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「二人愛し合った夜、君が寝息を立て始めた頃、鷹が1通の知らせを運んできた。
それは、君も知っての通り、モーリャント王国との戦と....
団員が負傷したとの知らせだった。
詳細は合流しなければわからなかった。
手紙にあったのはそれだけだったから。
俺は騎士団長として、すぐに団に合流しなければならなくなったが、
君は寝入った所だったし、起こすのも憚られてーー。
急ぎ、メモだけ残した。
これは言い訳になってしまうが、決して君を放置するつもりはなかった。
団に合流したあと、すぐさま宿に人を向かわせる気だったんだ。そいつに、君を王城まで招いてもらおうとしていた。
説明は仕事を終えた後になるが、きちんと俺が王族であることも、番のにおいが判別できていない様子の君に、俺たちが番同士であることも伝える予定だった。
君が俺を受け入れてくれた今なら、番であることも、王族であることも、伝えられると思ったんだ。
その上で、求婚を
と考えていた。
そして、君が目を覚ますまでには、使いを出せるだろうと踏んでいた。
だがーー
港で待つ団に合流した時、潜んでいた刺客に薬を嗅がされた。情けないことに、完全に俺のミスだ。
オズウェルが仕込んでいた。
先に負傷の知らせが入っていた団員の怪我も、別の手先によるものだった。
シルヴァとの一件や、陛下からの戦の命を忘れさせたかったのか、時間稼ぎがしたかったのか。
すぐに動いて、吸い込んだのは少量だった。
しかし、捕まえたあと頭がぐらつき、俺は倒れた。
目が覚めたのは三日後の夕方で、
その時には、君との記憶は消えていた。
番と出会った感覚はあったんだ。
隣に番の存在がなくて、さらには君との出会いも、姿かたちも、どう過ごしたかも、最後どうわかれたのかも、思い出せなくて
心が引きちぎられそうに痛んだから。
なぜそうなったのか確信はなかったが、薬のせいであるのは容易に想像がついた。
今考えてみれば、薬を嗅がされた瞬間脳裏を過ったのは君のことだったーー。それで、君の記憶を封じられたのかもしれない。
目を覚ました翌日、俺は戦に出た。
オズウェルを捕らえた後、追求するとあっさり認めたよ。「毒消しなどない」と言われた時は、崖から突き落とされた気分だった。
だが、俺は諦めなかった。
モーリャント王国に勝利し自国に戻ってから、陛下やマーナガルム様からも情報を集めた。
そして、ラベンダー色の瞳の狼獣人の女性を王国中探した。結局、そんな女性はひとりも居なかった。
君の瞳の色は、我が国でも珍しいのだ。
同時に、王位継承の問題まで激化して
追い詰められた俺は、シルヴァを女王にするため、陛下に王命での婚姻を申し出た」
*****
「.........っ」
全てを聞き終える頃、私は驚きと喜びと後悔と、様々な感情で言葉が紡げなかった。
全部、誤解だった。
私の嘘と、彼の配慮と、不慮の出来事。
絡んだ糸が今やっと解けた。
「ごめん、なさい....」
「いや、これで納得したよ」
「........?」
「君と出会った日、少しばかり違和感を感じて。再会した日は、妙な懐かしさを抱いた。旅の間は魔法薬で姿を誤魔化していたからだったんだな」
「.......申し訳、ありません」
罪悪感と申し訳なさで身を縮めた。
「ははっ、もういい。色々とあったが、また君とこうして出会えたのだから」
そして、彼は私を抱きしめた。
今度こそ身を任せ、私もそろそろと彼の背に腕を回した。
「漸く.....つかまえた。もう離さないから」
「はい....」
「.....あの丘の景色」
「..........?」
「ダンスの夜、君と見た景色と似ていた」
「ええ....実は、私も思っていました」
「君の横顔を見た時、逃したくないと強く思った。記憶は封じられていても、心は君と見た景色も、君のキラキラ輝く表情も、覚えていたんだろうな」
幸せそうに言う彼に、胸がきゅっと疼いた。
「それにーー」
「え?」
「君はダンスの夜、なぜ獣人達は仮面をするのか.....意味を知ってるか?」
「いえ....知りませんわ」
「......あのダンスは番を探すためのダンスなんだ」
「番を、探す....」
私は目をゆるゆると見開く。
フェンリル様は、なんとも嬉しげに続けた。
「ああ。獣人達は適齢期になれば、番を探す。そして、皆あのダンスに参加する。
俺も参加したことはあるが、出会えなかった。
今となっては、君は隣国に居たのだから納得だが」
「まぁ.....そうだったのですね」
「うむ。そして、仮面をつけた状態で出会った番達は、次に会う約束を交わす。
ただし、日付、時間、場所.....
どれか一つだけしか決めていない、不確かな約束だ。
だが、その約束とにおいを頼りに、仮面を外し本来の姿となった番を迎えに行く。
見つけ出せれば、その場で求婚するんだ」
「仮面にはそんな意味が......」
「ああ。俺たちは特殊な出会い方だったし、この約束とはかけ離れた状況だったが.....
君を、見つけ出せた。
だから、改めて。結婚しよう?ジャスミン」
今日、何度目かのプロポーズを受けて、うっすらと視界が滲む。
「......嬉しいです。見つけてくれて、ありがとうございます.....」
「こちらこそ」
「フェンリル様.....」
「ん?」
「大好き.....」
「くっ.....」
ずっと閉じ込めていた気持ちを解き放つと、
今度は溢れ出して止まらない。
心のままに、口にした。
呻き声がして。そっと胸に擦り寄ると、彼の心音が大きくなった。
上下する喉仏と男性然とした骨格。
ほどよい厚さの乾いた唇を、赤い舌がペロリと舐める。
高い鼻梁に、熱を灯す銀の瞳。
彼の存在を確かめるようにーー
時間をかけて、視線を滑らせる。
そうして、ゆっくり.....
庭の芝に落ちるふたつの影が重なった。
「ジャスミン....」
「.......ん。フェンリル、様....」
何度も何度も、離れては触れ合う唇にくぐもった声が漏れる。
「......はぁ、すまない。止まらない、もう一度いいだろうか」
頬を上気させてうっとり呟く彼に、恥ずかしさで瞳が潤んだ。視線をそっと外す。
「ダメだ。俺を見て?.....君の瞳。すごく綺麗だ、ジャスミン」
耳元で囁いた声はとろりと甘く、ジンと脳髄を震わせた。
口付けとその蕩けた声音、私を射抜く瞳に呑まれていく。
唇を優しくなぞる彼の指が離れて、再び熱が近づいてきた時ーー
コホン、と背後で咳払いが聞こえて、呆れた声がその場に響く。
「申し訳ないが.....そろそろいいだろうか?」
◇




