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第六話 証拠

 第六話 証拠


「死刑にするべきじゃないか」


 その一言で空気が変わった。


 誰もが息を飲む。


 だが。


 否定する者も少なかった。


 恐怖が理性を上回り始めていた。


 二人が死んだ。


 そして二度とも李美月が現場にいた。


 その事実だけが独り歩きしている。




「待てよ!」


 久我翔が立ち上がった。


「流石にそれはおかしいだろ!」


「じゃあ犯人じゃない証拠あんのかよ!」


 男子生徒の一人が怒鳴る。


「ねぇだろ!?」


 沈黙。


 誰も答えられない。




 高城も苦しそうだった。


「俺も処刑とかは違うと思う」


 そう前置きする。


 だが。


「でも何か対策は必要だ」


 その言葉に美月の顔が曇った。


 孤立している。


 完全に。




「隔離しましょう」


 榊原が言った。


「少なくとも真相が分かるまで」


 それが現実的だった。


 監禁ではない。


 処刑でもない。


 だが。


 美月にとっては変わらない。


 皆が敵になった。


 それだけだった。




 玲司は黙っていた。


 今はまだ。


 その時ではない。



 問題は犯人を見つけることではない。


 証拠を見せることだ。


 人間は事実より証拠を信じる。


 そして今。


 美月が犯人ではない証拠がない。




 その夜。


 美月は一人で隔離された。


 海岸近くの崩れた小屋。


 見張り付き。


 まるで犯罪者。




 玲司はそれを確認すると森へ入った。


 目的は決まっている。


 二つ。


 傭兵の足取り。


 そして。


 第一の事件現場だ。




 月明かりの中。


 広場へ辿り着く。


 佐藤が殺された場所。


 事件発覚後は誰も近付いていない。


 だから痕跡も残っている。




 玲司は跪く。


 地面を探る。


 葉をどける。


 砂を調べる。


 そして。


 見つけた。




「やっぱりな」


 靴跡だった。




 美月のものではない。


 男物。


 大型。


 軍用ブーツ。


 しかも。


 片足だけ妙に深い。


 怪我をしている。




 昼間見た傭兵。


 顔に傷があった男。


 条件が一致する。




 さらに。


 木の幹にも痕跡があった。


 小さな傷。


 ナイフの研ぎ跡。


 傭兵達がよく使う癖だ。




「いたな」


 玲司の目が細くなる。


 もう確定だった。




 その時。


 ピカッ。


 遠くで光が見えた。


 一瞬だけ。


 地下施設の方向。




 玲司は動いた。




 施設内部。


 三年前より崩れている。


 それでも利用可能だった。


 地下へ降りる。


 暗闇。


 錆びた壁。


 血の跡。


 そして。



「……」


 玲司は立ち止まる。



 そこには棚が並んでいた。


 武器庫。


 かつて傭兵が利用していた場所。


 そして。


 棚の上には青いケースが残されている。


 開ける。


 中には注射器。


 青い液体。


 ブーストだった。


「やっぱり残ってたか」


 最悪だった。



 人間を狂暴化させる薬。


 身体能力を異常強化する代償に理性を失わせる。


 軍事実験用。


 傭兵達の切り札。


 そして。


 その横に。


 別の物が置いてあった。


 生徒手帳。


 玲司の顔色が変わる。


 手に取る。


 名前を見る。


 森崎健吾。



 殺された二人目だった。




「なんでこんなところに……」


 その瞬間。


 背後で物音がした。




 ガコン。




 玲司は反射的に飛ぶ。


 直後。


 銃声。




 バァン!!




 壁が砕ける。




「ちっ」


 玲司が転がる。


 立ち上がる。


 そして暗闇を見る。




 いた。


 傭兵。


 昼間の男だった。




「驚いたな」


 男が笑う。


 ライフルを構えながら。


「ガキがここまで来るとは」




 玲司も笑う。


 冷たく。


 暗殺者の目だった。


 昼間の軽薄さなど欠片も無い。



 男の顔色が変わる。


 異常に気付いた。


 この少年。


 普通じゃない。



「三年前の生き残りか」


 玲司が言う。



 男が笑う。


「正解だ」



「お前もな」



 二人の視線がぶつかる。



 そして。


 島で初めて。


 玲司は正体を隠すのをやめた。



「安心しろ」


 静かな声だった。



「俺が殺す」



 暗闇の中。


 元暗殺者と傭兵の戦いが始まろうとしていた。


 そして同じ頃。


 キャンプでは。


 美月の前に一人の人影が立っていた。


 ナイフを握って。


 ゆっくりと・・・笑いながら。



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