鎧の巨体
爆風がマリユスたちを飲み込む寸前、カールが足下に簡易の防空壕を作りマリユスたちを爆発から守っていた。
「助かった、カール」
「ええ。本当にありがとう」
「お役に立てて何より。それより、何があったんだい?」
「簡単に言うと、ミリエラを狙う暗殺者が現れて盛大に自爆したってとこだな」
「なにそれ怖い」
「カールの方は、どうしてここに来たんだ?」
「あー、その事なんだけど。落ち着いて聞いてね」
「ん? ああ」
暗殺者からの襲撃を経験したばかりなのだから、しばらく何かに驚く事はなさそうだが。
「学校が謎の集団に占拠されちゃった」
「「は?」」
思いもよらぬ知らせに、俺とミリエラの困惑の声が重なった。
教室内の瓦礫の山に腰を下ろし、状況の整理を行うことにした。
「私たちがサディと戦っている間に何があったのか、カールが知っている限り教えてちょうだい」
「僕は、マリユスが教室の掃除を終えるのを図書室で待ってたんだ。そしたら、学校中の外につながる扉が塞がれてるって誰かが話してるのを聞いてね」
「なんですって?」
「それからすぐに、図書室の中に鎧を着た人たちが大勢入って来たんだ。僕は慌てて本棚の裏に隠れたんだけど、他の図書室にいた人はどこかへ連れて行かれちゃって」
「......ひとまず、学校から脱出する方法を探しましょう」
「それなら、普通に窓から出れば良いだろ? 幸い、誰かさんが出やすいようにしてくれるし」
そう言って俺が指差したのは、半壊した窓があったはずの壁だ。
「......そう上手くは行かないかも」
「なに?」
カールの目線の先を見ると、そこには全身を銀の鎧で覆った巨体がいた。兜に隠されて良く見えないが、おそらく俺たちを見ている。
「......あれが占拠の首謀者か?」
「正確には、首謀者の一人ってところだね」
鎧の巨体が一歩、こちらへ足を進めた。
「"火よ、球となれ"。"風よ、吹け"」
一瞬の判断が、生死を分ける。俺はすぐさま、鎧の巨体に向かって魔法をぶっ放す。
「......」
迫り来る火の球に、巨体はぴくりとも動かない。そして、火の球は巨体の腹部に直撃した。
「......良い鎧着てんじゃねえか」
火魔法を直に受けたはずの鎧には、焼け跡一つ付いていなかった。
「"土よ、鎧人間を縛る鎖となれ"!!」
巨体の足下から生えた土の鎖が、鎧の上から巨体を縛り付ける。
「......」
一捻り、鎧の巨体は全身を動かした。
すると、鎧の巨体を縛り付けていた鎖は瞬く間に弾け飛んだ。
「うっそでしょ!?」
「虚乳自爆女の次は、とんでも怪力人間かよ。なんて日だ」
また一歩、鎧の巨体が近づいてくる。
「"土よ、人となれ"」
カールが作り出したゴーレムが鎧の巨体の前に立ち塞がる。
「......!!」
ゴーレムの拳と鎧の巨体の拳が、ぶつかり合う。
「二人とも、今のうちに逃げよう!!」
鎧の巨体が入って来た方とは別の出入り口から教室の外へ出る。だが。
「どういうこと!? 廊下が全部行き止まりじゃない!!」
教室を出て右も左も窓も、全て土の壁で覆われていた。
「あれ? 僕が来た時はこんなの無かったのに」
「しょうがねえ、ぶっ壊して進むぞ!! "土よ、巨大な球となれ"!!」
「ああ、もう!! "土よ、壁をも壊す硬い球となれ"!!」
二つの巨大な球が形作られていく。
「二人ともごめん!! ゴーレム負けちゃったみたい!!」
背後からは鎧の巨体が迫っていた。
「マリユス、出来たわよ!!」
「"風よ、思いっきり吹っ飛ばせ"!!」
俺の手から生まれた豪風が、二つの巨大な球を吹き飛ばす。そして、道を塞いでいた壁は壊された。
「......逃げるぞ!!」
鎧の巨体に追いつかれる前に逃げなければ。
「......殺す」
「っ!?」
「"土よ、友を塞ぐ壁となれ"」
「は!? 何すんのよ、カール!!」
いつか感じた殺気が背後に迫り、唯一の友が目の前に高い壁を造った。
「動くな。さもなければ、殺す」
首筋に刃物が当てられている。今度は気のせいなんかじゃない。
でも今は、そんな事より。
「......カール、逃げ道を塞いでどうする?」
「ごめんね、マリユス。君をここから逃がすわけにはいかないんだ」
「なに言ってんだよ。逃げねえと、捕まっちまうだろ?」
「......マリユス、多分こいつは」
「黙れミリエラ。カールは俺たちを暗殺者から助けてくれたんだぞ?」
「......君を死なせるわけにはいかなかったからね。君を生かしたまま捕らえる、それが僕たち暗殺者ギルドの目的なんだ」
「嘘だろカール......!? 全部嘘なんだろ!?」
「黙れ、これ以上喋ったら殺す」
「お前は何なんだよ!! お前がカールを脅して、こんな事させてんのか!?」
「......忠告はした。殺す」
「ダメだよ、マグさん。殺すなら、そこの女の子にしとして」
「っ!? "土よ、仮面の男を縛る鎖となれ"!!」
「......魔法使いは、すぐ魔法に頼る」
背後の気配が消える。
「消えた!?」
「......俺が殺したいのは、レグウスの弟子なんだがな」
「っ、いつの間に後ろに!?」
振り向けば、ミリエラの首筋にナイフを当てた仮面の男の姿が目に入った。
「......お前らの目的は、師匠か? 俺を人質にでもするつもりか?」
「ご名答だよ、マリユス。だから安心して、僕たちは君を殺さない」
カールが右手を上げると、鎧の大男が俺の方へと歩み出た。
「......まさか、こいつゴーレムか?」
「またまた、ご名答。僕が作ったゴーレムに鎧を着せたんだ」
やけに無口だと思ったら、そもそも人間じゃなかったってわけか。
「......ふっざんな!!」
突然、ミリエラが仮面の男に回し蹴りを喰らわせる。
「っ、このガキ!?」
「"土よ、無数の槍となり降り注げ"!!」
ミリエラの詠唱と共に、頭上にいくつもの土の槍が生み出される。
「おいおい、自分たちもろとも串刺しにするつもりかい? "土よ、人となれ"」
俺の近くにゴーレムが生まれ、槍の雨から俺を守るように覆い被さる。
「マグさんは自分で身を守ってね!!」
そう言うカールは、既に鎧のゴーレムに守られていた。
「......言われなくともそうする」
そう言い残し、仮面の男は姿を消す。
「......今よ、マリユス!!」
今は逃げるのが最善。カールを問いただすのは、その後だ。
「"風よ、吹け"」
一陣の風が、俺とミリエラをその場から攫った。




