第28話 あの日の約束
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それでは本編をどうぞ。
光に包まれた世界の中で。
ローゼンは立ち尽くしていた。
懐かしい風。
懐かしい匂い。
忘れたはずの景色だった。
「ローゼン!」
元気な声が響く。
振り返る。
そこには若き日の王と。
銀色の髪を揺らすセレスティアがいた。
まだ三人とも若かった頃。
◇ ◇ ◇
「伝染病が流行っているんです!」
セレスティアが机を叩いた。
「迅速な対応を!」
「国民を守るのは王の義務です!」
王は頭を抱える。
「だがなぁ……」
「誰も伝染病の村へ行きたがらんのだ」
「感染力が高すぎる」
「少し様子を見た方が――」
「なりません!」
セレスティアが即座に遮る。
「放置して収まるなどありえません!」
「さらに被害が拡大してしまいます!」
ローゼンも腕を組んだ。
「確認された地区は即座に隔離」
「人の移動を制限するべきです」
「その後、セレスティアの聖水を配布」
「患者には薬と食料」
「寝床も必要でしょう」
セレスティアが大きく頷く。
「そうです!」
「これは非常事態です!」
ローゼンも身を乗り出した。
「非常事態ですぞ!!」
左右から怒鳴られ。
王は顔を引きつらせる。
「近い近い近い!」
「分かった!」
「分かったから!」
「すぐに準備させる!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
王城のバルコニー。
赤く染まる空を眺めながら。
三人は並んで立っていた。
「今回も被害が少なく済んだ」
王が微笑む。
「二人のおかげだ」
セレスティアは首を振った。
「いいえ」
「王が決断してくださったからです」
ローゼンも頷く。
「我々は補佐に過ぎません」
王は苦笑した。
「お前達がいなければ私は何もできん」
三人は顔を見合わせる。
そして笑った。
あの日。
確かに三人は同じ未来を見ていた。
◇ ◇ ◇
小ぶりの雨が降っていた。
すすり泣く声が
王都に響く……
国中から愛された聖女。
セレスティアの葬儀の日だった。
白い花で埋め尽くされた墓の前。
王は静かに立っていた。
その隣にはローゼン。
長い沈黙の後。
王が口を開く。
「私は」
「ユリウスを次の王にしようと思う」
ローゼンが顔を上げた。
「本気ですか」
「本気だ」
王は墓石を見つめたまま続ける。
「ユリウスは優秀だ」
「誰よりも王に相応しい」
「そして」
「セレスティアの大切な息子だ」
ローゼンは首を横に振る。
「なりません」
王が振り返る。
ローゼンは真っ直ぐ王を見据えた。
「ユリウスを王にすれば」
「貴族達は二つに割れる」
「カイル派とユリウス派の争いが始まる」
「国は荒れるでしょう」
王は眉をひそめる。
「それでもだ」
ローゼンはさらに続けた。
「セレスティアもそんなことは望まない」
「国を守るためなら」
「カイル皇子を王にするべきです」
王の表情が厳しくなる。
「私の決意は変わらん」
ローゼンは目を閉じた。
そして。
静かに頭を下げる。
「残念です」
「彼女がいない今」
「我々の道は交わらないようだ」
王は何も答えなかった。
背を向ける。
その時。
ローゼンがそっと手を伸ばした。
「貴方の間違いを正せるのは」
「私しかいない」
ローゼンの手から現れた黒い光が王の体へ吸い込まれる。
王が振り返る。
「何をするつもりだ」
「許してください」
ローゼンはそう呟いた。
王の瞳から光が消え、
その場に崩れ落ちる。
雨音だけが静かに響いていた。
そして。
世界が黒く染まる。
そこで記憶は途切れた。
◇ ◇ ◇
「違うわ」
優しい声が響く。
ローゼンが振り返る。
そこには。
セレスティアが立っていた。
生前と変わらぬ笑顔で。
「セレスティア……」
震える声。
セレスティアは悲しそうに微笑んだ。
「ローゼン」
「どうしてそんなに一人で背負い込んでしまったの?」
ローゼンは首を振る。
「私は……」
「私は貴方の願いを叶えたかった」
「貴方が愛した国を守りたかった」
「だから……!」
セレスティアは静かに首を横に振る。
「違うわ」
ローゼンの言葉が止まる。
「私は」
「カイルを王にしてほしいとも」
「ユリウスを王にしてほしいとも」
「一度も言っていない」
ローゼンの目が見開かれる。
「そんな……」
セレスティアは続けた。
「カイルも」
「ユリウスも」
「どちらも大切な子よ」
「私が願ったのは」
「誰か一人が王になることじゃない」
「王と」
「貴方と」
「そして次の世代が」
「互いに支え合うことだった」
遠い昔。
夕暮れの城の上。
三人で笑い合った日々。
あの頃と同じ笑顔だった。
「王が間違えた時は貴方が正す」
「貴方が間違えた時は王が正す」
「それが私の願いだったの」
ローゼンの肩が震える。
「私は……」
「何を……」
セレスティアは一歩近付く。
「ねぇ」
「ローゼン」
昔と同じ声だった。
優しくて。
温かくて。
そして少しだけ厳しい。
「貴方の間違いは」
「誰が正してくれるの?」
その言葉は。
どんな攻撃よりも深く突き刺さった。
ローゼンは崩れ落ちる。
声にならない嗚咽が漏れる。
セレスティアはしゃがみ込み。
昔と同じように微笑んだ。
「私はユリウスに死んでほしくない」
「貴方にも死んでほしくない」
「どうか分かって」
「私の最後のわがままを」
光が溢れ始める。
セレスティアの姿が少しずつ薄れていく。
「みんなの心を正しい道へ導けるのは」
「貴方だけよ」
涙で滲む視界の中。
セレスティアは最後に笑った。
「ローゼン」
「信じてるわ」
その言葉を最後に。
世界は光に包まれた。
◇ ◇ ◇
気付けば。
ローゼンは元の部屋へ戻っていた。
頬を伝う涙。
震える手。
目の前には。
ユリウス。
カイル。
ラシス。
そして美桜。
ローゼンは力なく膝をつく。
もう。
戦う気力は残っていなかった。
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