終幕
魔力が枯渇した。無理もない。サディに襲われてから連戦続きで、魔法を使い続けて来た。元々魔力総量の少ない俺にしては粘った方だ。
「......殺す」
仮面の男のナイフが首元に迫る。
「マリユス!!」
「"土よ、人となれ"」
その凶刃を防いだのは、カールが即座に生み出したゴーレムだった。
「......ちっ」
「殺すなって言ってるよね? さすがに僕も堪忍袋の尾が切れるよ?」
「"土よ、仮面の男を縛る鎖となれ"!!」
「......つまらん」
仮面の男は再び姿を消す。床から生えた土の鎖は誰もいなくなった空気を縛りつけた。
「......まずは、お前か」
「っ!? またあんたは後ろに......!?」
仮面の男はミリエラの背後に姿を現し、手に持つナイフをミリエラの首元に当てる。
「......レグウスの弟子よ。目を逸らさずに見ろ、お前の無力さが仲間を殺すところをな」
「っ、やめろぉ!!!!」
刃の先がミリエラの首に沈む。その時、ミリエラを狙った暗殺者の女、サディの言葉を思い出した。
『体内の魔力ぜ〜んぶ使って放つ魔法、それってどれほどの威力になるのかしらね?』
自然と唇は動いていた。
『"仮面の男を吹き飛ばせ"」
体の奥底で眠る、体外に出すほどもない魔力。その少しの水たまりのような魔力が、俺の詠唱に応えた。
仮面の男が反応するよりも速く、一陣の風が仮面の男を後方へ吹き飛ばす。
「......っ!?」
「わーお」
仮面の男は背中を壁に激突させ、その衝撃で仮面は男の顔から離れた。
仮面の向こうから現れたのは。
「なんで、あんたが......」
俺たちの担任教師、カラスリ先生だった。
「......君に近づくために、最も忌み嫌う魔法とやらの学舎で働くなど。反吐が出るほど不愉快だった」
「あーあ、バレちゃった。息も絶え絶えなマグさんの代わりに説明すると、マグさん改めマグ・カラスリは生粋のアンチ魔法使い。そして、最も嫌いなのが最強の魔法使いであるレグウス・ゴーシェン」
「だから俺を人質にして、師匠を殺そうってか? その程度で師匠が殺せるとでも?」
「ああ、殺せるさ。なんたって僕たちは世界最強の暗殺ギルド。あ、ちなみに既に君の師匠の方にも刺客は送られてるよ。僕たちはそっちが失敗した時用の保険。もしかしたら、もう師匠は殺されてるかもね?」
「......そんな訳ねえだろ。それに、お前らは俺がぶっ倒す」
「あはは!! やっぱり面白いな、マリユスは。ねえ、聞かせてよ?」
カールは初めてゴーレムの肩から降りて、俺へと近づく。そして、楽しそうに笑って言った。
「どうやって両腕が吹き飛んだ状態で僕を倒すつもりだい?」
「......」
サディが自分の命を犠牲にしたように、属性詠唱なしの魔法にはそれなりの犠牲が伴うようだ。そしてそれは、魔力がごく僅かでも同じ事だった。腕だけで済んでマシだったとも言える。
「"土よ、無数の人となれ"。残念だけど、マリユス。この勝負、僕の勝ちだ」
無限に生まれ続けるゴーレムに俺たちはなすすべもなく、蹂躙される。
「"炎よ、歪な土の人形を一つ残らず破壊してあげなさい"」
俺たちが絶望したその時、青い炎が全てのゴーレムを包み込んだ。
「何だい!?」
「......待たせてすまない、マリユス。あとは私に任せなさい」
その声を聞いて安心してしまった俺の意識は、そこでぷつりと途絶えた。
その後、意識が覚醒した俺が師匠から聞かされたのは以下の通り。
師匠を直接襲って来た暗殺者は時間はかかったが、全員返り討ちにした。
学園を占拠していたゴーレムの集団は師匠が一通り片付けた。
学園占拠の犯人の一人、仮面の男、マグ・カラスリは捕えられた。
もう一人、カールは師匠がゴーレムを片付ける間に姿を消していた。
「あなたが気に病む必要はありません。あなたは、しばらくは自分の体の事だけを考えなさい」
俺とミリエラは、俺の両腕を除いて無事に生き残った。
俺は両腕を失ったが、魔法を失ったわけではない。必ず俺は最強の魔法使いになり、全ての敗北を勝利に変えるつもりだ。




