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「....ぷっ。....ちょっとした冗談よ。リルハ嬢はエスコート役もお友達もいらっしゃらないから構ってあげようと思って。皆様にあてたサプライズ感覚だったの。もちろんすぐにタネ明かしするつもりだったわ。これで皆彼女の存在を知れたでしょう?」
案の定、口元を歪めて漏らした。
「そうだったのか!お前はなんて優しいんだ」
道理の通らない話に、王太子殿下はうっとりと彼女を見つめた。....正気か、この人たち。
「では、ドリンクはトランドル男爵令嬢のもの、リルハ嬢は自作自演などしていない、ということですね?」
「.....ふん、そう言ってるでしょう」
トランドル男爵令嬢は、不機嫌そうに唇を突き出して肯定した。
「.....承知しました。リルハ嬢」
「は、はい....」
小さく返事をした彼女に向き直って、私は言った。
「今回の件、(まだ)王太子殿下の婚約者としてお詫び申し上げます。.....例え、余興だとしても行き過ぎだったと思っております。ドレスは、代わりのものをと思ったのですが....見たところとても素晴らしい意匠のもの。きっと大切なものだったのでしょう。リーフェント公爵家へ送って頂ければ、出来得る限りシミを取り除いてみせますわ」
「.....ありがとう、ございます」
か細く震えた声だった。
私とリルハ嬢の会話を聞いて、殿下もトランドル男爵令嬢も顔を見合わせて失笑していたけれど、価値の見抜けない者たちのすることなど気にもならない。
もちろんフォローというわけでもない。
正直、こんな浅慮な二人なんてどうでもいいし、いっそ地獄の沙汰が下ればいいとさえ思う。
だが、リルハ嬢の心を慮ると言葉にせずには居られなかった。彼女はきっと傷ついている。
.......王族ともあろう者が嘘に踊らされて。真偽を確かめもせず権力を振りかざすなんて。
思わず彼女を見つめていると私の思いが伝わったのか、その瞬間ほんの少しだけ......リルハ嬢の表情が和らいだ気がしたーー。
「......さて、リルハ嬢。宜しければ、リーフェント公爵家の馬車でお送りしましょう。タオルは......受け取りましてね。では、どうぞ参りましょう」
私の呼びかけに静かに立ち上がったリルハ嬢が「感謝致します.....」と小声で言った。
「私たちはこれで。王太子殿下。婚約破棄の件、たった今お受けいたします。国王へは殿下からご報告願います。私からは父にそのように伝えておきます故。では皆様、お騒がせして申し訳ありませんでしたわ。失礼いたします」
私は胸に抱えた本を抱き直して、一礼してから下がった。




