表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
第五章 院の怒り
PR
72/106

第七十二話

* * *


 睦月は行事が多い。

 初詣に、年賀の挨拶に訪れる来客への対応、院御所で行われる饗宴や内宴への参加など、目まぐるしく忙しいひと月だった。

 ただ、年末に新しい女房が数名入ってきて人手不足も改善され、私も仕事に慣れた頃だったので、何とかこなす事ができた。


 そして如月に入ると行事が減り、邸内で当子様や数名の女房で梅見をしたり、絵合や碁に興じる事もあった。


 しかし、そんな穏やかな日々はいつまでも続かない――


「近江さん、御膳がどうなっているのか確認して来てもらえないかしら」

 丹波さんに透渡殿で声をかけられた。

「あら、まだ出てないんですね。見てきます!」

 寝殿の北側に食膳の準備をする台盤所だいばんどころがあり、そこへ急いで向かう。

 ひょいと中を覗くと、新しく来たばかりの女房が先に来ていた。

 あら、彼女もなにか頼まれたのかしら? ――声をかけようとして、やめた。

 そして、物音を立てないようそっと隠れる。

 その女房が食事に白い粉を振りかけていたのだ。


 心臓が激しく鳴り響く。

 あれはまさか毒――?

 あの女房は確か、道長様の推薦で採用されてきたと聞いた女だわ。

 しばらくして、その女が食膳を持って出て来た。

 あれは絶対に止めないと!


 私は彼女の前に飛び出し、躓いた振りして思い切り体当たりした。

「きゃああああ。あなた、一体?」

 ちょうど庭に続くきざはしの前だったので、その女と私は共に庭に転げ落ちた。

 膳はひっくり返り、食べ物が飛び散ってしまったのを横目で見て、私はほっとした。


「二人とも、一体、何があったというの?」

 女と私は並んで当子様の前に座らされた。

「近江さんがいきなりぶつかって来られたのです」

 さっきの女房が真っ先に弁明した。

 私は黙ったまま彼女を睨む。

「近江、本当なの?」

 当子様に問われ、

「ええと、慌ててしまいまして」

と、とりあえず誤魔化した。

「近江! 笑い事ではありませんよ。御膳を汚した事は、れっきとした罪です!」

 当子様の隣に控えた中将内侍さんが厳しい口調で言い放った。

「つ、罪?」

「納屋に幽閉、もしくは出仕停止に致しますよ!」

 強い口調に、当子様が

「そんな厳し過ぎるわよ」

と狼狽える。

「いいえ、こう言った事はきちんとしないと他の者に示しがつきません!」

 中将内侍さん、怖い。

 さすがベテランと言うか――

 しかし、罪と言われて黙ってはいられない。

「実は……」

 私は先程見たままを伝えた。


「私は知りません!」

 女は否認するが、襟元に粉の入った紙を隠し持っていたのが見つかり、追放される事になった。


 しかし、その夜、事態は更に一変する。


 平安京は、平安とは名ばかりで実は治安が悪い。

 窃盗は日常茶飯事。

 放火による火事もよくあるし、侍を置いて警固していても、それでもそれをすり抜けて誘拐事件が起こる事もある。


 しかし、まさか、この私が誘拐されることになるとは――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ