第6話 距離のある皇子
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それでは本編をどうぞ。
神官に案内されながら、美桜は庭園へ向かっていた。
昨日会ったばかりのユリウスからの呼び出し。
理由は分からない。
けれど。
少しだけ楽しみな自分がいた。
庭園へ足を踏み入れた瞬間、美桜は思わず息を呑んだ。
「綺麗……」
色とりどりの花々。
手入れの行き届いた木々。
中央には大きな噴水。
まるで絵本の世界だ。
「気に入ったか」
声がした。
振り向くと、ユリウスが立っていた。
今日も黒髪に紫色の瞳。
相変わらず格好いい。
「はい!」
思わず元気よく返事をしてしまう。
ユリウスは少しだけ目を丸くした。
「そうか」
「……………………」
終わった。
美桜は瞬きをする。
終わった?
まだ挨拶しかしていない。
「えっと……」
「何だ」
「今日は良い天気ですね」
「そうだな」
「……………………」
終わった。
また終わった。
どうしてこの人は会話を終わらせるのがこんなに上手なんだろう。
美桜は、思わず口を閉じた。
するとユリウスが歩き出す。
「案内する」
「あ、はい」
二人は庭園を歩き始めた。
しばらく進むと、一角に鮮やかな赤い花が咲いているのが見えた。
とても綺麗だった。
思わず手を伸ばす。
その瞬間。
パシッ。
手首を掴まれた。
「触るな」
「ひゃっ!?」
美桜は飛び上がった。
顔を上げると、すぐ目の前にユリウスがいる。
近い。
近い近い近い。
心臓に悪い。
「ど、どうしたんですか?」
「毒だ」
「え?」
ユリウスは花を指差した。
「見た目は美しいが、強い毒を持つ」
美桜は慌てて手を引っ込める。
「怖っ!」
「見た目に騙されるな」
ユリウスは静かに花を見つめた。
「王宮も同じだ」
「誰も信用するな」
その横顔は少しだけ冷たく見えた。
どういうことだろう?
でも。
こうして危険な花を教えてくれたり。
忠告してくれたり。
やっぱり優しい人だと思う。
「あの」
美桜は話題を探した。
「ユリウス様は花がお好きなんですか?」
「別に」
終わった。
早い。
「庭園にはよく来るんですか?」
「来る」
終わった。
再び終わった。
美桜は心の中でため息をついた。
でも。
不思議と嫌ではなかった。
むしろ少し面白い。
あんなに格好いいのに。
会話は驚くほど下手だ。
思わず口元が緩む。
その時だった。
「あっ」
美桜は足を止めた。
黄色い花が咲いている。
「どうした」
「なんだか福寿草に似てる」
ユリウスが首を傾げた。
「フクジュソウ?」
「私のいた国の花です」
美桜は花を見つめながら言った。
「大切な人のこれからの日々に、たくさんの福が訪れますように」
「そんな願いを込めて贈る花なんです」
ユリウスは少し驚いたようだった。
「花に願いを込めるのか」
「はい」
美桜は笑う。
「素敵でしょう?」
しばらく沈黙が流れた。
やがてユリウスが口を開く。
「変わった風習だな」
「いい風習ですよ?」
美桜は胸を張った。
「私は好きです」
ユリウスは花へ視線を落とす。
どこか考え込んでいるようだった。
「もし福寿草だったら」
美桜はぽつりと言った。
「ユリウス様に贈りたかったな」
ユリウスが固まった。
「……私に?」
「はい」
美桜は当たり前のように頷く。
「だって良い人ですし」
言ったあとで気付いた。
あれ?
皇子相手に失礼だったかも。
慌てて言い直そうとした。
だが。
ユリウスは何も言わない。
ただ少しだけ目を伏せた。
そして。
「そうか」
小さく呟いた。
その声は。
なぜだか少しだけ嬉しそうに聞こえた。
風が吹く。
黄色い花が揺れる。
しばらくして。
ユリウスが花壇を見ながら言った。
「聖女」
「はい?」
「その花を持って帰るといい」
美桜は目を瞬いた。
「え?」
「福が来るのだろう」
真顔だった。
冗談を言っているようには見えない。
美桜は思わず吹き出した。
「そうですね」
ユリウスは少しだけ眉をひそめる。
「何がおかしい」
「ふふっ」
美桜は笑いながら首を振った。
「秘密です」
ユリウスは不満そうな顔をした。
けれど。
その顔はどこか年相応で。
昨日まで思っていた完璧な皇子とは少し違って見えた。
神に愛された第二皇子。
完璧超人。
誰もが憧れる存在。
だけど。
本当は。
少し不器用で。
少し寂しそうで。
優しい人なのかもしれない。
そう思った瞬間。
美桜の胸が小さく高鳴った。
気のせいだと思いたかった。
けれど。
その鼓動はなかなか収まってくれなかった。
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