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ドクンと心臓が大きく脈打ち、どんどんスピードを上げて行く。苦しい。胸が締め付けられて息ができない。
ーーいや。本当に空気を吸えない。
かろうじて動く視線で理由を探ると、後ろに隠れるマーナガルム様がワンピースの生地をこれでもかというほど引っ張っていた。
「..........っ」
迫る男性から逃れようとする彼には私の表情など見えていない。子供といえどさすが獣人。ものすごい腕力だ。
ぎゅっと目を瞑った瞬間、マーナガルム様の手が緩んだ。......良かった、息が吸える。
「大丈夫?」
そろりと瞼をあげた先に、眉を下げて心配する男性の顔があった。
マーナガルム様は「やーだー!離せー!」と手足をばたつかせて抵抗しているが、男性は難なく片手で抱き抱えている。
「.....はい、ありがとうございます」
「いや。大事なくて良かった」
助けてくれたのだとわかって返事を返すと、優しい笑みを浮かべて垂れた尻尾をファサッファサッと楽しく揺らした。今気づいたが、男性は白の立派な騎士服を着ている。
「それにお礼を言うのはこちらだよ。マーナガルム様を連れてきてくれてありがとう」
「あ、はい。道に迷っているみたいだったので」
「探し回っていたから助かったよ。マーナガルム様のイタズラでにおいを辿れなくてね」
「そうですか.......?」
「うん」
と、しばらく私を見ていた銀の瞳がほんのわずかに細まった。
小さな皺が眉間に寄り、何か訝しむ様な、不思議だと言わんばかりの顔を見せた。
「君....狼獣人だよね?」
「え.....、あ。は、はい」
「だよね。....ごめん変なことを聞いて。同族なのに」
冷や汗が伝ったが、何とか誤魔化せた。
そしてまた笑み崩れた男性は、幸せそうに言った。
「やっとだ。会えて嬉しいよ」
「............?」
......誰に?マーナガルム様にだろうか。
私を見つめて言う言葉に、一拍置いて首を傾げてしまった。
「え......君もしかして、鼻が?」
彼は再び目を見開いて、うかがう様に尋ねた。
「..............」
聞かれて私はさらに困った。
鼻......?鼻が、なに?
無意識に眉がハの字になっていく。
私の反応を見て、みるみる男性の顔も曇っていった。
次に溢れた言葉はガタイの良さに似合わない、聞き取るのがやっとなほどの消え入りそうなものだった。
「.....それじゃあ」
ーー俺のこともわからない?
「.................」
.....わからない。彼の言っている意味は、噛み砕けばわかるという類ではない気がする。人間の私では汲み取るのは難しいと。
でもいま、彼らには私の姿は同族にうつっているのだ。狼獣人ならば知っていて当然の事柄なら、尋ねればかえって怪しまれる。
「.......そっ、か」
何も言えないでいると表情で察したのだろう。
彼は困った様な、落胆を隠せない様な。悲しげな笑みを見せた。




