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第27話 前聖女の願い

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

巨大な黒い渦が膨れ上がっていく。


美桜は息を呑んだ。


分かる。


あれは危険だ。


危険なんて言葉では足りない。


もし放たれれば。


この部屋どころでは済まない。


王宮ごと吹き飛ぶ。


いや。


王都にまで被害が及ぶかもしれない。


圧倒的な力だった。


そして。


公爵自身も無事では済まないはずだった。


「やめて……」


震える声が響く。


ラシスだった。


床に倒れたまま。


必死に手を伸ばしている。


「やめてください……」


涙が零れる。


「お父様!!」


叫びにも似た声だった。


だが。


公爵は止まらない。


黒いエネルギーはさらに膨れ上がる。


まるで世界そのものを飲み込もうとしているかのように。


その時だった。


『力を貸して』


声が聞こえた。


美桜は目を見開く。


あの優しい声。


前聖女だった。


『ユリウスにあなたの力を重ねて』


『もう一度矢を放つの』


『ユリウスの中には私の力がある』


『そこにあなたの力が加われば』


『今度は消されない』


『私の想いが届くはずよ』


「前聖女様……」


自然と涙が滲む。


『お願いね』


美桜はユリウスを見た。


「ユリウス様!」


ユリウスが振り返る。


「前聖女様が!」


「お母様が力を貸してくれるって!」


ユリウスの瞳が揺れた。


「……母上が?」


信じられないものを見るような顔だった。


「もう一度矢を放ってください!」


「今度は絶対に届きます!」


美桜の瞳は真剣だった。


ユリウスは静かに頷く。


「分かった」


美桜は両手を差し出した。


光が溢れる。


体の奥から力が流れ出す。


苦しい。


立っているのも辛い。


それでも止めない。


自分の中の全てを注ぎ込む。


「お願い……!」


光がユリウスを包み込む。


眩いほどの光。


前聖女の力。


聖女の力。


二つの光が重なっていく。


ユリウスは弓を構えた。


銀色の弓。


そこへ。


今までとは比べ物にならないほどの光が集まっていく。


空気が震える。


誰もが息を呑んだ。


公爵ですら動きを止める。


「何だ……?」


ユリウスは弓を引いた。


限界まで。


全てを込める。


そして。


公爵を見据えた。


「ローゼン公爵」


静かな声だった。


「母の想いを――」


光が弾ける。


「受け取れ!!」


指が離された。


放たれた矢は。


光そのものだった。


一直線。


迷いなく。


黒い渦を切り裂いていく。


公爵の目が見開かれる。


「なに……!?」


黒い力が飲み込もうとする。


だが。


止まらない。


消えない。


砕けない。


「馬鹿な!!」


矢はさらに加速する。


そして。


公爵の胸へ突き刺さった。


轟音。


光が爆発した。


世界が真っ白に染まる。


遠い記憶。


忘れたはずの笑顔。


優しい声。


懐かしい笑い声。


『あら』


その声に。


ローゼン公爵の体が震える。


『ローゼン』


呆れたような。


でも優しい声。


『貴方ってそんなに分からず屋だったかしら?』


その瞬間。


公爵の瞳から涙が零れ落ちた。

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