第3話 神に愛された第二皇子
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それでは本編をどうぞ。
翌朝。
美桜は神官に案内されながら神殿の廊下を歩いていた。
昨日は異世界に召喚された衝撃で何も考えられなかった。
だが一晩眠った今。
状況は何一つ改善していない。
帰れないかもしれない。
知らない世界。
知らない人たち。
そして。
頭の悪い皇太子との婚約話。
思い出しただけで頭痛がする。
「聖女様、こちらでございます」
神官が立ち止まった。
目の前には巨大な扉。
両開きの重厚な扉がゆっくり開かれる。
美桜は思わず息を呑んだ。
広い。
天井まで届く柱。
色鮮やかなステンドグラス。
中央には巨大な神像。
神殿の中心部らしい。
「ここは祈りの間です」
「へぇ……」
美桜は見回した。
その時だった。
周囲の神官たちが一斉に頭を下げる。
「第二皇子殿下」
美桜は反射的に振り返った。
そして固まる。
黒髪。
長い睫毛。
整った顔立ち。
すらりとした長身。
そして。
宝石のような紫色の瞳。
間違いない。
昨日読んだ小説に出てきた人物。
神に愛された第二皇子。
ユリウス・アルヴェイン。
「ユリウス……」
思わず名前が漏れた。
しまった。
口に出してしまった。
ユリウスは足を止める。
紫色の瞳がこちらを向いた。
「私の名を知っているのか」
低く落ち着いた声だった。
美桜は慌てる。
初対面のはずだ。
どうしよう。
「あ、その……有名なので」
苦しい。
自分でも苦しいと思う。
ユリウスは少しだけ眉を上げた。
「そうか」
短い。
だが追及はしてこなかった。
助かった。
いや助かっていない。
緊張で心臓がうるさい。
だって本物だ。
昨日まで本の中の人物だった人が目の前にいる。
しかも。
想像以上に格好いい。
どうしよう。
すごく話しづらい。
沈黙が流れる。
先に口を開いたのはユリウスだった。
「聖女」
「は、はい」
「昨日召喚されたそうだな」
「そうです」
「災難だったな」
美桜は目を瞬いた。
思わぬ言葉だった。
昨日から会う人会う人、
おめでとうございます。
神の祝福です。
素晴らしいことです。
そんなことばかり言っていた。
なのに。
この人だけ違った。
「え?」
「突然知らない世界へ連れて来られたのだろう」
ユリウスは窓の外へ視線を向ける。
「喜べと言われても困る」
その言葉に。
美桜は胸が熱くなった。
分かってくれた。
初めて。
この世界で初めて。
自分の気持ちを理解してくれる人に会った気がした。
「そうなんです」
思わず声が大きくなる。
「昨日まで普通に学校行ってたんですよ」
「学校?」
「あ、勉強するところです」
「なるほど」
ユリウスは頷いた。
「家族も友達もいるのに、いきなり知らない場所に連れて来られて……」
そこまで言って美桜は口を閉じた。
なんでだろう。
初対面なのに。
つい本音が出てしまった。
ユリウスはしばらく黙っていた。
やがて静かに言う。
「無理はするな」
それだけだった。
慰めの言葉でもない。
励ましでもない。
けれど。
不思議と心が軽くなった。
「あの」
ユリウスが歩き出そうとする。
美桜は慌てて声をかけた。
ユリウスが振り返る。
「またお話ししてもいいですか?」
言ってから後悔した。
変だっただろうか。
馴れ馴れしかっただろうか。
相手は皇子だ。
自分とは住む世界が違う。
だが。
ユリウスは少し驚いた顔をしたあと。
ほんのわずかに口元を緩めた。
「好きにするといい」
そう言って歩き去っていく。
神官たちも後に続く。
やがて姿が見えなくなった。
静かになった祈りの間で。
美桜は一人立ち尽くす。
昨日読んだ小説では。
もっと近寄りがたい人物だと思っていた。
完璧で。
冷たくて。
高嶺の花のような存在。
でも。
実際は違った。
少なくとも。
あの皇太子よりはずっと優しい。
「 …………… 」
なんだろう。
少しだけ。
また話したいと思った。
そんなことを考えている自分に気付き、
美桜は慌てて首を振る。
「何考えてるの私」
相手は皇子様だ。
住む世界が違う。
それなのに。
ユリウスの言葉が頭から離れなかった。
――無理はするな。
たった一言なのに。
なぜか胸の奥に残っていた。
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