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この世には、知力を磨く『人間』、魔力を操る『魔法使い』、そして武力に富んだ『獣人』が存在する。
モーリャント王国から船で三日走った所にある隣国。
そこは、それぞれの種の特徴を身体に残した獣人達が住まう獣人国・ユービィスト王国だ。
王妃教育の際、この国に関して深く学んだ。隣国であり、目覚ましい発展を遂げるユービィスト王国とは今後、国交が盛んになるであろうと。
「ここが、ユービィスト王国.....」
この国の港から二時間ほど乗り合い馬車に揺られて、目的地の王都までやってきた。
地面に降り立ち、見据える先にはユービィスト王城。
モーリャント王国の美麗さを意識した白亜の城とは一味違った造りだ。
赤と茶の壁で、形はまるで要塞。武力に優れた獣人国に相応しい堅牢な雰囲気が漂っていた。
「それにしても、すごいわ。聞き及んでいたけれど、やはりこちらの国の皆様は耳や尻尾があるのね」
当たり前だが、行き交う人々は皆、獣人だった。
もちろん港から馬車で30分ほどの距離まではちらほら人間も居たし、モーリャント王国の港でも時折獣人達が出入りしている。
二国間では貿易も行われているため、船乗りや港への出入りが頻繁にある人間なら、ごくごく見慣れているのかもしれない。
だからこそ『魔法薬』を飲んで他者からは狼獣人に見えているこの姿で船に乗っても怪しまれなかった。
でもーー。
私にとっては、学びはしても実際に会うのは初めてだ。
幻視魔法は他者へ効力を発揮するらしく、鏡に映る姿を自分で見てもいつもと変わらない人間の自分が映っているだけだった。
獣人たちの姿は本にあった通り、獣の特徴を身体に有していた。
頭の上でピクピク動く丸や三角、縦長や途中からパタンと折れた形の耳たち。
お尻に注目するのはマナー違反だが、視線が釘付けになるふわふわやもこもこの尻尾。猫科の種族は長くしなやかな形だ。
しかも、男性でも女性でも190センチ以上はある。160センチほどの自分とは違って非常に背が高く均整のとれた身体。まさに武術向きだった。
女性は簡素なワンピースに耳のイヤリング。男性はラフなシャツにスラックスの様な出で立ちで、自国と似ている。これが貴族や王族となればまた変わってくるのだろう。
思わずほうっと惚けてしまうほど、麗しい姿だ。
「.....っ、いけない。早くしなくちゃ」
大きな荷物を傍に置いて道に立ち尽くす様子に、興味津々な視線を向けられて、やっと我に返る。
ぐるりと周りを見てみると馬車のステーション前に『王都観光案内所』と書かれた看板が立っているのが目に入った。
「確かあそこで聞けばいいのよね」
私は茶色く大きなドアに手をかけた。
◇
数十分後ーー。
『王都観光案内所』を出て、宿に向かおうとしていた時。
「.....ふっ、ぅ。ぐす」
「......あら?」
何処かから泣き声が聞こえた。
声のする方へ足を進めると少し離れた道の路地の入り口で、顔を俯け膝を抱えて蹲る小さな影を見つけた。
吹き抜ける風に、淡い金色の髪がサラサラ靡いている。
三角耳はぺたりと伏せられ、ふわふわで毛艶のいい尻尾が心細さに耐えるように身体に巻きついている。犬科の獣人の子供のようだが.....迷子だろうか。
「どうしたの?」
そばまで歩み寄ると、なるべく怖がらせないようそっと問いかけた。
「......え?」
ピクリと体全体が揺れ、顔が上向く。鼻をズビリと鳴らして、金色の瞳をたたえた目は赤く泣き腫らしていた。一人の恐怖と不安に耐えていたのだろう。
見たところ男の子だ。
所々汚れてはいるが、上等な生地であつらえた服を着ていて、貴族の子供とあたりをつける。
「迷子かな?お姉さん怪しい者じゃないわ。あなたが心配で。良ければ、お話し聞かせてくれないかしら?」
「.....うっうっ。はは、うえ~」
「ああ....っ」
母親の姿が過ったのか、一瞬止まっていた男の子の涙が再びぶわっと溢れ出した。
◇




