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隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?  作者: こころ ゆい
第二章『初めまして、狼獣人さま』

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******



「今日はどこに行きたい?」


「夜市を見てまわりたいです」


「夜市か。わかった。少し遅くなるが大丈夫か?」


「はい。フェンリル様は大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない」


 翌日。私たちは街を歩いていた。


 街歩き用にと選んだ、襟付きのワンピースの裾がふわふわ揺れた。フェンリル様は襟付きのシャツにパンツスタイル。


 約束した時間に迎えに来てくれたフェンリル様と、今日の予定を決めていく。


「夜市まではまだ少し時間があるな」


 そう言って思案顔になったフェンリル様は、何か思いついたのか、私の手を引いていく。


 入り組んだ路地をいくつか曲がって着いた先に、大きな煉瓦造りの建物が建っていた。


 薄い色合いのレンガでつくられた壁には緑の蔓が伸びていて、レトロな雰囲気だ。


「ミーナは植物が好きだろう。もしかしたらここも喜ぶんじゃないかと思ってな」


「うわぁ。すごく大きな花屋さんですね」


 透明のガラス扉越しに、店内が見えた。

 色とりどりの花がそこかしこを彩っている。


「ああ。ここは王都いちと言われてる。種類も豊富だ。気にいるものがあるかもしれない」


「はいっ」



 中に入ると、ふわりとたくさんの花の香りがした。


「綺麗....」


 うっとりと店内を見回す。

 適切に管理された花は、元気に花びらを広げている。


 私はフェンリル様と並んでゆっくり店内を回った。


 しばらく進んだところで足を止める。

 奥のある一角に視線が釘付けになった。そこには様々な形の葉をピンと張るハーブが、ずらりと並んでいた。


 フェンリル様も同じ場所で足を止め、私とは違う一角を見遣った。


「これ.....」


「ミーナ、これ.....」


 声も同時にあげる。私は言いかけた言葉を一旦のみこんで、フェンリル様の指さす先に視線を向けた。


「君にプレゼントしたいのだが。君の瞳と同じ色でとても綺麗だろう?」


 そこにはラベンダー色の花が咲いていた。

 とても綺麗だ。瑞々しくていい香りがして。


「.....すごく綺麗ですね」


 でもーー。


 私の視線は再び反対側に張り付いた。

 その様子に気づいてフェンリル様が私の視線の先を追った。


 ......私はこっちがいい。


 我慢できなくなって今日も忘れずに持ってきていた本を急いで開いた。


「やっぱり.....」


 思わず言葉が漏れた。



「何がやっぱりなんだ?」


「フェンリル様!スタッフの方を呼びたいのです!」


 被ったお互いの言葉は、勢い込んで言った私に軍配が上がってフェンリル様の声はかき消された。


 そして、私の希望通りスタッフの女性がやってきた。


「お忙しい所、申し訳ありません。これなのですが....。もしかしてこちらと同一のものですか?」


 私は本のページを指し示して女性スタッフに問いかける。


「....ええ、間違いございません。この植物でございます」


「やっぱり!ではこちらは.....」


 今度は別のページを開いて、指し示す。


「ええ、そうです。こちらは大変希少なものでして、なかなか入荷されないのです」


「ええ、ええ!初めて見ましたわ。こんな所で出会えるなんて!」


 その後も興奮を隠さず随分長く話し込んでしまった私を、フェンリル様はじっと見つめていた。


 我に返った時には、スタッフの女性は業務へと戻っていた。


「申し訳ありません、私ったら....」


 ラベンダー色の花が視界の端にうつって、気まずさを覚えた。

 せっかくプレゼントしたいと言ってくれていたのに、違う植物に夢中になって彼を放っておいた。


 しかも、その植物は花でも何でもない。希少価値を知らない者からするとただの葉っぱにしか見えないハーブだ。


 いくらなんでもこれはひどいわ。今度こそ変わり者だと馬鹿にされるわよね。


 彼の瞳にうつる感情の色を読むのが怖くなって、おそるおそる視線を上げた。


 それなのにーー。



「君は花よりそっちが好きなのか」


 フェンリル様は嬉しそうに微笑んでいた。


「君を知れて嬉しい」


 私は小さく息を呑んだ。


 その声は丸みを帯びていて、刺々しさなんてひとつものっていない。


 それよりもっと他の.....

 胸がそわそわ落ち着かなくなるような、甘さを多分に含んでいる気がしたから。



 彼の柔らかそうなふわふわの尻尾は、今日も元気に揺れていた。


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