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朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
第五章 院の怒り
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第七十一話

 道雅様の邸からの帰路。

 一緒に牛車に乗った顕成は、考え込むように黙ったままだ。

 私も何と声をかけていいか分からなかった。


 惟義の幼友達だったという中将内侍様ともう一人のひと

 彼女は六条宮様の雑仕女だった――もしかすると、彼女が顕成の母君なのだろうか。

 宙を見つめる顕成。

 多分、同じ事を思っている。

 でも絶対そうだとは言い切れない。

 道雅様の父君は内大臣家まで務められたお方。

 そのお邸に勤める雑仕女は何十名といたに違いない。


「あの……顕成」

 顕成は黙って私の方に目を向けた。

「まだ決めつけては駄目だって、顕成言ったよね」

「ああ、うん」

「美濃さん……先月転落して亡くなった同僚の女房の事だけど」

「宴の後の事件だね」

「そう、あの時、惟義を見かけたから彼の犯行だと決めつけかけていたんだけど、あれは事故で間違いないのかも」

「どうしてそう思ったの?」

「惟義は美濃さんの兄君なんだって」

 顕成は気を取り戻した目で私を見た。

「実の兄君が妹に手をかけるはずないよね。むしろ、その事で私を逆恨みして衝動的に呪詛しようとしたのかなと」

「なるほど。時機を見てもあり得るね」

「顕成は呪詛とかまじないとか信じる?」

「え? どうだろう……」

「私が物の怪も鬼も信じてないから怖がらないの知ってるよね? それと同じで、呪詛の効果も信じてない。だって私、元気だし」

「宇治で倒れたけど……」

「あれは風邪よ。数日寝て治ったでしょ」

「まあそうかな。僕もあの後風邪ひいて寝込んでたしね」

「え! そうだったの? 私が感染うつしちゃった?」

「さあ? 君ほど酷くはなかったけどね」

感染うつしたんじゃなくても、雨でずぶ濡れになったからかも知れない。ご、ごめんなさい」

「自分の意思で濡れたのだから気にしなくていいよ。それより、呪詛がどうしたの?」

「あ……。ええと、だから、近江での密談の内容が、呪詛を企んだ事だったとしたら、きっと何も起こらない。じゃあ、心配する事はないかなとも思ったの」

「いろいろな説は巷にあるけど、呪詛でどうかなったかどうかよりも、その行為自体が問われる方が多いよね。その結果失脚したり処罰されたり……」

 道雅様の父君が失脚したという話がまさにそうだった。

 母方の伯父が当時の母后を呪詛しようとしたのが発覚しその責任を問われたのだとか。

 その結果中将内侍様と“あき”さんは勤め先を変える事になり――だめ、逸らした話に戻っては。


「だ、だから、呪詛の効果なんてないんだし、もう惟義の事気にするのをやめるわ。一人で外に出るのもやめる!」


 顕成は笑って、

「本当?」

と訊く。

「本当よ。だから顕成も安心して」

 ちょうどそこで車が止まった。

 顕成は手を伸ばして私の腕を掴み、前の出口まで引き寄せた。

 その勢いで顔が近くに寄り、ドキッとする。

 顕成は顔を少し傾げて私を見つめ、

「こうやって時々二人で外出するのは悪くないかもね?」

と囁いて微笑んだ。

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