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◇
ーーどれくらい経っただろうか。
沈黙が落ちて静けさを取り戻していた場に、ずっと抱えられたままのマーナガルム様の声がこだまする。
「もうっ!おじう...ぇぐっ」
「しっ。黙って下さい、マーナガルム様」
「............?」
何か言いかけたマーナガルム様の口に、男性がガバリと大きな手でストップをかける。何故黙らなければならないのか、納得いかない彼はふくれっつらだ。
「......ところで。また王妃様の香水を勝手に使いましたね?」
だが、次に放たれた言葉にギクリとそっぽを向いた。イタズラとは香水のことだったのか。
確か、獣人国でつくられる香水は有名だ。
武力に秀でた獣人たちだが、なかには手先の器用な種族や特に鼻が利く種族もいて、その者達が作り出す工芸品や香水はわざわざ他国から商人が買い付けに来るほどの品質らしい。
「王妃様の香水を持ち出して、方々に撒いたでしょう。しかも大量に。皆、鼻がおかしくなりそうだと泣きながらマーナガルム様のにおいを追っていたんですよ?護衛たちは顔が真っ青でしたし。......まさか城まで抜け出していたなんて。元気なのはいいですが、ほどほどにしないと陛下がお怒りになります」
「うっ.....ごめんなさい」
「はい。城へ戻りましょう。お二人がとても心配しておられます」
マーナガルム様にとっては雲行きが怪しくなってきたが、二人が城に戻る空気に、私は胸を撫で下ろす。
「では、私はこれ....で!?」
そうして、くるりと背を向けようとしたら男性の骨ばった手にガシッと手首を掴まれた。
「どこ行くの」
「え?」
痛くはない強さだがビクともしない。
「どこ、行くの?」
「そうだよー!僕とケーキ食べるんだから」
まだ肩に米俵のごとく担ぎ上げられたままのマーナガルム様も参戦した。
「え.....えっと」
「君、王都には旅行か何かで?」
男性はチラリとキャリーケースに目を向ける。
「......はい」
旅行といえば旅行になるのだろうか.....
長く家を空けるつもりはないし、今回の旅での目的も決めてある。私の身分と両親に無許可で家を出てきていることをのぞけば、旅行といえなくもない。
「じゃあ、俺が街を案内するよ。いや、案内させて欲しい」
「.......っ、だ、大丈夫ですわ!お忙しいでしょうし!私はただ、迷子のマーナガルム様を送りに来ただけで」
突拍子もない提案に目を剥いた。
初対面の相手に何故そんな提案が飛び出すのだろう。それに、この旅は一人で回りたい。私の目的のためにはそれが一番いい。......また変わり者だと言われるだけだもの。
でも有無を言わせない凄みを纏って男性は顔をズイッと近づけてきた。
「忙しくない。君の案内以上に大事なことなんてない。さぁ、行こう。今すぐにでも」
「僕も行くーー!」
圧を感じる笑みで言われて後ずさったら、マーナガルム様がまた駄々をこねる。




