第二話 派閥
第二話 派閥
「人数確認するぞ!」
砂浜へ集まった生徒達の中心で、高城隼人が声を上げた。
誰も反対しない。
いや、できない。
担任教師の水瀬里香は生徒達と同じように混乱しており、指示らしい指示を出せないでいた。
「みんな静かに聞いて!」
教師が叫ぶ。
だが声は震えている。
説得力が無い。
その瞬間。
玲司は内心で確信した。
このクラスの主導権はもう教師から離れた。
極限状態では強い者が中心になる。
学校も無人島も同じだ。
◇
点呼が始まる。
生存者は三十一人。
教師一人。
生徒三十人。
六人が行方不明だった。
「まだ見つかってない奴らがいる」
高城が険しい顔になる。
皆の表情も暗い。
飛行機墜落。
遭難。
行方不明者。
ようやく現実感が出てきたらしい。
「探しに行こうよ!」
ギャルの姫川愛莉が言った。
「まだ近くにいるかもしれないじゃん!」
数人が頷く。
だが委員長の榊原雪乃が首を横に振った。
「今動くのは危険よ」
冷静な声だった。
「日没が近いし、まず拠点作りを優先すべき」
「でも!」
「遭難時は体力管理が重要よ」
さすが学年トップ。
正論だった。
◇
一時間後。
派閥ができ始めた。
高城グループ。
運動部中心。
男子女子問わず人気者が集まる。
榊原グループ。
真面目な優等生達。
姫川グループ。
カースト上位女子達。
そして。
一部男子達が取り囲んでいる人物。
森崎健吾。
サバイバルオタクだった。
キャンプ知識が豊富で、今やちょっとした有識者である。
「まず雨水の確保がだな」
「おお……」
「すげえ」
尊敬の眼差し。
学校では地味だった男がヒーローになっていた。
環境が変われば立場も変わる。
玲司は面白そうに眺めていた。
◇
「九条」
隣に久我翔が座る。
「お前どこにも混ざらないの?」
「俺は自由を愛する男だから」
「ただ面倒臭いだけだろ」
「バレたか」
二人で笑う。
周囲から見るといつもの軽い会話。
だが玲司は別のことを考えていた。
派閥。
争い。
不信。
よくない兆候だった。
遭難時に最も危険なのは飢えではない。
人間だ。
三年前に学んだ。
◇
夕方。
食料が回収された。
機内から流れ着いたものだ。
菓子。
飲料。
保存食。
しかし量は少ない。
全員が顔を曇らせる。
「思ったより無いな……」
高城が呟く。
森崎が腕を組む。
「三日持つかどうかだな」
空気が重くなる。
現実だった。
救助が来なければ終わる。
その時。
玲司は美月を見た。
彼女だけは食料を見ていない。
森を見ていた。
そして。
怯えていた。
◇
違和感。
玲司は気付いた。
美月はこの島に気付いている。
当たり前だった。
彼女も被害者なのだから。
三年前。
傭兵達に監禁されていた。
だから。
覚えていて当然だ。
「……」
玲司は視線を逸らす。
今は接触しない。
警戒させるだけだ。
まずは状況把握。
任務の基本だった。
◇
日が沈んだ。
焚き火が灯る。
夜。
危険な時間帯。
玲司は一人で眠っているふりをしていた。
耳だけを使う。
呼吸音。
足音。
風。
訓練で身に付いた習慣だった。
そして。
異変は突然起きた。
◇
ザッ。
砂を踏む音。
誰かが動いている。
玲司は目を開かない。
わずかに観察する。
暗闇の中。
一人の人影がキャンプを離れた。
森へ向かう。
女子だった。
背格好からして美月。
「……」
なぜだ。
こんな時間に。
一人で。
◇
玲司は静かに立ち上がる。
誰にも見られないように。
音も無く。
暗闇へ溶け込む。
まるで別人だった。
昼間の軽薄な高校生は消えている。
そこにいるのは訓練された追跡者だった。
◇
森へ入る。
月明かりが弱い。
だが問題ない。
足跡。
折れた枝。
草の揺れ。
全てが痕跡だ。
玲司は美月を追う。
やがて。
彼女を発見した。
小さな広場。
崩れたコンクリート。
そして。
地下へ続く鉄扉。
三年前の施設だった。
玲司の表情が凍る。
「まさか……」
まだ残っていたのか。
◇
その時。
美月が何かに気付いたように振り返る。
次の瞬間。
悲鳴が響いた。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
玲司は走った。
全力で。
広場へ飛び出す。
そして。
目の前の光景に息を呑んだ。
そこには。
男子生徒が倒れていた。
首から血を流しながら。
既に動かない。
完全な死体だった。
そして。
そのすぐ側で。
美月が震えていた。
血まみれのナイフを握ったまま。




