第23話 黒い誘惑
読みに来てくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
「……泣くな」
ユリウスの言葉に。
美桜はさらに泣いた。
ユリウスは困ったように小さく息を吐く。
それでも。
自分へしがみついて泣く美桜を見つめる瞳は。
どこか愛おしそうだった。
本当に危なかったのだ。
もう少し遅ければ。
助からなかった。
ようやく落ち着きを取り戻した美桜はふと思う。
「そういえば」
顔を上げる。
「お茶に毒が?」
ユリウスは少しだけ眉を動かした。
「毒ではない」
「え?」
「私は毒では死なない」
美桜は固まる。
「はい?」
ユリウスは当然のように続けた。
「幼い頃から少しずつ慣らしている」
「大抵の毒は効かない」
「怖っ」
思わず本音が漏れた。
エレナも同意見だった。
「今回のも毒ではない」
ユリウスは床に落ちたカップを見る。
「あれは毒に見せかけた呪いだ」
「呪い?」
「黒魔法だ」
部屋の空気が変わった。
エレナの表情も険しくなる。
「黒魔法……」
「その強大な破壊力と引き換えに」
「術者自身の命を削る禁術です」
美桜は息を呑んだ。
「そんなの使える人がいるんですか……?」
「ほとんど存在しません」
エレナは即答する。
「だからこそ問題なのです」
沈黙が落ちた。
誰かが。
命を削ってまで。
ユリウスを殺そうとした。
その時だった。
パチン。
静かな音が響く。
扇を閉じた音?
「まぁ」
優雅な声が響いた
「まだ生きているなんて」
「しぶといんですのね」
全員が振り返る。
扉の前。
そこに立っていたのはラシスだった。
美しい笑み。
優雅な立ち姿。
扇で口元を隠している。
だが。
その瞳だけは笑っていなかった。
「神に愛された証拠なんですの?」
美桜は目を見開く。
「ラシスさん……?」
ラシスは答えない。
ただ。
ユリウスを見つめていた。
憎しみすら感じるほど冷たい目だった。
「聖女様までいらっしゃるなんて」
「本当に計算外ですわ」
小さくため息を吐く。
「本当に残念ですわ」
「あと少しでしたのに」
「ラシス!」
カイルの怒鳴り声が響いた。
いつの間にか部屋へ駆け込んできていた。
「お前……!」
拳を握り締める。
「私を騙したな!!」
ラシスは笑った。
心底楽しそうに。
「騙される方が悪いんですのよ」
その一言に。
カイルの顔色が変わる。
ラシスはもう隠そうとしなかった。
優雅な令嬢の仮面は剥がれ落ちていた。
「失敗したとはいえ」
「ユリウス皇子は弱っている」
「まだ間に合いますわ」
エレナが前へ出る。
「ラシス」
「やめなさい」
ラシスは首を振った。
「嫌ですわ」
静かな声だった。
だが。
狂気が滲んでいた。
「私の命などどうなっても構いません」
「全ては国のため」
「全ては未来のため」
「そして――」
ラシスの足元に。
禍々しい魔法陣が浮かび上がる。
黒い光が渦を巻く。
部屋の空気が震えた。
エレナの顔色が変わる。
「まずい!」
ラシスは両手を広げた。
まるで舞台の主役のように。
美しく。
狂ったように笑う。
「申し訳ありません」
「ですが、これが王国のためなのです」
轟音と共に。
巨大な魔法陣が完成した。
読んでくださってありがとうございます!
毎日少しずつ更新しています。
「続きが気になる!」と思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!
次回もよろしくお願いします!




