第七十二話
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睦月は行事が多い。
初詣に、年賀の挨拶に訪れる来客への対応、院御所で行われる饗宴や内宴への参加など、目まぐるしく忙しいひと月だった。
ただ、年末に新しい女房が数名入ってきて人手不足も改善され、私も仕事に慣れた頃だったので、何とかこなす事ができた。
そして如月に入ると行事が減り、邸内で当子様や数名の女房で梅見をしたり、絵合や碁に興じる事もあった。
しかし、そんな穏やかな日々はいつまでも続かない――
「近江さん、御膳がどうなっているのか確認して来てもらえないかしら」
丹波さんに透渡殿で声をかけられた。
「あら、まだ出てないんですね。見てきます!」
寝殿の北側に食膳の準備をする台盤所があり、そこへ急いで向かう。
ひょいと中を覗くと、新しく来たばかりの女房が先に来ていた。
あら、彼女もなにか頼まれたのかしら? ――声をかけようとして、やめた。
そして、物音を立てないようそっと隠れる。
その女房が食事に白い粉を振りかけていたのだ。
心臓が激しく鳴り響く。
あれはまさか毒――?
あの女房は確か、道長様の推薦で採用されてきたと聞いた女だわ。
しばらくして、その女が食膳を持って出て来た。
あれは絶対に止めないと!
私は彼女の前に飛び出し、躓いた振りして思い切り体当たりした。
「きゃああああ。あなた、一体?」
ちょうど庭に続く階の前だったので、その女と私は共に庭に転げ落ちた。
膳はひっくり返り、食べ物が飛び散ってしまったのを横目で見て、私はほっとした。
「二人とも、一体、何があったというの?」
女と私は並んで当子様の前に座らされた。
「近江さんがいきなりぶつかって来られたのです」
さっきの女房が真っ先に弁明した。
私は黙ったまま彼女を睨む。
「近江、本当なの?」
当子様に問われ、
「ええと、慌ててしまいまして」
と、とりあえず誤魔化した。
「近江! 笑い事ではありませんよ。御膳を汚した事は、れっきとした罪です!」
当子様の隣に控えた中将内侍さんが厳しい口調で言い放った。
「つ、罪?」
「納屋に幽閉、もしくは出仕停止に致しますよ!」
強い口調に、当子様が
「そんな厳し過ぎるわよ」
と狼狽える。
「いいえ、こう言った事はきちんとしないと他の者に示しがつきません!」
中将内侍さん、怖い。
さすがベテランと言うか――
しかし、罪と言われて黙ってはいられない。
「実は……」
私は先程見たままを伝えた。
「私は知りません!」
女は否認するが、襟元に粉の入った紙を隠し持っていたのが見つかり、追放される事になった。
しかし、その夜、事態は更に一変する。
平安京は、平安とは名ばかりで実は治安が悪い。
窃盗は日常茶飯事。
放火による火事もよくあるし、侍を置いて警固していても、それでもそれをすり抜けて誘拐事件が起こる事もある。
しかし、まさか、この私が誘拐されることになるとは――




