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実は、ヴォルフ陛下よりテリウェル陛下が相談を受け、リーフェント公爵家へ婚姻の打診があったのではなかった。
番の見当をつけたテリウェル陛下が密かにヴォルフ陛下へ、二人の婚姻の提案を申し出たのだ。
丁度、王位継承の激化で、フェンリル様本人が政略結婚を願い出た時期だったから、ヴォルフ陛下はその提案を受けた。
テリウェル陛下の行動には、何かしら意味が隠されていることを、長年共に過ごした経験から知っていたから。
そして、テリウェル陛下からの提案であることは、フェンリル様にも私にも、伏せられていた。テリウェル陛下の厳命で。
◇
「確信はなかったんでな。....まぁ、お前なら自分でチャンスを掴むだろうと信じていたからな」
テリウェル陛下が、ニッと笑みを深める。
フェンリル様は、瞼を重くして呆れた声を出す。
「.......お前、本当に性格悪いぞ」
「ははは、褒めてくれて嬉しいよ」
「褒めてない」
「....結局、いつまで経ってもフェンリルから報告は届かないし、先にヴォルフ兄から真偽を確かめる手紙が届いて、ヤキモキしたぞ」
「なら、さっさと教えろよ」
「君たちが先に仕掛けてきたんだろう」
「はぁ。はいはい。俺らが悪かった」
フェンリル様は諦めたようにため息を漏らした。
「お前からの提案であることは秘密にしろと、兄上を脅したのか」
「ひと聞きが悪いな。ちょっとばかし、昔の出来事を話題に出しただけさ。私が、モーリャント王国の新国王に即位した時のことをね」
「出来事じゃなくて、恨みだろう。それを脅しっていうんだよ」
「ふん。元はと言えば君たち兄弟が私を嵌めたのが悪い」
テリウェル陛下は、子供みたいに唇を突き出した。
この二人が何の話をしているのかさっぱりだったが、話は続いていく。
「あれは嵌めたんじゃない」
「どうだかね」
「お前は、先に言ったら逃げるだろう。モーリャント王国のために仕方なく、事後報告にしただけだ」
「それを嵌めたと言うんだ」
「何とでも言え」
二人睨み合っている。
フェンリル様の腕の中で私は、二人の顔を交互に見遣った。
◇◆
テリウェルは、元々王位に興味がなかった。
才能故に、兄・オズウェルは勝手に弟を目の敵にして、留学へ追いやった。
だが、テリウェルにとってむしろ好都合だった。
これ幸いとばかりに好きなことを学び、自由に知識を深めていた。
そんな中、シルヴァの留学中に起きた一件で、二国間で戦が勃発した。
テリウェルは、全く話を聞かされていなかった。
到底、新国王にまつりあげられるなんて、夢にも思っていなかった。
それが、あっという間に声明が出され、知らぬうちにモーリャント王国の新国王になっていたのだ。
その時点でやっと、ヴォルフやフェンリルから知らせを受けた。
ここまで話が進んでいれば、もう拒否などできまいと諦め、王位に就いた。
「お前なら、どういう経緯で国王となっても....最後は国民のために奔走すると信じていたからな」
「はぁ。それだよ。....だから、私も信じていたんだ。確信がなかったから、というのも本当だがな」
「わかっている」
信じていたと言われては、文句を言えなくなったテリウェルは、いつものごとくフェンリルにやり返した。
君ならチャンスを掴むと信じていたから、と。
友を思う心と、やり返す心と
誠に友の力を信じる心。
色々と複雑に絡み合った結果、なんと時間がかかったことか。
「くっ、くくく。本当、食えない奴」
「はははっ、君もな」
笑い合って、どうやら和解したらしい二人に、ジャスミンはホッと胸を撫で下ろした。
「まぁ、時間は要したが、想いは通じたんだろう?」
「ああ」
「....改めて、結婚おめでとう。フェンリル」
今度は満足気に笑って、祝福した。
その言葉に、フェンリルはやっとテリウェルに向き直り、心から礼を言った。
「ああ。....世話になった」
ジャスミンは抵抗しても下ろしてもらえず、抱きかかえられたまま「感謝申し上げます」と一緒に頭を下げた。
◇
「ところで、夫人に頼みたいことがあるのだが」
一段落した所で、テリウェル陛下が神妙な面持ちになった。
「.....直接話しかけるな」
「えっ」
だが、フェンリル様はまた陛下に背を向け、私を隠してしまう。陛下の残念なものに向けるような声が、こだました。
「フェンリル....。嫉妬深い男は嫌われるぞ」
「っ.....嫌いに、なるか?」
陛下の言葉に、フェンリル様がうかがうように尋ねてきた。
「え....えっと....嫌い、には....」
「...........」
二人の視線を感じて狼狽える。
フェンリル様は縋る目で私を見つめていた。
「.....ならない、ような?」
「っ、うむ」
決断を迫られ、声を裏返しながら何とか答えると、フェンリル様はパッと耳を立て目を輝かせて、頬擦りしてきた。
尻尾が、ボフン、ボフン、と横抱きにされている私の腰や足をリズミカルに打っていく。
「.....最初から甘やかしていると、後が大変だぞ、夫人。締めるところは、締めた方がいい」
呆れ混じりに言われて、何となく意味を察する。私は有り難く助言を受け取って、真面目に頷いた。
それから、私も陛下と直接お会いできたこのタイミングで、お話ししたいことがあったので、フェンリル様にお願いした。
「フェンリル様。私も陛下とお話ししたいことがございます」
「.....わかった」
真剣に言い募ると、渋々だが頷いてくれる。
「夫人の話は....もしかして砂漠化についてだろうか?」
「そうなのです。陛下のお話しもでしょうか?」
「ああ。....先に聞いても?」
「はい、もちろんでございます」
そうして、私は陛下にずっと考えていたことをゆっくりと説明し始めたーー。




