絶望的状況
「ひとまず逃げられたけど、カールの言ってた通り学校の外への出口は塞がれてるわね。上の壁より強固に作られてるから、簡単には壊せなさそうだし」
あの場から逃げるために俺たちが取った手段は、教室の窓から飛び降りて中庭へと降り立つことだった。そこから学校の外へ出るつもりだったのだが、中庭から外へ出る道も完全に塞がれていた。
仕方なく、今は一階の教室に身を隠している。
「......どうなってんだよ、クソが」
「悪態ついたってしょうがないでしょ。今は誰かが助けに来てくれることを祈るしかないわよ」
廊下の方では、のそのそと何体もの鎧の人形が歩いている。
「にしても、あんなにゴーレム作ってあいつの魔力は残ってんのかしら?」
「ああ見えて魔力消費が小さい魔法だぞ、ゴーレムは」
「そうなの? あんなに自由に歩き回ってるのに?」
「......そんな事より、腕の傷見せろ。逃げる時、槍当たってたろ」
ある程度の傷なら水魔法で治せる。だが、俺の申し出にミリエラは首を振った。
「このくらい大丈夫よ。今は少しでも魔力は残しておくべきでしょ?」
「万が一があったらどうすんだ。良いから見せろ」
無理矢理にでも治そうと、ミリエラの腕を掴もうと手を伸ばす。
「あんた、魔力総量少ないんでしょ?」
「......今はそんな話をしている場合じゃないだろ」
「してる場合よ。ただでさえ少ないあんたの魔力をここで使わせる訳にはいかないの」
「......」
「言っておくけど、魔力が少ない事を馬鹿にしてる訳じゃないわよ? むしろ」
「へー、良い事を聞いたね」
ミリエラの言葉は、一人の乱入者によって遮られた。
声が聞こえた方を見ると、そこには鎧のゴーレムの肩に乗ったカールの姿があった。
「カール......」
「そんな悲しい顔をしないでよ、マリユス。僕だって心苦しいんだ」
俺は一度目を瞑り、決心を固めて目を開く。
「カール、俺はお前の友人だ。だから、お前はここでぶっ倒す!!」
「あはは、最高だよマリユス!! 僕も一度は君と本気で戦ってみたかったんだ」
「"土よ、剣となれ"」
「"土よ、人となれ"」
俺とカールの詠唱が重なる。
「本当は元気いっぱいのマリユスと戦いたかったんだけど、仕方ないよね。魔力枯渇目前のマリユスくんはどれだけ粘ってくれるのかな?」
カールが創り出したゴーレムが俺へと殴りかかる。
「"土よ、壁となれ"!!」
俺とゴーレムの間を隔てるように床から壁が出現する。ゴーレムの拳は土の壁が受け止めることとなった。
「ちょっと邪魔しないでおくれよ、ミリエラさん」
「あんた、そんな嫌なやつだったのね。同じ土魔法使いとして仲間意識を持ってたけど、撤回するわ」
「自分を狙う殺し屋をマリユスにけしかけたミリエラさんに、言われたくないなぁ」
「はぁ!? そんなつもりじゃ無かったわよ!!」
「ミリエラ、挑発に乗るな」
「分かってるわよ!! "土よ、槍となれ"!!」
ミリエラは生み出した槍で、ゴーレムへと飛びかかる。
「ぶっ壊れなさい!!」
そして、ゴーレムを容易く貫いた。
「わーお、なんて馬鹿力だ」
「"火よ、球となれ"。"風よ、吹け"」
火の球が風に乗り、ゴーレムの肩の上のカールの元へと向かう。
だが、それは鎧のゴーレムが軽く腕を振ったことによって消し飛んだ。
「マリユスの魔力は、もう限界かな? "土よ、人となれ"」
背後にゴーレムが生まれた気配がする。
「ちっ、"風よ、思いっきり吹き飛ばせ"!!」
風がゴーレムを後方に吹き飛ばす。
「カール!! 覚悟しなさい!!」
ミリエラが今度は鎧のゴーレムへと飛びかかる。槍の先がゴーレムの頭を捉えるが、触れた瞬間槍が砕け散った。
「残念だけど、そんな攻撃じゃこの鎧は壊せないよ。"土よ、無数の人となれ"」
俺とミリエラを取り囲むように何体ものゴーレムが創造されていく。
「"土よ、ゴーレムを貫く槍となりなさい"」
ゴーレムたちの足下から無数の槍が生え、彼らを貫く。だが。
「"土よ、無数の人となれ"」
更に大量のゴーレムが俺たちの前へ立ち塞がる。
「......まだ捕まえてなかったのか」
ゴーレムの群れの中に、仮面の男が気だるそうに現れた。
「っ!?」
「出たわね、仮面男!!」
「マグさんこそ、来るの遅かったんじゃない?」
「......とぼけるな、貴様が場所を教えなかったからだろ」
「マグさんなら一人でもたどり着けるだろうっていう、信頼だよ」
......またこの二人を相手に戦うのなら、俺たちが逃げ切れる可能性はほとんどゼロだ。
何か、打開策はないのか?
「"土よ、無数の槍の雨となれ"!!」
ミリエラは再び、頭上に幾つもの槍を生み出す。
「土よ、敵を縛る鎖となれ!!」
さっきとは違って、カールたちは対応してくるはず。ならば、先に動きを封じる!!
「残念だけど、ここまでだね」
「......魔法を使えぬ魔法使いほど無価値なものはないな」
俺の詠唱に、魔法が応えてくれることはなかった。




