表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/13

第11話 完璧な公爵

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

「もう無理です……」


「何がですか?」


美桜の言葉に、エレナは首を傾げた。


ここは聖女である美桜に与えられた部屋。


朝からエレナによる授業が行われていた。


広い机の上には歴史書や地図が山のように積まれている。


美桜はその机に突っ伏していた。


「歴史です」


即答だった。


「王様の名前が多すぎます」


「覚えてください」


「無理です」


「覚えてください」


「鬼だ」


「教師です」


エレナは真顔だった。


美桜は項垂れる。


その時だった。


コンコン。


部屋の扉が叩かれる。


「失礼いたします」


部屋へ入ってきたのは神殿の執事だった。


「ローゼン公爵閣下がお見えです」


美桜は顔を上げた。


ローゼン公爵。


ラシスの父親だ。


「公爵様が?」


「はい」


エレナが静かに立ち上がる。


「応接室へ向かいましょう」


美桜も慌てて後を追った。



応接室へ入ると、


一人の男性が立ち上がった。


四十代後半ほどだろうか。


落ち着いた茶色の髪。


穏やかな瞳。


高価な服を身に着けているのに威圧感がない。


むしろ優しそうだった。


「初めまして」


男性は柔らかく微笑んだ。


「ローゼンと申します」


そう言って頭を下げる。


美桜は慌てた。


「えっ!?」


公爵なのに。


先に頭を下げた。


「ど、どうして公爵様が頭を下げるんですか!?」


ローゼン公爵は少し目を丸くした。


「聖女様も頭を下げておられますが?」


「うっ」


確かに。


「ご挨拶は大切ですからね」


そう言って笑う。


美桜はぽかんとした。


何だろう。


思っていた人と全然違う。


その時。


侍女がお茶を運んできた。


だが。


緊張していたのだろう。


足がもつれる。


ガシャン!


カップが床へ落ちた。


熱い紅茶が飛び散る。


侍女の顔が真っ青になる。


「も、申し訳ございません!」


美桜も思わず身構えた。


だが。


「怪我はありませんか?」


公爵が最初に聞いたのはそれだった。


侍女が思わず聞き返した。


「え……」


「熱いお茶でしたね」


「火傷は?」


侍女は慌てて首を振る。


「だ、大丈夫です」


「それなら良かった」


公爵は安心したように微笑んだ。


「片付けは後で構いません」


「まず手を見せなさい」


侍女の目が少し潤む。


「ありがとうございます……」


何度も頭を下げながら部屋を出ていった。


美桜はぽかんとしていた。


数分後、


新しいお茶が運ばれてくる。


美桜は思わず言った。


「公爵様って優しいんですね」


公爵は少し首を傾げた。


「そうでしょうか?」


「普通は怒ると思います」


「失敗は誰にでもあります」


穏やかな声だった。


「私も若い頃は失敗ばかりでした」


「公爵様がですか!?」


「ええ」


公爵は笑う。


「今でも失敗しますよ」


美桜は思わず笑った。


何だろう。


話しやすい。


偉い人なのに緊張しない。


話しているうちに。


王国の話になった。


公爵の説明は分かりやすかった。


難しい話も簡単にしてくれる。


質問にも丁寧に答える。


「すごい……」


思わず呟く。


「何がでしょう?」


「教えるの上手です」


公爵は笑った。


「教師になれますかね?」


「なれます!」


即答だった。


エレナが小さくため息をつく。


「聖女様」


「はい?」


「公爵閣下を勝手に転職させないでください」


「確かに」


公爵も笑った。


三人で笑う。


不思議と居心地が良かった。


しばらくして。


話題はラシスになった。


「ラシス様って怖いですよね」


美桜は正直に言った。


エレナが咳払いをする。


「聖女様」


「え?」


「本人の父親の前です」


「あ」


しまった。


だが。


公爵は苦笑した。


「よく言われます」


「言われるんですか!?」


「ええ」


「努力家なのですが」


「少々真面目過ぎるのです」


どこか誇らしそうな声だった。


娘を大切に思っているのが伝わってくる。


「ラシス様のこと好きなんですね」


「もちろんです」


即答だった。


「私の自慢の娘ですから」


その言葉に嘘はなかった。



帰り際。


公爵は立ち上がった。


「聖女様」


「はい」


「この国を救うために来てくださりありがとうございます」


真剣な声だった。


「私一人では出来ないこともあります」


「ですが」


「貴方がおられるなら」


「この国はさらに良くなるでしょう」


美桜は少し照れた。


そんな風に言われたことはない。


「期待し過ぎです」


「いえ」


公爵は微笑む。


「期待しております」


その笑顔は温かかった。



公爵が帰った後。


美桜はソファへ沈み込む。


「良い人でしたねぇ……」


しみじみ呟く。


「そうですね」


エレナも頷いた。


「すごく優しかったです」


「ええ」


「頼りになる大人って感じでした」


エレナは静かに紅茶を口に運ぶ。


美桜は窓の外を見た。


異世界へ来てから。


信用していい相手なんて分からなかった。


でも。


ローゼン公爵だけは違う気がする。


困った時は相談してみよう。


そんなことを自然と思っていた。


◇ ◇ ◇


王宮を後にした馬車の中。


「いかがでしたか?」


従者が尋ねる。


ローゼン公爵は窓の外を見た。


王都の街並みが流れていく。


そして。


少しだけ笑う。


「良い方でした」


「聖女様がですか?」


「ええ」


本当に嬉しそうだった。


「この国にとって」


「希望になってくださるでしょう」


公爵は静かに頷く。


「そうですね」


そして小さく呟いた。


「本当に良い方でした」


馬車はゆっくりと夕暮れの街を進んでいく。

読んでくださってありがとうございます!

毎日少しずつ更新しています。

「続きが気になる!」と思っていただけたら、とても嬉しいです。

感想をいただけると作者がとても喜びます!

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ