第15話 王との謁見
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少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
「限られた時間だけですが、許可が下りました」
エレナからそう告げられてから二日後。
ついにその日がやってきた。
美桜は落ち着かない気持ちのまま支度を整えていた。
本当に会える。
この国の王に。
国を支えてきた王に。
そして。
なぜ誰もが諦めているのか。
それを自分の目で確かめるために。
◇ ◇ ◇
待ち合わせ場所へ向かうと。
そこにはエレナと。
もう一人いた。
「ユリウス様?」
思わず声が出る。
ユリウスはいつも通り無表情だった。
だが、どこか緊張しているようにも見える。
「私も同行する」
「え?」
美桜はエレナを見る。
エレナは静かに説明した。
「陛下のお身体を考慮し、面会は最小限の人数で行われます」
「また、万が一の場合に備え、ユリウス殿下にも同席していただきます」
ユリウスは静かに美桜を見た。
「聖女」
「はい?」
「陛下は……以前とは別人のようになっておられる」
少し言葉を選ぶ。
「私は何もできなかった」
「医師も」
「神官も」
「誰も父上を救えなかった」
ユリウスは静かに美桜を見る。
「それでも」
「聖女だからではない」
「私は、お前を信じてみたい」
美桜は思わず息をのむ。
「だが」
一瞬ためらったあと。
そっと美桜の頭へ手を置いた。
「無理はするな」
「はい」
美桜は小さく笑った。
王宮最奥。
そこは王族しか立ち入れない区域だった。
人も少ない。
空気まで重い。
まるで別の場所のようだった。
やがて大きな扉の前へたどり着く。
衛兵が一歩前へ出た。
「聖女美桜様。
第二皇子ユリウス殿下。
エレナ様がお見えです」
しばらく沈黙。
やがて。
部屋の中から返事が聞こえた。
「入れ」
かすれた声だった。
衛兵が扉を開く。
美桜はごくりと唾を飲み込んだ。
部屋の中は静かだった。
薬の匂い。
数人の侍医。
大きな寝台。
そして。
その上に横たわる男。
美桜は息を呑んだ。
まだ四十代後半のはずだった。
だが。
そこにいたのは老人のようにやせ細った男だった。
これが。
この国の王。
「陛下」
ユリウスが頭を下げる。
エレナも続く。
美桜も慌てて頭を下げた。
「お時間をいただきありがとうございます」
王はゆっくり目を開いた。
疲れ切った瞳。
だが。
その奥には知性が残っていた。
「顔を上げよ」
美桜はゆっくり顔を上げる。
王はしばらく美桜を見つめた。
そして。
小さく息を吐いた。
「新たな聖女か」
「はい」
「すまぬな」
美桜は目を瞬いた。
「本来なら立って迎えるべきなのだが」
思わず言葉を失う。
病に伏しているというのに。
最初に出た言葉がそれだった。
「お気になさらないでください」
美桜が答える。
王は小さく頷いた。
「王都は見たか」
「はい」
「どうだった」
美桜は少し考える。
市場。
孤児院。
疲れた人々。
けれど。
懸命に生きる人々。
「皆さん頑張っていました」
王の目が僅かに揺れた。
「そうか」
それだけだった。
だが。
その声はどこか寂しそうだった。
しばらく沈黙。
やがて王が口を開く。
「失望したであろう」
「え?」
「今の国を見て」
「今の王を見て」
美桜は首を横に振った。
「失望はしていません」
王は少し驚いたようだった。
「なぜだ」
「まだ終わっていないからです」
王は苦笑する。
「終わっている」
「いいえ」
美桜は真っ直ぐ王を見る。
「市場の人も頑張っていました」
「孤児院の子供たちも笑っていました」
「エレナ先生も」
「ユリウス様も」
「みんな頑張っています」
王は黙った。
美桜は続ける。
「なのに」
「王様だけ諦めるんですか?」
部屋の空気が凍った。
侍医たちが顔を上げる。
エレナも目を見開く。
誰も。
そんなことを王へ言ったことはなかった。
長い沈黙。
やがて。
王は小さく笑った。
本当に久しぶりに。
そんな顔だった。
「手厳しいな」
ユリウスが顔を上げる。
父が笑った。
何年ぶりか分からない。
王は目を閉じる。
そして。
懐かしそうに呟いた。
「昔」
「似たようなことを言う者がいた」
「前聖女だ」
美桜は目を瞬いた。
王は小さく笑う。
「何度も叱られた」
「王なら前を向けと」
「諦めるなと」
その表情は。
先ほどまでの絶望した王ではなかった。
その瞬間だった。
美桜の視界に。
黒い影が映った。
「っ!」
王の身体から溢れ出している。
煙のような。
生き物のような。
禍々しい何か。
それが王へ絡みついていた。
そして。
まるで怒ったように膨れ上がる。
美桜の背筋が凍った。
隣を見る。
ユリウスも立ち上がっていた。
見えている。
ユリウスにも。
「ぐっ……!」
王が胸を押さえる。
激しい咳。
ゴホッ!
ゴホッ!
ゴホッ!
侍医たちが慌てて駆け寄る。
「陛下!」
「薬を!」
「早く!」
エレナの声が響く。
だが。
美桜には別のものが見えていた。
黒い影。
王の身体を締め付けるように絡みついている。
まるで。
希望を許さないように。
先ほどまで戻っていた光が。
王の瞳から消えていく。
「もうよい……」
かすれた声。
「下がれ」
「陛下……」
エレナが呼ぶ。
だが。
王は虚ろな目で天井を見上げていた。
そして。
静かに呟く。
「この国は終わりだ」
その声は。
どこか不自然だった。
まるで。
誰かに言わされているような。
そんな違和感があった。
謁見はそこで終わった。
部屋を出た後も。
誰も口を開かなかった。
重苦しい沈黙。
やがて。
美桜は隣を歩くユリウスを見る。
ユリウスもまた美桜を見ていた。
互いに理解する。
見えていたのだ。
あの黒い影が。
王を蝕む異形の存在が。
そして。
美桜は確信した。
王は病気ではない。
何かがおかしい。
何かが王を苦しめている。
それを突き止めなければならない。
そう強く思った。




