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事情聴取三人目~エリアス・コルホネン~


「それで、今更なんであの事件なんか調べてんだよ、おっさん」

 向かいのソファーにどかりと座るなり、開口一番がそれだった。

 幼馴染同士だ、他者の家であっても訪れ慣れているのだろう。ラース村長の家であっても態度がデカい。

 なるほど、これは気が強い。餓鬼大将がそのまま成長したかのようだ。

「おっさんとは手厳しい。私はまだ三十二歳ですよ」

「オレより四つ上だ。おっさんだな」

 余所者を認める気がないのか、探偵だから警戒されているのか、その両方か。仲良くなるのは難しそうだが、こうして訪れてくれたのだ、ラース村長の頼みは聞くということだろうか。あるいは私という来訪者を見極めようという精神か。

 何はともあれ、話を聞こうか。

「十四年半ほど前に発生したエカテリゼ・ロマノヴァの事件の再捜査をすることになりましてね。もう半年ほどで時効ですから、その前に何とか犯人を捕まえられないかということです」

「ふん、当時を知らないおっさんが、か? あんとき王都から来た偉そうな警察さんの顔に泥を塗ろうってか? はッ、そりゃいい」

 私に依頼をしてきたのがその偉そうな警察さんであることは黙っていなくてはならない。

「で、事件の話をしろ、だったか?」

「はい。辛い記憶だとは思いますが、ご協力を」

 ふん、とわざとらしく鼻を鳴らしてみせる。足を組み、腕も組む。態度がデカい。

「ラースの頼みじゃなきゃ、話さねえんだけどなあ」

 話を勿体ぶるように、ニタニタと笑うエリアス。

「ラース村長はよほど厚い信頼を得ているのですね。それではまず、名前と年齢を」

「……ちっ。エリアス・コルホネン、二十八歳だ」

 ソファーに背中を預けると、腕を組んだままの姿勢で彼は言った。二十八となると、ラース村長より年下か。ここは子供の少ない田舎村。年の違う者同士が仲良くなることに疑問はない。

「では、事件当時のことをどうぞ」

 正直、エリアスが事件について悲しがっているようには見えなかった。どちらかと言えば私のことを嫌っているというだけで、事件そのものに感傷はなさそうだ。実際に、彼はサッサと語り始めた。

「ふん、語る事なんてあんましねえよ。エカテリゼって奴が失踪して、母親が騒ぎ出した。んで、みんなで捜索ってことになって、指を見つけた。あと血なんかもな。隣町に電話して、翌日に警察が来た。もっと指が見つかって、後日王都の警察ってのが来た。嫌な奴だったな、偉そうでよ」

 どれほど嫌われているんだ、彼は。

「あとは奴らが捜索したけど、エカテリゼは愚か、死体すら見つからなかったな。ま、次の事件が起こるわけでもない。犯人を逃しても大きな問題はなく、少女一人が失踪した、殺されたんだろうってことで捜査は次第に打ち切られていった。話はこれでおしまいだ」

 手をひらひらとさせて、じゃあ帰っていいよな、とでも言うようにソファーから腰を上げようとする。その前に制した。

「では、次に」

 言われた途端彼はむすっと顔を歪めたが、その時ラース村長が台所から現れて彼に飲み物を差し出したので、座らざるを得なくなった。飲み終わるまでは付き合ってもらおう。ナイスタイミングだ、ラース村長。

「エリアス、貴方はエカテリゼと仲が良かったんですか?」

「あ? ……別に。同年代だから、全員で遊ぶことはあった。でも個人的ななんかはねえよ」

「では、エカテリゼと仲が良かった人物は?」

「全員変わんねえだろ、アイツへの感情なんて」

 カーリンさんと同じ返答だ。

「まだなんかあんのかよ、おっさん」

「ええ、ありますよ」

 無礼な年下の言うことなど無視だ、無視。

 メモを取りながら、何を質問すべきか考える。

「エカテリゼとの会話や、出来事を教えてください。彼女が言っていたこと、彼女の村人への感情など、何でも構いません」

「アイツの言っていたことねえ……。ああ、アイツの母親は過保護だったな。出かける時もどこへ行くのかとか、何時までに帰って来いとか。一回、アイツが布を切ろうとハサミを持ったことがあってよ。母親がすぐに飛んで来て、危ないでしょって言ったんだよ。十歳を過ぎたっていうのに、危ない、だぜ? 変だなって思ったね。過保護すぎる」

「ハサミですか……。他の物も持ってはいけなかったんですか? 包丁や鏡、猟銃や農業用の器具など」

「そうだな、母親は怒ってたな。まあ、猟銃なんてオレたち全員アウトだけどな」

 それもそうだ。

「次に」

「まだあんのかよ」

 彼のコップの中身は半分ほどなくなっていた。

「まあまあ、もう少しお付き合いくださいよ。もうすぐ時効になるんですから、そうしたらどんな事実が見つかっても捜査できないんです。これがラストチャンスなんですよ」

「ラストチャンス、ねえ……。で、何を聞きたい?」

「事件が起きた時、怪我を負っていた人はいますか?」

「怪我だあ? なんでだよ」

「大量の血液が見つかったんでしょう? その全てが被害者のものであるとは限りません。大量となれば、腹部に傷を受け吐血したなどが挙げられますが、遺体が見つかっていない以上、確認ができません。となれば、犯人の血液が混じっている可能性を考えるくらいしかできないので」

「犯人の血って……どんな状況だよ」

「被害者が抵抗して、武器が犯人に当たった場合とか。刃渡りの長い武器であれば、もみ合いの中で自分を刺すこともあるでしょう。あるいは被害者もまた武器を持っていた場合とか」

「なるほどねえ」

 エリアスは目を細めてこちらを見た。無意識なのだろうか、コップの持ち手を握る手に力が籠っている。

「それはねえな。怪我をしていた奴はいなかった」

「そうですか」

 さて、あとは何を聞くべきか。今のところ、やはり彼らの返答に矛盾は感じられない。それどころか示し合わせたかのようにして正解を選び取れている。十四年半前も同じように質問攻めにあっているのだから、その時とそっくり同じことを述べているだけと言えば、まあ、冷静に返答出来るのも理解可能だが。

「ラース村長のお父様、つまりは先代村長に当たる方が捜索の指揮を執ったのですか?」

「ん? ああ、まあそうだな。娘を探すってアンナさんが森に入ろうとして止まらなかったから、せめて人数と武器を持って行こうって村長が」

「みなさん積極的に参加を?」

「うーん……。内心半々、だな。アンナさんの様子を見て、捜索に参加しようって思ったよ。ただ、寒いし、森は危険だ。冬眠中の動物を起こしたら、最悪食われる。そういう点では捜索は明日の朝にすべきだ、警察に任せるべきだって意見もあるにはあった。あれ以上犠牲者が出たらいけないからな」

「犠牲者とは、エカテリゼのこと?」

「そりゃそうだろ」

 犠牲者が増えたら困る、か。

 ……気になる物言いだ。捜索を行うか否かという話し合いの時点では、エカテリゼの状況は分からなかったはず。犠牲者という言葉は相応しくない。が、現状の彼は事の顛末を知っている。事件から十四年半後の彼なのだ。言葉選びがそうなるのも、頷ける。

 他に不審な点が現れれば突っ込むか。今言えば言いがかりだと思われるし、仮に本当に犯人だったとしても警戒されてこれ以上のボロを出してもらえなくなる。ただでさえ警戒されているのだ。

「まだあんのかよ」

 イライラしてきたのか、足を組みなおす。見れば、コップの中身は空だ。

 そろそろ時間だし、次の人が来るだろう。

「ご協力ありがとうございました」

「ふん……。こんな話で、何が分かるってんだよ」

 吐き捨てるようにそう言うと、彼はコップを台所に運び、ラース村長に一言言ってそそくさと家を出て行った。

「お次は?」

「次は……ああ、ちょうど来たみたいですね」

 ラース村長は玄関へと向かった。

「いらっしゃい、リト」

「お邪魔するわね、ラース」

 そんな会話が聞こえて来たかと思うと、彼女は姿を見せた。

「彼女はリトゥヴァ・マケラです」


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