完全に道長様の元に渡ったのだ。

「あの事件の後、私は故郷の武蔵に下った。恩赦で伊周様が帰京される事になり、私も戻って来たが二条邸にはわずかな使用人しか残っておらず、小伊勢もあきもいなかった。二人は一緒に六条宮様の元で働いていたのだ」

「その後も二人とは交流があったのですか?」

 顕成が訊ねる。

「いや、勤め先が異なるうえ、小伊勢は結婚していたからね。用もなく会うことはなかったな。あきは身分違いの恋もしていたし……」

 胸がドキッと鳴った。

 身分違いの恋――六条宮様とのこと?

 惟義の口から語られることで、もう全てが確定していくような気がする。

転記ミスで、話が飛んで九十二話とかぶってました。

他にもあったら教えて下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ