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蒼龍くん物語エピソードゼロ:「十龍図」若き日の玄龍の心の旅  作者: 蒼龍 堅明


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第六話:騎龍帰家(きりゅうきか):己の心と力を一つにし、目的に向かって駆ける

「自分の中の龍」と対話し、心と力を一つにした玄龍げんりゅう

そして、その力を極限まで研ぎ澄ませ、危機に瀕した親友・黒龍こくりゅうのもとへとひた走ります。

しかし、辿り着いた先で目にしたのは、恵みの雨を浴びながら狂気に染まる人間たちの姿でした。

玄龍の「驀直まくじき」は、間に合うのでしょうか。

山を駆け降りる玄龍の足取りは、かつてないほどに鋭く、そして静かでした。


自分の中に棲む荒ぶる龍をなだめ、その背を自在に乗りこなすかのように、心と体が完全に一つになった感覚。迷いは消え、ただ「親友のこくを救う」という一念だけが、彼を弾丸のように突き動かしていました。


村へ向かう道中、玄龍は己の内に宿り始めた「驀直まくじき」の力を確信します。

それは、相手を粉砕するための破壊の力ではなく。どんな障害も恐れず、最短距離で大切な場所へと辿り着こうとする、純粋な意志の光でした。


しかし、胸騒ぎは激しくなる一方。

あの村人が放った「黒龍さまを逃さない」という不気味な呪言が、脳裏に張り付き、離れません。


「待っていろ、黒。今、オレが行く」


玄龍は黄金の鱗を風になびかせ、大地を飛び越えるように、ただ前だけを見据えて走り続けました。


かつての玄龍なら、己の速さに酔い、己の力に溺れていたかもしれません。しかし、今の彼には己の力に愉悦する心の隙など微塵もありませんでした。ただ、友が背負わされた不当な重圧を、一刻も早く取り除きたい。その一心で、自らの限界を超えて加速します。


そして村の入り口が見えたとき、玄龍は世にも凄惨な光景を目の当たりにしました。


空には黒龍が呼び寄せた雨雲が重く立ち込め、待望の恵みの雨が降り注いでいます。しかし、雨に打たれる村人たちの顔に、感謝の情など一露ひとつゆもありません。


彼らは鎌やくわを凶器として手に取り、泥濘ぬかるみの中に力なく横たわる黒龍を、飢えた獣のように囲んでいたのです。


そこには、あの湖畔で見た神々しい面影はありません。人々のために全霊を使い果たし、指一本動かすことさえままならない、傷だらけの姿がありました。


「黒ーー!!」


玄龍は喉が裂けるほどに叫びましたが、その声は激しい雨音に無慈悲にかき消されます。

一人の村人が、あざ笑うような狂声を上げました。


「さあ、黒龍さま! あなたが死ねば、その肉と血で我らは永遠の命を得るのだ。これこそが、あなたを救い主と崇めてきた我らへの、最後の奉仕というものでしょう!」


黒龍は、ただ悲しそうに、泥に濡れる地面を見つめていました。


その時です。

黒龍の全身から、これまで見たこともないような「真っ黒な霧」が、じわりと滲み出し始めました。


玄龍は、あと数丈の距離を埋めるために、全霊を込めて最後の一歩を踏み込みます。

この距離、この一瞬に、自分の「驀直」を間に合わせなければならない。

親友の心が、完全な闇に塗り潰されてしまう前に――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


自分の心(龍)を自在に乗りこなし、一心不乱に目的地へと向かう。それが「騎龍帰家」の境地です。しかし、玄龍さまが辿り着いた場所は、あまりにも残酷な光景でした。


親友・黒龍から溢れ出し始めた、不気味な真っ黒い霧。それは、あまりに純粋だった魂が絶望の淵で上げた、最後の悲鳴だったのかもしれません。


次回、第七話「忘筌ぼうせん」。

泥濘を駆け抜けた玄龍の前に立ちはだかるのは、強欲な人間たちと、闇に呑まれゆく親友の心。手段を捨て、ただ一念で手を伸ばしたその先に待っていた結末とは。


合掌

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