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第十一話 継承者

 第十一話 継承者


「……玲司?」


 美月の声が震えた。


 拘束されたままの彼女は信じられないものを見るような目をしている。


 玲司は少しだけ視線を向けた。


 三年前。


 燃え盛る島から抱きかかえて逃げた少女。


 その少女が今、自分を見ている。


「後で話す」


 短く告げる。


「今は助けるのが先だ」


 美月の目に涙が浮かんだ。


 それだけで十分だった。


 ハウンドが笑い声を上げる。


「感動の再会か」


 武装した男達も嘲笑する。


 十数人。


 全員が銃を持っている。


 普通の高校生なら絶望する状況だった。


 だが玲司は表情を変えない。


 むしろ冷静だった。


 人数。


 配置。


 射線。


 武器。


 脱出口。


 全て記憶した。


 三秒もかからない。


「お前は変わらんな」


 ハウンドが言う。


「リーに似てきた」


 その名前を聞いた瞬間だけ。


 玲司の目が冷たくなった。


「その口で語るな」


「事実だろう」


 ハウンドは肩をすくめる。


「お前はあの男の後継者だ」


 玲司は答えない。


 その代わり。


 静かに上着を脱いだ。


 地面へ落ちる。


 男達が怪訝な顔をする。


 丸腰だった。


 少なくともそう見える。


「諦めたか?」


 ハウンドが笑った。


 その瞬間だった。


 シュッ。


 乾いた風切り音。


 武装兵の一人が喉を押さえる。


 矢だった。


 短い矢。


 いつの間にか玲司の手に折り畳み式の小型弓が握られている。


 三年前。


 リーから教わった武器。


 銃の音がしない。


 気付いた時には刺さっている。


「なっ!?」


 男達が騒ぐ。


 二射目。


 三射目。


 矢が飛ぶ。


 正確だった。


 肩。


 太腿。


 手首。


 急所は避けている。


 戦闘不能だけを狙っていた。


 転がる傭兵達。


 だが残りが発砲する。


 銃声が地下施設へ響く。


 玲司は崩れた壁へ飛び込む。


 コンクリート片が砕け散る。


 弾丸が雨のように降る。


 普通なら終わりだった。


 しかし。


 玲司は銃声を聞いていた。


 位置を。


 呼吸を。


 癖を。


 全て。


「右三人」


 矢を放つ。


 悲鳴。


「階段上二人」


 さらに放つ。


 また悲鳴。


 ハウンドの顔から笑みが消えた。


「馬鹿な」


 あり得ない。


 訓練された兵士達が高校生一人に制圧されている。


 だが玲司にとっては当然だった。


 三年前。


 自分は助けられる側だった。


 だから地獄のような訓練を受けた。


 二度と守れなかったと後悔しないために。


 神崎京香のように。


 リーのように。


 誰かを失わないために。


 最後の兵士が倒れる。


 施設に静寂が訪いた。


 残ったのは二人。


 玲司とハウンド。


「化け物め」


 ハウンドが吐き捨てた。


 玲司は首を横に振る。


「違う」


 一歩踏み出す。


「お前達が作った」


 さらに一歩。


「結果だ」


 ハウンドが怒鳴りながら拳銃を抜く。


 発砲。


 しかし玲司の方が速い。


 矢が飛ぶ。


 拳銃が弾き飛ばされる。


 そのまま距離を詰める。


 拳。


 肘。


 膝。


 格闘術。


 ハウンドも応戦する。


 強かった。


 三年前。


 リーと互角に戦った男だ。


 だが。


 今は違う。


 リーの全てを受け継いだ玲司がいる。


 拳が腹へめり込む。


 肘が顎を打つ。


 ハウンドがよろめく。


 玲司は首を掴んだ。


 壁へ叩き付ける。


 轟音。


 施設が揺れた。


「ぐっ……」


 ハウンドが血を吐く。


 玲司は見下ろした。


「終わりだ」


「まだだ」


 ハウンドが笑った。


 狂気の笑みだった。


 ポケットから注射器を取り出す。


 青い液体。


 ブースト。


 玲司の顔色が変わる。


「やめろ!」


 遅い。


 ハウンドは首へ突き刺した。


 全量を投与。


 数秒後。


 異変が起こる。


 筋肉が膨張する。


 血管が浮き出る。


 骨が軋む。


 人間の姿が崩れ始めた。


 美月が悲鳴を上げる。


 ハウンドはもはや人ではなかった。


 理性を失った怪物。


 ブーストの完成形。


「ハァァァァァァ!!」


 咆哮。


 地下施設が震える。


 玲司は弓を構える。


 これが本当の決着だった。


 三年前。


 終わらなかった戦い。


 リーの仇。


 神崎京香の仇。


 そして美月を苦しめ続けた男との決着。


 怪物が襲い掛かる。


 玲司は静かに息を吐く。


 そして構えた。


 リーから教わった最後の一射を。


 この戦いに終止符を打つために。

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