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「一体これはどういうことだ!!」
「......コーネル王太子殿下より婚約破棄を承りました、お父様」
リーフェント公爵家の一室。二階にある父の執務室で、父 トリス・リーフェントと母 ミルラ・リーフェント、私の三人が顔を突き合わせていた。
昨日の舞踏会での事の次第を話そうとしていたところ、王家からまさに婚約破棄の書状が届いた。
「何故お前はそんなに冷静なのだ!大切な娘を.....ジャスミンを愚弄するような行い、今日という今日は見過ごせん!国王に直々に抗議に行ってくる!!」
「そうしましょう、あなた!私たちの大切なジャスミンを傷つけるなんて!許さないわ」
事情を説明すると噴火した火山の如く怒り狂った父が今すぐにでも王城に登城しようとする。母は止めるどころか、煽っていた。
「お父様、お母様。ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、私は大丈夫ですので、一度落ち着いて下さい。特にお父様、血管に良くありませんわ。.....さ、このお茶を。カモミールティーです。副交感神経を優位にして、血管を拡張してくれます。リラックス効果があるのですよ」
甘い香りがするハーブティーを注いで、繊細な絵が描かれたカップを両親の前にそっと置いた。
「.....美味いな。さすがだ、ジャスミン」
「美味しいわね。あなたの淹れてくれたお茶は、いつも最高だわ。私たちの身体のことまで考えてくれて」
「それは良かったですわ」
脳の血管が切れるのではと心配するほど興奮していた父は落ち着きを取り戻したがやるせないのだろう。
私より淡いラベンダー色の瞳の奥には悲しみと怒りが燻っていた。
父は、髪と同じ焦茶色の整えられた顎髭を撫でながら唸る。
「それにしても。リルハ嬢、か.....」
「モーリャント第一学院の生徒ということだけれど、あなたから聞く話だと、学院でも随分とご苦労されてそうね.....」
「ええ....」
切り替わった話題に、今度は母が頬に手を当てて息を吐いた。私と同じ長い黒髪が揺れ、エメラルドの瞳は心配の色を映している。
トランドル男爵令嬢は、彼女と同じ学院の生徒だ。
話しぶりから、同じクラスということも十分あり得る。舞踏会での数十分だけ見ても、彼女がリルハ嬢に辛く当たっているのは一目瞭然。毎日のリルハ嬢の気苦労が察せられた。
「お父様。テーナ子爵家に遠縁の養子を迎えたというお話はございますか?」
私は会場で気になっていたことを質問した。
「いや、そんな話は聞いていないが。もしかすると....」
「...............?」
「ああ。いや......なんでもない」
父は答えを濁し、カモミールティーを飲み終えると静かに立ち上がる。




