第四話:得龍(とくりゅう):己の中の荒ぶる力を捕らえる
親友・黒龍の気高い姿を目の当たりにし、己の未熟さを痛感した玄龍。
第四話では、自分の中に渦巻く「制御不能な力」との格闘が描かれます。
「強さ」とは一体何なのか。
その答えの断片を、玄龍が必死に掴み取ろうとする姿をぜひご覧ください。
黒龍と別れた玄龍は、人里離れた険しい断崖の地へと足を踏み入れていました。
湖畔で目にした、親友のあの気高く、透き通るような献身。
それに引き換え、自分の中に渦巻いているのは、依然として「誰よりも強くなりたい」という荒々しく、独りよがりな渇望です。
「黒は、誰かのために命を削ろうとしている。なのに俺は、まだ自分の力の使い道すら掴めていない……」
玄龍は己の未熟さに苛立ち、巨大な岩壁に向かって拳を叩きつけます。
黄金の鱗が火花を散らし、凄まじい衝撃音が山々に響き渡りました。
しかし、どれほど岩を砕き、古木をなぎ倒しても、心の中の霧が晴れることはありません。
それどころか、力を振るえば振るうほど、玄龍の体からは制御不能な奔流のようなエネルギーが溢れ出します。その熱は周囲の緑を焼き、土を深く抉り、ただ破壊の跡だけを広げていきました。
「違う。俺が求めているのは、こんな無意味な破壊ではないはずだ」
玄龍は、暴走する自らの力を力ずくで抑え込もうともがきます。
それは、自分の中に棲むもう一頭の「荒ぶる龍」と、命がけで組み伏せ合っているかのようでした。
ある嵐の夜。
玄龍の元に、一羽の小さな鳥が迷い込みます。
翼を怪我し、激しい雨風に打たれて震えていました。
玄龍は咄嗟に、その鳥を救おうと手を伸ばします。
しかし――あまりに強大すぎる彼の指先は、繊細な命に優しく触れることさえ許してくれません。
助けたいと願う心に、鍛え上げた巨躯が追いつかないのです。
結局、玄龍が近寄るだけで、その威圧感に怯えた鳥は、闇の向こうへと消えていきました。
玄龍は、自分の大きな掌を見つめ、初めて底知れぬ恐怖を感じました。
「このままでは、俺は何かを救うどころか、近づくものすべてを壊してしまう」
彼は泥濘に膝をつき、必死に自らの呼吸を整えます。
外側へと撒き散らされていた全エネルギーを、自分の内側の芯へと、一点に鋭く集中させていきました。
「力とは、外へ放つものではない。ただ一本の矢のように、己の信念を貫くために研ぎ澄ますものだ」
玄龍は、闇を切り裂く雷鳴の中で、静かに立ち上がります。
これまでの「自分を誇示するための力」を捨て、ただ「迷いなく真っ直ぐに進む」という一念だけを胸に宿そうと決意したのです。
まだその輪郭は朧げでしたが、玄龍の右拳には、これまでの破壊的な光とは違う、澄み渡った一筋の輝きが宿り始めていました。
後の蒼龍くんが戦いで見せる、あの迷いなき一撃。
その原初となる「驀直」の光を、玄龍はこの時、自らの内側に確かに捕らえたのでした。
しかし――。
その修行場の遥か彼方。
黒龍が祈りを捧げる村の空には、雨を待つ人々の「期待」が、いつしかどす黒い「執着」へと姿を変え、渦巻き始めていたのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
自分の力をコントロールできずに苦しむ玄龍。その葛藤の中で見つけた「驀直(まっすぐに、ただ進む)」という心。それは、お山の玄龍さまが今でも大切にされている、禅の真髄の一つでもあります。
力は外へ放つものではなく、内側へと研ぎ澄ますもの。ようやくその入り口に立った玄龍ですが、修行の平穏を破る不穏な影が忍び寄ります。
次回、第五話「飼龍」。
自分の中に棲む龍を「飼い慣らす」術を学び始めた玄龍の元へ、親友・黒龍の危機を告げる者が現れます。善意が強欲に塗り替えられていく恐怖。物語は一気に加速していきます。
合掌




