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第25話 本当の黒幕

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

「この皇子……最強すぎる……」


美桜の呟きが静かに響く。


誰も否定しなかった。


ユリウスは小さく首を振る。


「違う」


静かな声だった。


「美桜」


突然名前で呼ばれ、


美桜は思わず顔を上げる。


え……。


今。


名前で呼んだ?


どうして。


それだけでこんなに嬉しいんだろう。


美桜は自分でも分からないまま。


頬が少し熱くなるのを感じていた。


「お前の力がなければ勝てなかった」


「え?」


「父上も」


「私も」


「お前が救ってくれた」


美桜は慌てて首を振る。


「そんな!」


「私は何も――」


「いいや」


ユリウスは静かに遮った。


「こんな戦いに」


「お前を巻き込んでしまった」


「……すまない」


その紫の瞳は。


真っ直ぐ美桜だけを見つめていた。


熱を帯びたような。


優しい眼差し。


美桜は少し照れくさそうに笑う。


「謝らないでください」


「私は私の意思でここにいるんです」


その笑顔を見た瞬間。


ユリウスは胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。


……守りたい。


その想いだけが自然と浮かんだ。


だが。


美桜を失う未来だけは。


もう二度と見たくないと思った。


ラシスは膝をついたまま動けない。


カイルはその場に座り込んでいた。


全てが終わったかのように思えた。


だが………


ラシスは震える手で扇を拾い上げる。


折れた扇。


自分の象徴だった。


完璧だった自分。


失敗しなかった自分。


父に認められると信じていた自分。


全てがそこにあった。


ラシスは静かにそれを見つめる。


そして。


パキッ。


残った骨を自ら折り、

床に投げ捨てた


乾いた音が響いた。


「終わりですわね……」


かすれた声だった。


だが。


次の瞬間。


ラシスはふらりと立ち上がった。


エレナの表情が変わる。


「まずい!」


「離れなさい!」


黒い光がラシスの足元から溢れ出す。


今までとは比較にならない。


禍々しい力だった。


美桜の顔から血の気が引く。


分かる。


聖女の力を使った今だからこそ分かる。


ラシスの命が燃えている。


このままでは死ぬ。


「ラシスさん!」


美桜が叫ぶ。


だが。


ラシスは首を横に振った。


どこか吹っ切れたように。


どこか壊れたように。


静かに笑う。


「ええ」


「終わりですわ」


黒い光が激しく渦を巻く。


床が割れる。


窓ガラスが震える。


空間そのものが悲鳴を上げているようだった。


ユリウスが前へ出る。


カイルも立ち上がる。


全員が身構えた。


ラシスは寂しそうに微笑んだ。


「皆様」


静かな声だった。


「私と一緒に――」


黒い光がさらに膨れ上がる。


「――あの世へ行っていただけますか?」


轟音。


黒い渦がラシスを包み込もうとする。


その瞬間だった。


パチ。


パチ。


パチ。


突然。


場違いな音が響いた。


拍手だった。


黒い渦が止まる。


全員が息を呑んだ。


「……え?」


美桜は思わず声を漏らす。


こんな状況で。


拍手?


ゆっくりと入り口へ視線を向ける。


そして。


息を呑んだ。


そこには。


ローゼン公爵が立っていた。


穏やかな笑みを浮かべながら。


まるで劇を観賞していたかのように。


優雅に拍手を続けている。


パチ。


パチ。


パチ。


「よく頑張りましたね」


静かな声だった。


だが。


その場にいる誰よりも恐ろしく聞こえた。


「お父様……」


ラシスの瞳が揺れる。


助かった。


そう思った。


父なら何とかしてくれる。


ずっとそうだった。


だが。


ローゼン公爵の第一声は違った。


「失敗しましたか」


ラシスの表情が固まる。


ローゼン公爵は淡々と続けた。


「まあ構いません」


「元々成功率は高くありませんでしたから」


静まり返る部屋。


ラシスは言葉を失った。


「お父様……?」


ローゼン公爵は娘を見ない。


ユリウスを見ていた。


「流石ですね」


「前聖女の血は伊達ではない」


ユリウスの目が細くなる。


「貴様か」


ローゼン公爵は笑った。


否定しない。


それだけで十分だった。


カイルの顔が青ざめる。


「まさか……」


ローゼン公爵は肩をすくめる。


「さて、何のことでしょう」


ラシスが震える声を出す。


「どうして……」


「お父様……どうして……」


ローゼン公爵はようやく娘を見る。


その目は冷たい。


「ラシス」


「お前は国のために生きた」


「父として誇りに思う」


即答だった。


迷いはない。


「利用できるものは全て利用する」


「それが国を背負う者の責任です」


誰も言葉を返せない。


ローゼン公爵は続ける。


「友であろうと」


「家族であろうと」


「我が身であろうと」


「例外はありません」


ラシスの顔から血の気が引いた。


「私も……」


声が震える。


「私も利用したのですか……?」


ローゼン公爵は静かに微笑む。


「よく働いてくれました」


その瞬間。


ラシスの世界が崩れた。


ユリウスが一歩前へ出る。


ローゼン公爵と向き合う。


二人の間に緊張が走る。


今までの敵とは違う。


美桜にも分かった。


ラシスとは比べものにならない。


本当の敵が現れたのだと。


ローゼン公爵は優雅に一礼した。


「ユリウス皇子」


「あなたは確かに強い」


その笑みが深くなる。


「ですが」


「安心してください」


「ここまでは予定通りです」


部屋の空気が震えた。


美桜はごくりと唾を飲み込む。


そして悟った。


ラシスは駒だった。


本当の黒幕は――。


ローゼン公爵。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


挿絵(By みてみん)


今回はラシスのイメージイラストでした。


「こんな顔をしていたのか」と楽しんでいただけたら嬉しいです♪


今後は30話と34話に、挿絵を載せようと思っています。


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