第22話 死の運命
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それでは本編をどうぞ。
第22話 死の運命
翌朝。
美桜はほとんど眠れなかった。
冷たい石壁にもたれながら考える。
断罪。
牢屋。
その後――
その後……?
血を吐いて倒れるユリウス。
神の怒り。
国の滅亡。
美桜は目を見開いた。
「ユリウス様の死……!」
小説の中では。
聖女が断罪された翌日。
ユリウスは毒殺された。
「今日だ……」
胸が締め付けられる。
犯人は分からない。
方法も分からない。
場所も分からない。
それでも。
今日だけは絶対に目を離してはいけない。
「ユリウス様のところへ行かなきゃ……!」
心臓が激しく鳴る。
冷や汗が背中を伝った。
その時だった。
地下牢へ続く階段から足音が聞こえてきた。
現れたのはカイルだった。
「聖女」
美桜は顔を上げる。
「怒っているのは分かる」
「だが少しだけ辛抱してくれ」
「三日後には解放する」
「誤解だと分かれば終わる」
「私もそうなるよう動く」
美桜は小さく頷いた。
「……分かりました」
今はそんな話をしている場合ではない。
だが。
説明しても信じてもらえない気がした。
カイルは少し安心したように頷く。
「必ず解決する」
そう言い残し去っていった。
しばらくして。
再び足音が聞こえてくる。
今度はエレナだった。
「エレナ先生!」
美桜は鉄格子へ駆け寄った。
その必死な様子に。
エレナの表情が変わる。
「どうしました?」
「お願いです」
「信じてください」
「ユリウス様が危ないんです」
エレナの眉が動く。
「どういう意味ですか?」
「上手く説明できません」
「でも今日なんです」
「今日、何かが起きます」
「お願いです」
「信じてください」
沈黙。
やがてエレナが尋ねた。
「根拠は?」
「ありません」
普通なら終わりだった。
だが。
エレナは美桜を見つめ続ける。
孤児院でのこと。
王との謁見。
これまでの出来事が脳裏をよぎる。
そして。
「……本気なのですね」
「はい」
美桜は強く頷いた。
エレナは小さく息を吐く。
「分かりました」
「責任は私が取ります」
鍵が差し込まれる。
ガチャリ。
牢の扉が開いた。
「行きますよ」
美桜は勢いよく飛び出した。
◇ ◇ ◇
二人は足早に王宮の廊下を進む。
「本来なら、このようなことは許されません」
走りながらエレナが静かに言う。
「ですが」
「ユリウス殿下も、今朝から何度も美桜様のことを尋ねておられました」
美桜は思わず足を止めそうになる。
「え……?」
「今の殿下なら」
「きっと信じてくださるでしょう」
その言葉に。
美桜はもう一度走り出した。
遅かったらどうしよう。
手遅れだったら。
嫌な考えばかり浮かぶ。
そして。
扉が開いた。
「ユリウス様!」
ユリウスは机に向かって書類を読んでいた。
美桜を見るなり立ち上がる。
「牢を出たのか」
その声には珍しく焦りが滲んでいた。
生きていた。
美桜は大きく息を吐く。
間に合った。
そう思った。
――その時までは。
ユリウスは怪訝そうな顔をする。
「どうした」
「今日、絶対に気を付けてください!」
「何があった」
「分かりません!」
「でも今日なんです!」
「今日、絶対に何かが起きます!」
「お願いです!」
「信じてください!」
部屋が静まり返る。
ユリウスは美桜を見つめた。
そして。
静かに頷く。
「……分かった」
美桜は目を見開く。
「え?」
「お前がそう言うなら」
その一言だった。
理由は聞かない。
証拠も求めない。
ただ。
信じると決めた。
美桜は思わず息をのむ。
その時だった。
コンコン。
「お茶をお持ちしました」
侍女が部屋へ入ってくる。
テーブルへ静かにお茶を置いた。
少しだけ空気が和らぐ。
ユリウスはカップへ手を伸ばした。
美桜の胸がざわつく。
何か。
何か引っ掛かる。
「ユリウス様!」
思わず叫ぶ。
だが。
ほんの一瞬。
遅かった。
ユリウスはカップへ口を付ける。
一口。
飲んだ。
「っ!」
次の瞬間。
ゴホッ。
カップが揺れる。
ゴホッ!
赤い血がこぼれた。
「え……?」
ユリウスの顔色が一瞬で青ざめる。
次の瞬間。
大量の血を吐いた。
ガシャン!!
カップが床へ落ちる。
伸ばした手が宙を彷徨う。
そして。
力なく倒れた。
「ユリウス様!!」
美桜が駆け寄る。
反応がない。
呼びかけても動かない。
唇は紫色へ変わっていた。
「いや……」
頭が真っ白になる。
「いや!!」
肩を揺する。
何度も呼ぶ。
だが。
ユリウスは動かない。
さっきまで生きていたのに。
信じると言ってくれたばかりなのに。
涙が溢れる。
それでも。
諦められなかった。
私は聖女だ。
助けるためにここへ来たんだ。
震える手をユリウスの胸へ置く。
光が溢れた。
力の使い方なんて分からない。
それでも。
助けたい。
助けたい。
助けたい。
その時だった。
ふわり。
誰かに抱きしめられた気がした。
温かい。
優しい。
懐かしいぬくもり。
『来てくれてありがとう』
女性の声だった。
次の瞬間。
体の奥から力が溢れ出した。
止まらない。
まるで誰かが背中を押してくれているようだった。
「お願い……!」
「お願いだから!」
「死なないで!」
すべての光をユリウスへ流し込む。
必死だった。
助けたい。
それだけだった。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
その時。
「……ん」
小さな声が聞こえた。
美桜が顔を上げる。
ユリウスの唇がわずかに動く。
冷たかった体に。
少しずつ熱が戻っていく。
「あ……」
涙が溢れた。
「ユリウス……!!」
次の瞬間。
がばっと抱きつく。
「良かった!」
「良かったぁ……!」
わんわん泣いた。
ユリウスはゆっくり目を開く。
ぼやけた視界の中で。
最初に映ったのは。
泣きじゃくる美桜だった。
「……お前か」
かすれた声だった。
その一言だけで。
美桜の涙がまた溢れる。
ユリウスはまだ状況を理解できていない。
それでも。
ゆっくり手を持ち上げる。
そして。
泣き続ける美桜の頭をそっと撫でた。
「……泣くな」
かすれた声だった。
それでも。
確かに生きていた。
「だってぇぇぇ……」
「死んだと思ったんだから……!」
ユリウスは小さく目を閉じる。
まだ体は重い。
だが。
不思議と。
腕の中で泣き続ける美桜を、離したいとは思わなかった。
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