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蒼龍くん物語エピソードゼロ:「十龍図」若き日の玄龍の心の旅  作者: 蒼龍 堅明


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第三話:見龍(けんりゅう):目指すべき自分の姿を捉える

老龍との出会いを経て、少しずつ「力み」が取れてきた玄龍げんりゅう

第三話では、かつての親友であり、最大のライバルでもあった黒龍こくりゅうとの再会が描かれます。

自分自身の強さだけを追い求めていた玄龍が、初めて目にした「真に気高い龍」の姿。そして、二人が交わした約束の行方とは……。

老龍が遺した言葉を噛み締めながら、玄龍は独り、歩みを止めることなく進んでいました。


力任せに地面を蹴るのをやめ、土の柔らかさや風の冷たさを肌で感じるようになると、不思議な変化が訪れます。あんなに自分を支配していた焦燥が、凪いだ海のように静まっていくのが分かりました。


ある日、玄龍は水の枯れ果てた湖のほとりに辿り着きます。

ひび割れた土底が剥き出しになったその場所で、彼は見覚えのある、懐かしい後ろ姿を見つけました。


「……こくじゃないか」


それは、かつて同じ道場で切磋琢磨した無二の親友、黒龍でした。

声をかけようとした玄龍は、しかし、その場に釘付けになります。漂ってくるあまりに神々しい気配に、思わず息を呑んで立ち尽くしてしまいました。


黒龍は干上がった湖に向かって静かに座り、精神を深淵へと研ぎ澄ませています。


聞けば、近隣の村では峻烈な旱魃かんばつが続き、人々が飢えと渇きに喘いでいるといいます。黒龍はその地を救うため、自らの命を削るような、全霊を賭した雨乞いに挑もうとしていたのでした。


げんか。久しぶりだね。君の鱗、前よりもずっと落ち着いた輝きになったじゃないか」


黒龍は穏やかに微笑みます。

その瞳には、己の利害など微塵も介さない、透き通るような慈愛が宿っていました。


黒龍がそっと手を空にかざすと、恵みの予兆を孕んだ白い雲が、ふわりと浮かび上がります。


その時、玄龍の目には、黒龍の背後に巨大な守護神の幻影が映ったような気がしました。

それは力で誰かをねじ伏せるための姿ではありません。ただ、誰かのためにすべてを捧げようとする、真に気高い龍の本質でした。


「俺は今まで、何を競っていたんだろう……」


自分のための強さを誇示してきた黄金の鱗が、急にひどく幼い、虚飾のものに思えてきます。

目の前にいる親友は、すでに自分よりも遥かに高い場所……「他者のために生きる」という、真実の入り口に立っていたのです。


「黒、俺はやっと分かったよ。俺が捜すべき真実の龍の姿は、お前の中にあったんだな」


玄龍は、黒龍の迷いなき生き方を自らの目標に据えました。

そして、自分をさらに厳しく鍛え直すことを、心に深く誓います。


黒龍の瞳は、沈みゆく夕日を浴びて、どこまでも純粋な希望に満ちていました。

ただ、目の前の命を救える喜びに、その心を震わせていたのです。


「玄、いつか一緒に行こう。誰もが笑って暮らせる世界へ」


二人は夕暮れの湖畔で、固い握手を交わしました。

玄龍は、親友が示す高みに少しでも近づくため、さらなる修行の旅へと背を向けます。


しかし――。


それが二人で心から笑い合えた、最後の瞬間になるとは、この時の玄龍には知る由もありませんでした。


黒龍が纏っていた、あの眩しすぎるほどの純粋な光。

それが皮肉にも、残酷な闇を招き寄せる引き金になろうとしていたのです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


目標となる師や友に出会い、その背中を捉えること。

それが、十龍図における「見龍けんりゅう」の段階です。

玄龍にとって、それは親友である黒龍の揺るぎない献身の姿でした。


しかし、物語はここから激動の渦に巻き込まれていきます。

光が強ければ強いほど、その背後に落ちる影もまた、深く、濃くなるもの。

黒龍の純粋さが招く運命とは。次回の更新をお待ちください。


次回、第四話「得龍とくりゅう」。

親友の高みに焦る玄龍の前に立ちはだかるのは、他ならぬ自分自身の「制御不能な力」でした。

暴走する黄金の光を、彼はどう御していくのでしょうか。


合掌

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