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~探偵~01


 1840年九月九日。カルーナ村少女殺人事件から実に十四年八か月ほどが経ったその日、私は事件の舞台を訪れていた。

 数週間前、私の事務所に一人の人物が現れた。その人は事件の関係者であると言い事件資料を携えていた。今回の依頼人に当たる。

 その人からカルーナ村は実にのどかな田舎であると聞いてはいたが、なるほど、これは見事だ。

「これは素晴らしい」

 思わずそう声をかける。相手は依頼人であり、責任を持って私を事務所からここまで車に乗せて連れてきてくれた人物だ。事件当時もそうだが、ここは田舎過ぎて車も馬車も出ていない。私は貧乏探偵なので車などとてもじゃないが高価で所有出来ない。まあ、それは彼もそうなのだが。何と言ってもこれは警察車両。彼の所有物ではない。

「そうだろう? 俺も、ここで猟奇的殺人があったとは思いたくないね」

「死体の全部は見つかっていませんが、本当に殺人と呼んでいいんでしょうか、ティモ警部」

「ああ。あれほどの血痕があったんだ、間違いないだろう……」

「そうですか。事件当時の写真は見ましたが、なにぶん、古ぼけた白黒写真ですからねえ」

 ティモ警部というのは、事件当時、応援要請を受けて王都からやって来て捜査指揮を取っていたティモ・マキネン警部である。そう、今回の一件、再捜査を願ったのは遺族でも友人たちでもなく、捜査官なのだ。

 二十七歳という若さで警部になった彼の初めての大事件が、カルーナ村少女殺人事件であったという。そのためか、解決されないまま終わっていこうとするこの一件には随分と思うところがあり、今回、再捜査を請求することにしたそうだ。

 そのため私の手元には当時の事件資料の全てがある。

「警察の間で再捜査をする気には、ならなかったんですね」

そう聞けば、ティモ警部は複雑そうな顔をした。

「当時、気合を入れて挑んで、駄目だったんだ。ならもう新しい視点を取り入れるしかないだろう。探偵ならば、警察のように上下関係を気にして口に出せない事実、なんてこともない。考えたくはないが、証拠を警察が隠すケースもあり得るからな」

「それもそうですねぇ」

 村へと続く道に車を停めて、私だけが降りる。ティモ警部が荷物の入った鞄を下ろしてくれた。

「本当にいいんですか、来なくても」

「俺がいたら警戒されるだろうからな。当時の捜査官が一緒なんて、犯人からしたら最悪だろう? 当時を知らない人間がノコノコとやって来て話を聞く、くらいがちょうどいいんだ。相手が油断して当時と違うことを喋るかもしれん」

 どうも、ティモ警部は昔とあまり顔が変わっていないらしい。童顔なのではなく、ずっと仏頂面で生きているのだ。如何にも捜査官、警部である。

「じゃあ、三日目に」

「ああ。何かあれば隣町に電話をくれ。そこに滞在する」

 田舎のため、カルーナ村から王都へ電話、電報というのは難しい。連絡が通じるのは隣町くらいだ。逆に隣町はもう少しだけ王都寄りの位置にあるので、隣町から王都へは通じる。純粋に、隣町の方が「町」というだけあって規模が大きく設備が整っているというためでもあるが。

 去って行く黒色の警察車両を見送ると、改めてカルーナ村に目を向けた。

 果てしなく広がる草木、カラフルな家々。家の群れの奥が山だろうか。そちらに向かって傾斜があるし、木々も多い。事件当時は二月だったそうだから、鬱蒼とした雪山だったに違いない。冬眠している動物がどれほどいるのかは知らないが、熊でもいれば大惨事だろう。とはいえ、エカテリゼ・ロマノヴァを殺したのは熊ではない。もしも胴体と頭だけを好み手足を捨てる熊がいたら、私は王都のサーカス団にでも入ろうか。それくらい、あり得ないのだ。

「さて、まだ朝とはいえ、早く捜査を始めたいぞ」

 足早に、鞄片手に歩き出す。砂利の多い道ではあるが、ここまでが車で快適に来たこともあり、疲れる前にカルーナ村に辿り着けそうだ。


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