第14話 小さな約束
読みに来てくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
王都視察から数日が過ぎた。
だが。
美桜の頭から離れないものがあった。
孤児院の子供たち。
その中でも。
帰り際に服の裾を掴んできた小さな女の子。
『また来てくれる?』
あの、どこか寂しそうな笑顔が何度も頭に浮かぶ。
あんなに小さいのに。
両親はいない。
迎えに来ることのない母親を待ち続けている。
そう聞いてしまった。
「気になる……」
美桜はベッドの上で唸った。
そして。
気になったらじっとしていられない性格だった。
◇ ◇ ◇
「お願い!」
「駄目です」
「お願い!」
「駄目です」
早速、侍女へお願いしてみた。
ぐぬぬ……
一度や二度断られたくらいで諦める美桜ではない。
美桜は机に突っ伏す。
「一時間だけ!」
「駄目です」
「三十分!」
「時間の問題ではありません」
正論だった。
結局。
侍女一人と護衛を連れて行くことを条件に許可が下りた。
「絶対に勝手な行動はしないでください」
「分かった」
「本当にですか?」
「たぶん」
「不安です」
侍女は、本気で頭を抱えていた。
◇ ◇ ◇
孤児院の子供たちは大喜びだった。
「美桜お姉ちゃん!」
「来てくれた!」
「今日は何するの?」
気付けば美桜は何度も孤児院へ通うようになっていた。
勉強を教えたり。
絵本を読んだり。
一緒に遊んだり。
特別なことは何もしていない。
それでも。
子供たちは嬉しそうだった。
ある日の午後。
孤児院の庭で子供たちと遊んでいると。
聞き慣れた声がした。
「……何をしているのですか」
美桜の身体が固まる。
ゆっくり振り返る。
そこにはエレナが立っていた。
「エレナ先生」
「説明してください」
静かな声だった。
だが。
とても怖かった。
孤児院の応接室。
美桜は素直に頭を下げた。
「ごめんなさい!」
エレナは深くため息をつく。
「なぜ報告しなかったのですか」
「怒られると思って」
「怒ります」
即答だった。
「聖女様の身に何かあったらどうするのですか」
「ごめんなさい!!」
「本当に反省していますか」
「しています」
美桜はしゅんと肩を落とした。
しばらく沈黙が続く。
やがて。
美桜は小さく口を開いた。
「気になったんです」
エレナが顔を上げる。
「また来てねって言われたから」
「 …………… 」
「あの子達」
「すごく頑張って笑ってるんです」
「でも」
「やっぱり寂しいと思うから」
美桜は少し俯いた。
「放っておけなかったんです」
エレナは何も言わなかった。
ただ静かに美桜を見つめていた。
帰り道。
しばらく無言が続いた。
やがて。
エレナが口を開く。
「今後は必ず報告してください」
「はい」
「必ずです」
「はい」
美桜は素直に頷いた。
すると。
エレナは小さく息を吐く。
「ですが」
「よく来てくださいました」
美桜は目を瞬いた。
「え?」
「子供たちも喜んでいました」
それだけ言って前を向く。
だが。
その声はどこか柔らかかった。
数日後。
孤児院からの帰り道。
「聖女!」
大きな声が響いた。
美桜はびくっと肩を震わせる。
見れば。
予想通り。
カイルだった。
「カイル様」
「最近よく外出しているそうだな!」
胸を張る第一皇子。
そして。
「私の婚約者が勝手に街をうろつくんじゃない!」
堂々と言い放った。
「婚約してません」
美桜は即答した。
「ぐっ……!」
カイルが胸を押さえる。
「それで今日はどこへ行っていた?」
「孤児院です」
「こ…孤児院?」
カイルの声は裏返った。
予想外だったらしい。
「なぜそんなところへ?」
「気になったからです」
「気になる?」
「子供たちが寂しそうだったので」
カイルは少し黙った。
そして。
「変わっているな」
そう呟く。
だが。
その後に続いた言葉は意外だった。
「だが……悪くない」
美桜は少し驚く。
「そうですか?」
「ああ」
カイルは咳払いをした。
「立派なことだと思う」
少し照れているようだった。
「父上も、昔はそういう場所へよく行かれていた」
「王様が?まさか!?」
美桜は衝撃のあまり叫んでしまった。
カイルは懐かしそうに笑った。
「よく城を抜け出していた」
「平民に怒鳴られて帰ってくることもあった」
思わず笑ってしまう。
そんな王様は想像できない。
そこで美桜は思った。
もしかしたら。
カイルなら王に会わせてもらえるかもしれない。
「カイル様」
「何だ」
「王様に会えませんか?」
その瞬間だった。
カイルの表情が曇った。
「無理だ」
「私でも簡単には会えない」
美桜は驚く。
第一皇子なのに。
「会ったところで…どうすることもできない」
カイルは静かに言った。
「何度も会いに行った」
「だが何も変わらなかった」
その声には諦めが滲んでいた。
そして。
小さく呟く。
「昔の父上はもういない」
美桜は何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
別れた後も。
美桜は考えていた。
カイルは諦めている。
王宮の人たちも諦めている。
でも。
それでいいのだろうか。
「自分で確かめたい」
そう思った。
その日の授業の終わり。
美桜はエレナへ向き直る。
「お願いがあります」
「何でしょう」
「王様に会いたいです」
エレナは即座に首を横へ振った。
「なりません」
「はやっ!もう少し考えてからでも…」
「なりません」
「どうしてですか?」
「陛下のお身体への負担になります」
美桜は唇を噛む。
だが、引かなかった。
「お願いします!!」
「私は」
「王様に会いたいんです!!!」
エレナは黙っている。
「孤児院を見ました」
「王都も見ました」
「でも」
「一番大事な人を見ていません」
「だから」
「自分の目で確かめたいんです」
静寂が落ちた。
やがて。
エレナが小さく息を吐く。
「……難しいでしょう」
「ですが」
美桜は顔を上げた。
「なんとかしてみます」
それから数日後。
授業が終わろうとした頃だった。
「美桜様」
美桜は顔を上げる。
一瞬だけ違和感を覚えた。
今まで。
エレナはずっと『聖女様』と呼んでいたはずだった。
もしかして。
私、いつの間にかエレナ攻略しちゃってた!?
そんな馬鹿なことを考えていると
「陛下への謁見ですが」
美桜は立ち上がった。
「はい!」
エレナは静かに頷く。
「限られた時間だけですが」
「許可が下りました」
美桜は思わず息を呑んだ。
ついに。
この国の王と会うことができる。
だが。
その時の美桜はまだ知らなかった。
その謁見が。
この国の闇へ足を踏み入れる最初の一歩になることを。
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