一日目夜~過去を狙う~01
部屋へ戻り、ベッドの上に警察から、というか主にティモ警部から貰った資料と、今日の捜査に使った手帳を並べた。
「……やっぱり、怪しい情報は何もない。過去に王都の警察が捜査して何も出なかったんだから、そう簡単に新しい情報が見つかるとは思っていないけれども」
とりあえず、手帳のページを捲って新しい部分を開くと、今日の事情聴取で気になった点を纏めていくことにした。
「最初はラース村長だったね」
印象は至って真面目そうな青年だった。
「それにしても、女性が苦手そうだった……」
他には特に大した情報もなかった。ティモ警部からの情報と違う部分は特にない。アンナさんの様子を大人たちが気遣っていたという点も、他の人から聞いた話と合っている。
「次はカーリン・アンデルソン。エカテリゼは自分の父親のことを、自己犠牲の感情が強い人って言っていた……」
子供の発言にしては疑問が残るが、事件当時既に父親は亡くなっていた。関係があるとは思えない。
「三人目はエリアス・コルホネン。アンナさんがエカテリゼがハサミを持って行ったことに過剰に反応した、と言っていたけれど……他の三人の証言からもそうだけれど、アンナさんは余程エカテリゼに対して過保護だったらしい」
私には子供がいないからよく分からないけれど、親とはみんなそういうものなのだろうか。自分の両親はそうでもなかった気がするけれど、アンナさんは夫を亡くした身。せめて娘を愛そうと必死だったのかもしれない。
「四人目はリトゥヴァ・マケラさん。事件当時恐怖の感情を覚えていなかったようだけれど……それで犯人扱いするのも酷か」
エカテリゼが帰って来ないとアンナさんが騒ぎ立て、村中の人が捜索に参加。子供たちが四肢を見つけ、王都の警察が駆けつけるも事件は解決せず、半年以内で引き上げられてから今日まで迷宮入り。
難しい事件だというのは分かっていたけれども。
初日では新しい情報は得られなかった。犯人の検討も付かない。
「いや、事件から半年でマーリット・ラーシェンが自殺、その後フィリップ・オルセンが精神を病んだっていうのは新情報だったなあ」
情報収集という観点で言えば、人が減っているというのは非常に残念だ。
「マーリットさんが犯人で、事件から半年後罪を悔いて自殺したとして……」
それはあり得るか?
そもそもマーリットさんは事件当時十二歳の女の子だったんだ。エカテリゼは十三歳。まだ体格差が大きく出るような年齢ではないとはいえ、無理がある。四肢を落とすのにナイフやら何やらを使ったとして、警察の捜査では凶器すら発見されていないのだ。力の面でもひどく無理があるのに、警察から逃げ伸びるなんて、もっと難しい。少なくとも一人では無理だ。
「第一、罪を悔いるなんてするのか? 半年も逃げて見せた犯人だ。凶器も動機も発見されていない、勝利が確定した状況なのに。追い詰められて逮捕が迫っているのならば分かるけれども……」
私が犯人だったとして。仮に罪を悔いているとして。
それでもなお半年間、警察を欺き続けた。
理由は何でもいい。逮捕が怖かった、村八分が怖かった。とにかく何らかの理由によって、罪を悔いながらも自首するわけにはいかなかった。
警察は王都に帰り、ほとんど捜査は終了したと言っていい時。
せっかく逃げたのに、自殺したりなんて……しない。
何より犯人にはエカテリゼの四肢を落とすくらい、強い殺意があったのだ。今更悔いるものか。
「罪を悔いて自殺するのなら、遺書があっていいはずだ。『私がやりましたごめんなさい』とか『罪を背負って自殺します』とか何とか、残すだろう。でなければ事件は迷宮入りのままで、村人はその先もお互い疑心暗鬼になることになる。遺書を残さないのならなおさら、ひっそり死ぬ意味が分からない。誰にも犯行がバレていない、そして死んで許してもらおうとも事件を終わらせようとも思っていないのなら、死ぬはずがない」
実際のマーリットさんがどういう人物だったのかは分からないけれど、突発的に自殺を選ぶような人ならばそもそも半年も持ちこたえたはずがない。
「犯行は計画的だったんだろう。だからこそそこには解放された強い殺意があり、四肢を落とすという行為に繋がった。反抗的だったからこそ、凶器も残る遺体も始末出来た。警察から隠し通せた。動悸すらも読ませず、容疑者すら絞り込めなかった」
思わず、頭を掻きむしりたくなる。
考えれば考えるほど、分からないのだ。
村人は仲が良さそうに見える。
若き村長ラースは老人、同年代、年下、あらゆる世代に好かれている。きっと彼の父親である前村長がある程度良い人だったからこそその息子も歓迎されているのだろう。今も当時も、村の治め方に問題はなかったと言える。
エカテリゼの母アンナはこの村出身の夫もその人との娘もいない、はっきり言えば村との縁が完全になくなった今でも村人に優しくされている。事件後も彼女が自殺をしてしまわないように回復を手伝っていたというくらいだ。最初から村八分はなかったのだろう。そういう理由で起きた事件とは思えない。
分からない。あまりにも分からない。
この村は優しい。突如現れた探偵の私を受け入れるくらいには。
村人は仲が良い。少女の指を落として喜ぶ極悪人とは思えない。
髪に触れる手を止めて、視線を捜査資料から逸らすと、ふと丸く空いた窓の外が見えた。月は出ていないようだ。どんよりとした暗さが外には広がっていて、家々から漏れる灯りだけが温かい。
「……そういえば、捜索が行われたのはちょうど今の時間帯だったな」
時刻は夜八時手前。季節は違うが、外の様子を見るのもありかも知れない。村に付いてからはラース村長の家へ真っすぐに向かったから、外をあまり良く観察できていないし。
ベッド上に並べた捜査資料を鞄にしまい、手帳と上着を抱えて部屋を出た。




