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「いえ!この後は宿にチェックインの予定だったんです」
「宿.....?」
唇は弧を描いたままピリリとした空気が渦巻いた。.....怒ってる?
「宿とはきちんとした所なのか。セキュリティは?施錠はしっかりできるのか?男性客はいないかとか治安の悪い場所に建っていないかとか。ちゃんと確認したのか?」
「えぇ.......?」
矢継ぎ早に質問されてどれから答えればいいのかわからない。ぐるぐる目が回りそうだ。
でもセキュリティや治安は大丈夫だろう。『王都観光案内所』の方の話とパンフレットの内容から富裕層向けの宿だとわかっている。
......それにしても。男性が泊まっていない宿とは女性専用ということだろうか。
「た、たぶ.....」
「送ろう」
「え?」
「宿まで送るよ。途中の道で何かあっても危ないし、宿のセキュリティも確認できる。君の言う通り今日はもういい時間だ。観光は明日からにしよう」
「.............」
「さ、そうと決まれば行こう」
答えようとした先から話が決まっていき、ポカンとする。
マーナガルム様はまだ「僕も送ってく!」と抵抗していたが、男性はタイミングよくやってきた護衛に彼を預けて何やら指示を出した。
最後まで「つぎはケーキいっしょにたべようねー!」と叫ぶマーナガルム様の声が聞こえなくなると、男性は私の前に腕を差し出す。
「さ、お手をどうぞ。荷物は俺が持とう」
「ありがとう、ございます......?」
「ああ。.......俺の名はフェンリルだ。王国騎士団に所属している」
「フェンリル様......?」
やはり彼は騎士団員だったらしい。マーナガルム様との関係性や護衛との接し方から察するに、かなり立場ある人物なのかもしれない。
ファーストネームだけの自己紹介は不思議に思いつつ、自分も本名を名乗れない状況だったと思い至る。.....困った。
「様はいらないんだがな。まぁ、今はそれでもいい。....君の名を聞かせてくれないか?」
「.....私のことは、ミーナとお呼びください」
ーー結局小さい頃、両親から呼ばれていた愛称を伝えることにした。
「ミーナ」
噛み締めるように呟かれた声と、ふわりと笑った顔に心臓が小さく跳ねる。
「これからよろしく、ミーナ」
「よろしく、お願いします......?」
そして、元婚約者との関係上、男性にまともにエスコートを受けた経験などほとんどない中、そっと彼の腕に手を添えた。
彼は私の歩幅に合わせゆっくりと。丁寧に気遣いながら歩いてくれた。
時折、彼の背で勢いを増していく尻尾の揺れが気になって落ち着かなかったが。
宿をひとしきり確認したあと、「また明日迎えにくる」といって聞かないフェンリル様は、「夜は危ないから外に出ないように」と何度も念を押して、振り返り振り返りーー帰っていった。




