第八話 壊れ始めたクラス
第八話 壊れ始めたクラス
銃声が響いた瞬間、全員の顔色が変わった。
今まではまだ疑っているだけだった。
殺人犯がいるかもしれない。
島に誰かがいるかもしれない。
そんな曖昧な恐怖だった。
だが違う。
今の銃声は現実だ。
どこかに武装した人間がいる。
それを証明してしまった。
「に、逃げろ!」
誰かが叫んだ。
一気にパニックになる。
女子達が悲鳴を上げる。
教師の水瀬は腰を抜かしていた。
高城が必死に叫ぶ。
「落ち着け!」
だが無理だった。
二人死んだ。
犯人もいる。
さらに銃まで出てきた。
高校生に処理できる状況ではない。
「全員集まれ!」
玲司が怒鳴る。
その声に皆が一瞬だけ驚いた。
普段の九条玲司からは想像できないほど鋭い声だった。
「バラバラに動くな!」
高城もすぐに乗った。
「九条の言う通りだ!」
二人の声によってようやく混乱が収まる。
玲司は内心で高城を再評価した。
優柔不断な部分はある。
だが人をまとめる力は本物だった。
使える。
そう判断する。
「銃声は一発だった」
玲司が言う。
「少なくとも戦闘じゃない」
「分かるのか?」
榊原が怪訝な顔をする。
「なんとなく」
誤魔化す。
本当は分かる。
発射音。
反響。
音量。
全部聞いていた。
だが説明はできない。
「確認に行く」
玲司が言った。
「俺も行く」
高城が即答した。
続いて久我も手を挙げる。
「俺も」
「危険だぞ」
「一人で行かせる方が危険だろ」
玲司は少しだけ笑った。
こういうところは嫌いじゃない。
結局、玲司、高城、久我、榊原の四人で森へ向かうことになった。
美月は拘束されたまま残される。
玲司はその様子を見て僅かに眉をひそめた。
だが今は優先順位がある。
犯人だ。
まずそちらを片付けなければならない。
森へ入って十分ほど。
やがて銃声がした場所へ辿り着いた。
そこにあったのは血痕だった。
大量の血。
地面を染めるほどの。
しかし死体はない。
「誰か撃たれたのか……?」
久我が青ざめる。
玲司はしゃがみ込む。
血を調べる。
量が多い。
だが不自然だ。
いや。
血だけではない。
周囲全てが不自然だった。
「どうした?」
高城が尋ねる。
玲司は木を指差した。
「弾痕がない」
全員が振り返る。
確かに。
近距離で発砲したなら何かに当たるはずだ。
だがその痕跡がない。
「空撃ちか?」
榊原が言う。
「その可能性が高い」
玲司は立ち上がる。
犯人がやった。
わざとだ。
恐怖を煽るために。
血痕も恐らく動物の血。
人間のものではない。
完全に陽動だった。
そして目的も予想がついていた。
(俺をここへ誘導した)
犯人は知っている。
玲司が動くことを。
自分を追っていることを。
つまり向こうもこちらを観察している。
その事実が不気味だった。
その時だった。
遠くから絶叫が響いた。
海岸方向。
今度は間違いなく人間の悲鳴だった。
玲司の顔色が変わる。
「しまった!」
全力で走る。
高城達も後を追う。
数分後。
キャンプ地へ戻った玲司達は絶句した。
そこは地獄だった。
生徒達が泣き叫んでいる。
教師は失神寸前。
そして。
美月を拘束していた縄が切られていた。
「李は!?」
高城が叫ぶ。
女子生徒が震えながら答えた。
「連れて行かれた……」
玲司の瞳が細くなる。
「誰に」
「わからない……」
女子は泣きながら続けた。
「急に煙が出て……」
「その後で……」
「軍服の男が……」
玲司は拳を握った。
完全に嵌められた。
自分を森へ誘導する。
キャンプを無防備にする。
その間に美月を攫う。
最初からそれが目的だったのだ。
高城が呆然とする。
「なんで李なんだ……?」
玲司は答えなかった。
理由を知っているからだ。
李美月。
リーの娘。
三年前の生き残り。
この島の秘密へ繋がる唯一の存在。
犯人にとっても重要人物なのだ。
その時だった。
一人の男子生徒が叫んだ。
「これ!」
皆が振り向く。
男子の手には紙が握られていた。
汚れたメモ用紙。
そこには乱暴な字でこう書かれていた。
『地下施設へ来い』
『来なければ娘は死ぬ』
そして最後に。
玲司だけが凍り付く一文が書かれていた。
『お前も三年前の続きを知りたいだろう』
呼吸が止まる。
高城達は意味が分からないという顔だった。
だが玲司には分かる。
あいつだ。
三年前の生き残り。
そして。
自分がこの島を知っていることも既に知られている。
罠だった。
間違いなく。
それでも。
玲司は行くしかなかった。
美月を助けるために。
そして三年前に終わらなかった過去へ決着をつけるために。




