表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?  作者: こころ ゆい
第三章『私があなたを救います』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/41

8-②

*****




「奥様。本当に宜しかったのですか?」


 はたきを手に、懐かしい制服に身を包んだリリアが静かに言った。目を丸くしてから、私は笑みをつくる。


「こんな会話、前もしたわね」


「...........」


 王弟殿下に嫁ぐためユービィスト王国へ発った日、船で交わした言葉。


 意味が伝わったのだろう。

 彼女の眉尻がみるみる下がった。


 私は、手元の本に視線を落として続けた。


「これでいいのよ。彼には本当に愛する人と幸せになってもらいたいもの」


 ーー数日前。


 フェンリル様の遠征中に、私はリリアと共に公爵家を出てリーフェント家へ戻ってきた。


 記入済みの離婚届と置き手紙。


 それからーー

 完成した『治療薬』をおいて。


 十分育った特別なハーブや薬草を使って、フェンリル様の鼻を治すための薬を調合した。


 きっと効果はある。


 なんてったって、祖母の薬草ノートの情報も組み合わせてあるのだから。


 薬草やハーブの知識に長けた父方の祖母は、すべてをノートに記していた。


 祖母の作る薬は異端で、類を見ない独特の組み合わせからできていた。


 だが、身内贔屓でもなんでもなく、祖母の薬は効果抜群だ。


 彼女は若い頃世界中を旅して、膨大な知識と調合の腕を身につけた。その最中で、ユービィスト王国にも立ち寄っている。


 ユービィスト王国は、自然豊かだ。

 薬草となる植物も多い。


 ノートと本を読み込みながら、貴国に自生する薬草や、輸入されている他国のハーブを組み合わせて、試行錯誤して、薬を作り上げた。



『鼻が利くようになれば、殿下の『記憶』を取り戻す手立てになるかもしれないのですね?』


『私は.....その可能性がある気がしている』


 彼が番を失ったと話してくれた日の言葉。


 確信がなくても、きっと何かが変わる。状況が動く。私もそう思った。


 記憶を取り戻して、彼には幸せになってほしい。


 そう。だからこそーー


「これ以上、近づいてはだめだったのに.....」


 高台の夜景をともに見た日。

 彼への気持ちをとうとう口にしてしまった。


 口付けを交わして、抱きしめられたまま眠ってしまった。あろうことか、都合のいい言葉を聞く夢までみてしまった。


 翌日、私の起床が遅れて、フェンリル様は家を出るのが早まって、顔を合わせることはなかった。


 彼からは「帰ったら話がしたい」と手紙が(したた)められていたけれど。


 結局そのまま遠征に出た彼とは、あの夜から一度も会っていない。


 それでいい。

 彼の幸せのためには、離れなければ。

 私が居ては、記憶を取り戻した時、彼が心置きなく番を迎えに行くことができなくなる。


 植物たちは庭師のルーファスに今後の世話を頼んだ。


 ウィルフォード公爵家の皆には、本当に申し訳ないことをした。


 妻として嫁いでおきながら、無責任にも投げ出すのだから。何度も何度も、心の中で謝った。


 でもきっと、番と一緒になることがフェンリル様にとって一番の幸せなのだ。


 込み上げる寂しさを押し流すように、紅茶を一口含んで、飲み込んだ。


「旦那様が本当に愛しているのは....奥様なのでは?」


 リリアが続ける。


「もしそうなら嬉しいけれど。それはないわ。彼は私を愛することはないってはっきりと仰っていたもの」


「そう、でしょうか....。最近の旦那様は幸せそうで....奥様をとても愛おしそうな目で見つめていらっしゃいましたよ?」


「きっと彼が優しい人だから、そう見えたのよ」


 チャリ、と小さな鎖の音がこだました。

 首元で光るパープルサファイア。


 どうしてもこれだけは、置いてこられなかった。


 彼が私の瞳みたいだと言ってくれた、大切な宝物。


 ーー好き....


 とどまるところを知らない気持ちを、心の中でそっと唱えた。



 その時、


 家の中が騒がしくなった。

 自室に居た私とリリアは、互いに顔を見合わせて首を傾げる。


「何でしょう?」


「ええ。様子を見に行ってみましょうか」


「危険です。私が確認して参ります」


「いいえ、私も行くわ」


「....承知しました。けれど、私の後ろに居てくださいね」


「わかったわ」


 白いドアを開けて、2階の廊下を進んでいく。

 階段の踊り場まで降りた所で、使用人たちがバタバタと玄関扉の前を行き来しているのが見えた。


「誰か、来るのかしら」


「ええ。危険な雰囲気ではなさそうですが。この慌てようは.....」


 とても地位のある方がやって来るのかもしれない。リーフェント家は、公爵家だ。


 我々より地位の高い方といえば.....


 そこまで考えた時、使用人の一人が叫んだ。


「おい!到着なされたぞ!」


 ーーフェンリル・ウィルフォード公爵だ!


「「.....え?」」


 私とリリアの声が、同時に響く。

 出迎えのために開いた扉の隙間から、門をくぐる馬車が見える。


 知らせを受けて迎えに出ていたらしい、リーフェント家の馬車だった。


 屋敷に迫ったその馬車の窓から


 フェンリル様の姿が見えた。


「う、そ....」


 私は目を見開いてーー


 瞬間、考えるよりも先に身体が勝手に走り出していた。


「お嬢様!!」


 リリアの呼ぶ声が、背中に飛んできた。

 馬車の停まる音と、扉の開く音も聞いた。


 けれど、私は振り返らなかった。


 全く予想していなかった事態に、パニックになる。


 走って、走って、走って。

 広い庭の奥へと駆けていく。


「ジャスミン!」


「.......っ」


 フェンリル様が、猛烈な速さで追いかけてきていた。


「なぜ、逃げる!」


「に、逃げてなんて、いませんわっ」


「逃げているではないか!」


「あ......っ」


 そんなやりとりに気を取られて、小石に足をとられた。


 転ぶ!


 そう思った時、ふわりと身体が浮いた。

 お腹に回ったフェンリル様の腕が、がっしりと私の身体を支えてくれていたーー。


「やっと、つかまえた」


 ーー逃すわけないだろう?


 そう言って、安堵したようにぎゅっと....後ろから抱きしめられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ