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隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?  作者: こころ ゆい
第三章『私があなたを救います』

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4-②


「ふう.....こんな所かしら」


「奥様、そろそろお茶にでも致しませんか?」


「そうね。リリア、準備をお願いできるかしら? その間に私はもう少しこの子を手入れしてあげたいの」


「かしこまりました。すぐに準備して参ります」


「ありがとう」


 屋敷の中へ戻っていくリリアの背を見送って、さわさわと葉が鳴る木の梢を見上げる。隙間から漏れる光に目を細めた。


「とってもいいお天気ね」


 今日は暖かく過ごしやすい。


 フェンリル様にお願いして屋敷の庭をつかわせてもらうようになってから、私は様々な種類のハーブや植物を育てていた。


 今日も朝から肥料を与えたり、雑草を抜いたり。あれやこれやと作業していた。


 瞬間、サァーッと吹き抜けた爽やかな風が、木の葉だけでなく、花壇に根を張った瑞々しい葉を撫でていった。


 その姿にまた目尻が垂れる。


「ふふ、こんなにまっすぐ葉を広げて。庭に植え替えてしばらく元気がなくて心配だったけれど.....何とか持ち堪えてくれて嬉しいわ。お日様をたくさん浴びて、もっと大きくなってね」


 ーーあなたたちには、とっても大切な使命があるんですもの。


 優しく指先で触れて、語りかけた。


『.....ふふふ』


「え?」


 その時、指先から脳に直接伝わってくるような不思議な笑い声がした。


 驚いてきょろきょろ辺りを見回しても、誰も居ない。首を傾げて、じっと自分の指先を見つめてしまう。



 ーーザリ.....。


 と、背後で土を踏む音がして、低く落ち着いた声が背中越しにかけられる。


「ここに居たのか」


「......え、フェンリル、様?」


 振り返れば、執務室で仕事中のはずのフェンリル様が立っていた。思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。


「あー.....すまない、驚かせただろうか.....?」


 ぽりぽりと頭の後ろを掻きながら、彼が眉を下げた。


「あっ、い、いいえ!そんなことは....あ、いえっ、驚いたのは驚いたのですが.....っ」


 その様子に、失礼だったと慌てて立ち上がり言葉を重ねるが、しどろもどろになってうまく話せない。


「......くっ、くくく」


「......え?」


 私の慌てぶりに堪えらきれなくなったのか、ひとしきり肩を震わせたあと、フェンリル様は穏やかに言った。


「す、すまない.....あまりに焦っているから、つい。....俺は大丈夫だから、落ち着いて」


 変な所を見られてしまった恥ずかしさで顔に熱が集中する。


 同時に、自身を『俺』と砕けて呼ぶ様子に、ここ一ヶ月の(とき)の積み重ねを感じた。


 彼はそんな私を見て笑みを深めて、それからゆっくりと花壇に目を向けた。


「.....これは、君が?」


「あ.....は、はい。お庭を自由に使っていいとお許しを頂いたので。.....良かったでしょうか?」


「ああ、もちろんだ。ここは君の家でもあるのだから、好きに使ってほしい。それにしても.....見事だな」


「..........?」


「植物たちだよ。皆、手入れが行き届いているのが俺でもわかる」


「ありがとうございます....」


「.....こちらこそ」


「え?」


「あのお茶....君がいつも茶葉を用意してくれているだろう?」


「はい。まだ日が浅く育ちきっていないので、今は間引いた.....ハーブ、を使っておりますが.....」


 言葉が私の中の『記憶』に触れて、躊躇いが生まれた。


 ふと、彼の顔色をうかがってしまう。

 その表情に変化はない。


 ーーそういえば、彼の記憶はどの時点から欠けているのかしら。


 そんな疑問が浮かんだ。でも、すぐに透明に消え去った。どの時点からでも事実は変わらない。


 記憶を封じる魔法薬のせいでも。

 番を失った悲しみに打ち消されたせいでも。


 いま、彼は『ハーブ』の言葉にとらわれなかった。彼は『ミーナ』との出来事は覚えていない。 


「うむ、間引いたものも茶葉にできるのだな。夜はぐっすり眠れるし、食欲も戻ってきた。さっきサイラスにも言われたよ」


 ーー君のおかげだ。ありがとう。



「.............っ」


 身勝手にも俯きかけた心が.....すぐにまた上を向いた。私を真っ直ぐ見据えて贈られた言葉。


 彼はどうしていつも.....いとも容易く私の心を攫っていくのだろう。 


 そわそわする気持ちを誤魔化したくて.....私は再び手を動かし始めた。


 彼はそんな私のすぐそばに屈んでーー

 頬杖をついて、じっと私を見つめていた。


 どのくらい経っただろう。



「本当に....不思議な人だ」


「..............?」


 微かな声は、サクサク土をかく音にかき消された。


「何でもない。.....なぁ。またここに来てもいいだろうか......ジャスミン」


「っ、は、はい.....もちろんですわ」


 流れるように言われて、心臓が跳ねた。

 君でも、ジャスミン嬢でも、『ミーナ』でもなく。


 初めて本当の意味で、名を呼ばれた心地がした。


 返事を聞いて、彼が満足気な表情を見せた気がしたのも。一瞬、尻尾がふわりと振れた気がしたのも。


 きっと私が.....そのことに舞い上がっていたからだ。


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