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隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?  作者: こころ ゆい
第三章『私があなたを救います』

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32/41

8-①

*****



「お、おい。団長.....なんであんなに怒ってんだ?」


「知るかよ....ひぇっ、お、おっかねえ」


 ドス黒いオーラに当てられて怯える声が、背後から飛んでくる。


 馬獣人である私、ケイン・クリスフォードは、視界が広い。


 真っ黒な。今にもどんよりと沈み込みそうな。見えないはずのそんな空気を横目で確認する。


「.....団長。お願いですから、もう少し顔を和らげて下さい」


「普通だ」


「びぇっっ」


「............」


 また背後で跳ねる声がした。


 団員たちの震えを受けて注意するも、どうも本人は自覚がないのか、改める気がないのか。


 無意識に私の眉間の皺が深まった。


 心の底から疲労感が込み上げて

 なんとかため息までは堪える、がーー


 我が王国騎士団の団長 フェンリル・ウィルフォードを、呆れと懇願を込めて強く睨んだ。


「.....わかっている」


 全然わかっていない。

 だから、黒いオーラをしまって下さい。


 本気で叫びたくなった。


「ところで、もういいよな。任務は終わった」


「....ええ。完了です。帰りましょう」


「っ、うむ」


「.........」


 瞬間、ドロドロのオーラが今度は花でも飛びそうなほど軽やかで浮かれたものに変わって、瞼が重くなる。


「....おお?なんだ?」


「おう....空気が軽くなったぞ」


「歩きやすくなったなっ」


「ああ」


 ほっと息を吐いた彼らに、心から同情する。


 周囲をも巻き込む団長の機嫌を左右している存在。それはあれだ。


 最近、仕事が一段落すると私に団を任せ屋敷へ駆け戻り、また戻れば目にも留まらぬ速さで仕事を片付けて、夕食に間に合うよう颯爽と帰宅していく。


 あの仕事にしか興味のなかった団長をそこまで変えた、ジャスミン・ウィルフォード公爵夫人。



 婚姻を結んで数ヶ月経ったいま、団長は見るからに彼女にメロメロだ。


 だが、一週間前ーー。


 夫人と何かあったのか、久方ぶりに夜遅くまで仕事をこなしていた。


 彼を取り巻く空気は重く、機嫌が悪いというより悩んでいると表現した方が正しいような有様だった。


 どうしたものかと気にかけていたら、結局、翌朝には目尻をでれっと垂らして出勤してきた。


 これは夫人と仲直りでもしたのかと安堵していたのにーー。


 その日のうちに遠征が入り、あれよあれよと馬に乗って出発した。


 そしてこの一週間、騎士団としての仕事は終えたが、団長の夫人欠乏症はひどくなる一方だった。


 とにかく。


 あと一日。明日には団長も団員たちも、各自家に帰ることができる。


 ーーそう、思っていた。この時までは。


 ピィーー!


 頭上を旋回する鷹の鳴き声。


「....あれは、王城からの知らせ、か」


「ええ、間違いありませんね」


 瞬時に団長としての鋭い顔をのぞかせた彼の言葉で、空気がピンと張り詰めた。


 腕を差し出し、そこにバサバサと羽音を響かせ降り立った鷹の足に手を伸ばす。


 巻き付いた紙を外し、カサリと乾いた音をたてた紙に目を通していく。


「....なん、だと?」


 顔を青ざめさせた団長に、わらわらと団員達も集まって覗き込んだ。


「夫人が.....行方不明?」


 私は目を疑って、もう一度確認したあと、呆然と口から声を漏らした。ブルブルと震える団長の手と、クシャリと握り潰された紙を見つめる。


「俺は先に戻る。幸い仕事は終えた。お前たちは予定通りの帰還でいい。....ケイン、あとは頼む」


「は、はっ!」


 とっさに体勢を改め、返事を返す。

 馬に跨り、猛スピードで駆け戻る彼の背中を見送った。








 ヴォルフ・ユービィストは王城の玉座に腰掛け、今しがた届いた手紙の返事を何度も読み返していた。


 先日出していた、モーリャント王国 新王、テリウェル・モーリャントへの、《《ことの次第を確認》》するための手紙。


 ずっと抱いていた疑念に、確証を得るための手紙ーー。


「.....ほんに、食えない男め」


 ヴォルフは、困ったような、諦めたような。

 だが、どこか感謝の念も感じる眼差しで、返事の手紙を見つめた。


 ダダダ.....。


「陛下!急ぎ、知らせです」


「む、なんだ」


 王の側近を務めている羊獣人のマトンが、灰色の短い巻き髪を乱し、血相を変えて謁見の間に飛び込んできた。


「それが....ジャスミン・ウィルフォード公爵夫人の姿が、今朝方から見えないと。


公爵家の家令、サイラスより知らせが届きました。


遠征中の騎士団に鷹で一報を入れてほしいとあったので、早速手紙をつけ鷹を飛ばしました 」


「.....うむ」


 一瞬驚いた顔を見せたヴォルフだが、すぐに背を玉座の背もたれに落ち着けると、顎を撫でながら何やら思案した。


「どういたしましょう」


「よい。様子を見る。おそらく、そろそろタネ明かしの頃合いなのだろう」


「は、はぁ。タネ、明かしで、ございますか」


 特に慌てる様子のない国王に、マトンが首を捻った。


「ああ、心配はいらん。それより、便箋を。また手紙をひとつ出したい。シルヴァとマーナガルムも呼んでくれ。相談がある」


「はっ」


 命を受けて姿勢を正したマトンは、踵を返した。


 彼の立ち去る足音を聞きながら、ヴォルフはもう一度手紙に目を落とし、ふっと笑んだ。


「頑張れよ。今度こそ、逃すんじゃないぞ....」



******

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