第七話 正体
第七話 正体
「安心しろ」
玲司は暗闇の中で傭兵を見据えた。
「俺が殺す」
傭兵の表情が変わる。
今まで軽薄な高校生にしか見えなかった少年から、自分と同じ匂いを感じ取ったのだ。
殺しを知る者の目。
人を狩る者の目だった。
「なるほどな」
傭兵がライフルを構える。
「そういうことか」
引き金を引く。
銃声が地下施設に響いた。
だが玲司の姿は既にそこにはなかった。
壁を蹴る。
崩れた棚へ飛び乗る。
さらに天井の配管へ手を掛ける。
傭兵の目が開かれる。
速い。
普通の高校生ではありえない動き。
「化け物が」
「お互い様だろ」
玲司が笑う。
直後。
棚に残っていた鉄パイプを蹴り飛ばした。
傭兵が避ける。
その隙に距離を詰める。
拳。
肘。
膝。
一切の無駄が無い。
リーから教わり、組織で完成させた戦闘術だった。
傭兵も反応する。
ライフルを捨て、ナイフを抜く。
金属音。
二人が激突した。
数合の打ち合い。
玲司は相手を観察していた。
動き。
重心。
呼吸。
そして気付く。
左足。
やはり怪我をしている。
三年前の爆発によるものかもしれない。
「お前」
玲司が言う。
「佐藤と森崎を殺したな」
傭兵が笑う。
「どう思う?」
否定しない。
それが答えだった。
玲司の目が冷える。
「なんでだ」
「実験だよ」
楽しそうな声だった。
「人間は面白い」
ナイフが振るわれる。
玲司は避ける。
「一人殺すだけで疑い始める」
「二人目で確信する」
「三人目が死んだらどうなると思う?」
狂っている。
完全に。
傭兵は笑った。
「互いを殺し合う」
「それが見たかった」
玲司は無言になる。
こういう人間を知っていた。
組織にもいた。
戦争中にもいた。
人間が壊れる瞬間を楽しむ人種。
傭兵が言う。
「しかも今回は傑作だ」
ポケットから小瓶を取り出す。
青い液体。
ブーストだった。
「候補もいる」
玲司の顔が険しくなる。
「誰だ」
「教えると思うか?」
傭兵が笑った瞬間だった。
玲司の蹴りが顎へ叩き込まれる。
男が吹き飛ぶ。
壁へ激突した。
しかし立ち上がる。
頑丈だった。
異常なくらいに。
そして玲司は気付く。
目の血管。
異常な筋肉。
呼吸。
「お前使ったのか」
「正解」
ブースト。
既に投与済みだった。
傭兵が笑う。
「だからお前じゃ勝てない」
その時。
遠くから悲鳴が聞こえた。
海岸方向。
玲司の顔色が変わる。
美月。
嫌な予感がした。
傭兵が笑う。
「始まったな」
「何をした」
「何もしてない」
男は楽しそうだった。
「でも今頃、あの女は死ぬかもしれん」
瞬間。
玲司が動いた。
ナイフを奪う。
首筋へ突き付ける。
一動作だった。
傭兵すら反応できない。
「誰だ」
冷たい声。
殺意すら感じる。
傭兵の笑みがわずかに消える。
初めてだった。
恐怖を感じたのは。
だが男は笑った。
「遅い」
その言葉と共に手榴弾が転がる。
玲司は即座に飛び退いた。
爆発。
轟音。
地下通路が崩落する。
土煙。
視界が塞がれる。
傭兵の姿は消えていた。
「くそっ!」
玲司は舌打ちする。
追う時間はない。
今は。
美月だ。
全力で施設を飛び出した。
森を駆ける。
木々を飛び越える。
風を切る。
そして海岸へ辿り着いた。
そこでは。
最悪の光景が広がっていた。
美月が木へ縛り付けられていた。
周囲には生徒達。
そして中心には森崎を慕っていた男子生徒達がいる。
「やめろ!」
玲司が叫ぶ。
全員が振り返る。
高城も。
榊原も。
久我も。
教師も。
そこにいた。
「九条……」
高城が呆然とする。
玲司は呼吸を整えながら前へ出た。
そして初めて言った。
「犯人は美月じゃない」
静まり返る。
誰も信じていない顔だった。
「証拠は?」
榊原が尋ねる。
玲司は黙ってポケットから生徒手帳を取り出した。
森崎の物だ。
「これをどこで見つけたと思う?」
誰も答えない。
「地下施設だ」
空気が変わる。
「森崎はあの場所を知ってた」
「どういう意味?」
「少なくとも昨日の夜、あいつはここにいた」
ざわめきが広がる。
玲司は続ける。
「それともう一つ」
皆を見る。
そして告げた。
「この島には俺たち以外もいる」
その瞬間。
全員の顔色が変わった。
「何だって……?」
「軍服姿の男を見た」
「銃を持っている」
「殺人犯はそいつだ」
沈黙。
だが。
まだ足りない。
皆は半信半疑だった。
その時だった。
森の奥から銃声が響く。
乾いた音。
そして続く悲鳴。
全員が凍り付いた。
玲司だけが確信する。
始まった。
犯人が次の一手を打ってきた。
そしてこの島の地獄は、まだ始まったばかりだった。




