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【完結】小説のバッドエンドを回避するため恋愛お預けで孤児院通いをしていたら断罪されました。でも地下牢を抜け出して神に愛された皇子を救ったら、なぜか溺愛されています  作者: 杜英智
最終章 それぞれの未来

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第30話 受け継がれた願い

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

翌日の朝。


美桜は自室の窓から空を眺めていた。


どこまでも青い空だった。


ローゼン公爵の事件は終わった。


王都は、まだ、混乱しているが、少しずつ落ち着きを取り戻すだろう。


「終わったんだなぁ……」


ぽつりと呟く。


正直。


まだ実感がなかった。


私は昨日。


この国を救った。


ユリウスを救った。


国の滅亡も防いだ。


そう言われても。


どこか他人事のように感じてしまう。


窓辺に腰掛ける。


思い返せば。


この世界へ来てから30日。


本当にあっという間だった。


最初は不安しかなかった。


ユリウスを救えるのか。


国を救えるのか。


そもそも自分に何ができるのか。


毎日必死だった。


でも。


終わってみれば。


不思議と悪くなかった気がする。


「これからどうなるんだろ……」


ふと考える。


前聖女セレスティア。


百年以上生きた聖女。


私も。


これから百年近く。


この世界で生きていくのだろうか。


友達も。


家族も。


元の世界も。


遠い記憶になってしまうのだろうか。


そう思うと。


少しだけ途方に暮れた。


その時だった。


コンコン。


部屋の扉が叩かれる。


「美桜」


聞き慣れた声だった。


「ユリウス様?」


慌てて扉を開く。


そこにはユリウスが立っていた。


顔色も良い。


毒殺された時が嘘のようだ。


「もう動いて大丈夫なんですか?」


「ああ」


ユリウスは頷く。


「自分でも驚いている」


「聖女の力とは、凄いものだな」


「力が体中から溢れてくる」


「へぇ……」


美桜は感心したように頷く。


聖女の力など自分でもよく分からない。


そういうものなのだろう。


「少し付き合ってほしい」


「時間はあるか」


「はい!」


美桜は元気よく答えた。


◇ ◇ ◇


二人は王宮の廊下を歩いていた。


差し込む午後の日差しが床を照らしている。


しばらく歩いた後。


ユリウスが口を開いた。


「まず礼を言わなくてはならない」


美桜は首を傾げる。


「礼?」


「助けてくれてありがとう」


真っ直ぐな言葉だった。


美桜は少し照れくさくなる。


「私はそんな……」


「本当に良かったです」


「ユリウス様が死ななくて」


ユリウスは少しだけ目を細めた。


「だが」


「なぜ分かった?」


「私の身に何かが起きると」


美桜の肩がぴくりと動く。


本当のことは言えない。


小説の未来を知っていたから。


そんなこと説明しても理解できないだろう。


「聖女の勘です」


少し考えた末。


それだけ答えた。


ユリウスはしばらく黙っていたが


何かを悟ったのか


それ以上は追及しなかった。


「そうか」


それだけだった。


やがて。


二人は大きな扉の前で足を止めた。


「ここだ」


重厚な扉がゆっくり開く。


中は広い部屋だった。


壁一面に本棚が並んでいる。


古い机。


美しい調度品。


窓からは柔らかな光が差し込んでいた。


どこか温かい空気を感じる。


「この部屋は?」


「母の部屋だった」


美桜は目を瞬いた。


「え?」


ユリウスは部屋の奥へ歩く。


そして。


一枚の巨大な肖像画の前で立ち止まった。


「これが」


「前聖女セレスティア」


「私の母だ」


美桜は息を呑んだ。


銀色の髪。


優しそうな微笑み。


美しい女性だった。


どこかユリウスに似ている。


そこまで考えた時だった。


美桜は目を見開く。


「ん……」


忘れるはずがない。


あの日。


この世界へ来る前に会った女性。


『私のユリウスを助けてくれない?』


あの人だった。


「どうした?」


ユリウスが不思議そうに尋ねる。


美桜は肖像画を指差した。


「この人です!」


「私をここへ呼んだ人!」


ユリウスが固まる。


「何?」


美桜は興奮気味に話し始めた。


召喚された日のこと。


銀髪の女性のこと。


ユリウスを助けてほしいと言われたこと。


神様だと思っていたこと。


全てを話した。


話し終える頃には。


部屋は静まり返っていた。


ユリウスは肖像画を見上げる。


「母上が……」


小さく呟く。


しばらく沈黙が流れた。


やがて。


ユリウスは温かいものを感じた


「私を助けるために、美桜を…」


「はい」


肖像画を見つめる。


その表情はどこか穏やかだった。


「だが」


ユリウスは静かに言った。


「君を巻き込んでしまった」


「すまない」


美桜は首を横に振る。


「そんなことありません」


「大変でしたけど」


「後悔はしてません」


ユリウスは、その笑顔から目を離せなかった。


美桜がふと視線を上げる。


ユリウスと目が合った。


思わず照れ笑いを浮かべる。


その時だった。


ユリウスが懐中時計を取り出す。


「そろそろだな」


「?」


「出かけよう」


◇ ◇ ◇


二人は王宮を出た。


向かった先は馬小屋だった。


一頭の黒馬が鼻を鳴らす。


艶やかな黒い毛並み。


美しい馬だった。


「格好いい……」


思わず見惚れる。


ユリウスが黒馬の首を撫でた。


「私の愛馬だ」


そして。


当然のように手を差し出す。


「乗れ」


「はい?」


美桜は固まる。


「えっ」


「私、馬なんて乗ったことありませんけど」


次の瞬間。


ひょい。


「きゃっ!?」


気付けば馬の上だった。


ユリウスもその後ろへ跨る。


「よし」


「行こう」


「問答無用なんですね!?」


返事の代わりに。


馬が走り出した。


風が頬を撫でる。


最初は怖かった。


だが。


ユリウスが後ろから支えてくれている。


不思議と安心できた。


やがて。


視界が大きく開ける。


「着いた」


目の前に広がる景色を見て。


美桜は思わず息を呑んだ。


王都が一望できる。


夕日に染まる街並み。


輝く海。


茜色の空。


全てが美しかった。


「綺麗……」


自然と声が漏れる。


ユリウスは景色を見つめた。


「ここは」


「母上のお気に入りの場所だ」


風が吹く。


夕日が二人を照らした。


「母上はよく言っていた」


「この景色を守るために聖女になったのだと」


美桜は王都を見つめる。


あの日。


守ろうと決めた国。


そこには確かに人々の暮らしがあった。


笑う人。


働く人。


生きる人。


守れて良かった。


そう思った。


「美桜」


名前を呼ばれる。


振り返る。


紫色の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。


「お前は」


「私の命の恩人だ」


美桜は照れたように笑う。


「私はそんな……」


ユリウスは静かに首を振った。


「君が来てくれて」


「本当に良かった」


その声は。


今まで聞いたどんな言葉よりも優しかった。


そして。


ユリウスは微笑む。


今まで一度も見せたことのない。


穏やかで。


温かくて。


幸せそうな笑顔だった。


美桜の心臓が大きく跳ねる。


「私一人では」


「こうはならなかった」


「きっと」


「国も」


「父上も」


「私は救えなかった」


少しだけ間が空く。


「ありがとう」


たった一言。


なのに。


胸が苦しくなるほど嬉しかった。


夕風が二人の間を静かに吹き抜ける。


「美桜」


ユリウスが静かに口を開いた。


「聞いてほしい」


「最初は」


「突然この世界へ召喚された、哀れな聖女だと思っていた」


「だが違った」


「お前はこの国を知ろうとした」


「民のために動き」


「王と向き合い」


「私を救い」


「この国まで救ってくれた」


「もし私がお前の立場でも」


「同じことができたとは思えない」


「私は」


「お前を心から尊敬している」


美桜は耳まで真っ赤になった。


「ユ、ユリウス様……」


「そんな……」


「褒めすぎです……」


恥ずかしくて顔を上げられない。


心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。


「私は何度も考えた」


「この気持ちは何なのだろうと」


「尊敬だけでは説明できなかった」


ユリウスは一歩近づく。


「美桜」


名前を呼ばれる。


それだけで胸が跳ねた。


「もし」


「お前が嫌でなければ」


「これからも」


「私の隣にいてほしい」


美桜はゆっくり顔を上げる。


紫色の瞳が。


真っ直ぐ自分だけを見つめていた。


その熱に。


息が止まる。


ユリウスは静かに片膝をついた。


「私は」


一度だけ息を吸う。


「お前を愛している」


その一言で。


美桜の思考が止まった。


「美桜」


「私と結婚してほしい」


頭が真っ白になる。


え。


え?


結婚?


いま……


結婚って言った?


「えっ……」


「えぇっ!?」


顔が一気に熱くなる。


「そ、その……」


「あの……」


「わ、私……っ」


口がぱくぱくするだけで。


言葉が一つも出てこない。


心臓がうるさい。


鼓動が耳まで響いている。


どうしよう。


どうしよう。


どうしよう!


ユリウスはそんな様子を見て。


思わず小さく笑った。


「返事は急がなくていい」


「気長に待つ」


そう言って立ち上がる。


美桜は真っ赤な顔のまま固まっていた。


「……帰るぞ」


「は、はいっ!」


返事まで裏返る。


ユリウスはまた小さく笑う。


その笑顔を見るだけで。


胸がまた苦しくなった。


二人は並んで歩き始める。


夕焼けに伸びる二つの影。


言葉はない。


それでも。


沈黙は少しも気まずくなかった。


美桜はちらりと隣を見る。


同じタイミングで。


ユリウスもこちらを見ていた。


「……っ!」


慌てて目を逸らす。


(無理無理無理……!)


(結婚って言われたぁぁぁ!!)


頭の中は。


その言葉だけでいっぱいだった。


夕焼けの風が。


そっと二人の間を吹き抜ける。


この世界へ来た日。


帰りたいと泣いていた自分がいた。


でも今は違う。


ここには。


守りたい景色がある。


守りたい人がいる。


そのことに気付いた瞬間。


胸の奥が。


ふわりと温かくなった。


この世界へ呼ばれたことも。


ユリウスに出会えたことも。


きっと――


全部。


意味があったのだ。


ここまで読んでくださりありがとうございます!


挿絵(By みてみん)


今回はプロポーズイラストでした。


次は34話に、イラストを載せたいと思っています。



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