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狂信の聖教国

血濡れた玉座に腰掛ける深闇の覇王からの問いかけ。

アリアは震える唇を噛み締め、何とか声を絞り出そうとした。


「……永き時の中で、女神の教えは――」


アリアが世界の歪みを口にしようとした、まさにその時だった。


「――そこまでだ!! 穢らわしい魔の眷属め!」


祈りの間の崩れ落ちた扉から、白銀の甲冑に身を包んだ数十人の集団が雪崩れ込んできた。

胸に女神の紋章を掲げた、この世界において最強の武力を誇る『神聖教国』の聖騎士団である。


彼らは、王城を囲んでいたはずの魔獣が全て細切れの肉塊となっていることに一瞬驚愕の表情を浮かべたが、すぐに玉座に座るブライスと、その傍らに控えるヴァイスへと鋭い殺気を向けた。


「我ら神聖教国の聖騎士が到着したからには、もはや貴様らの命はない! 小国の姫をたぶらかし、魔獣の死骸の山を築いた悪魔よ! 光の御名において、その首を刎ねてくれる!」


聖騎士の隊長が、傲慢に満ちた声で聖剣を抜き放つ。

彼らは自らがこの時代の「最強」であり、正義であると疑いすらしていない。


だが、玉座のブライスは、彼らに視線すら向けなかった。

ただ、自らの言葉を遮られたことに、ひどく退屈そうなため息を一つこぼしただけだ。


「……耳障りだ。伏せろ」


ブライスが、ひと言、ただ静かに呟く。

かつて地下の女神から簒奪さんだつした神の権能の一つ、『絶対隷属の言霊』。


「なっ――!?」


次の瞬間、数十人の聖騎士団を、目に見えない巨大な重圧が真上から押し潰した。

白銀の甲冑が悲鳴を上げ、彼らは剣を振るうどころか、何が起きたのかを理解する間もなく、無様に石の床へと顔面を叩きつけられた。


「ガァッ……!? ぐ、あ……ッ」


彼らの誇る聖なる加護など、原初の王の前では紙切れほどの意味も持たない。

ただの一瞥も、指一本すら動かすことなく。

現時代の最強と謳われた聖騎士たちは、その圧倒的な覇気の前に白目を剥き、全員が泡を吹いて一瞬にして気絶した。


祈りの間に、再び完全な静寂が戻る。


「さて」


ブライスは何事もなかったかのように足を組み直し、呆然とするアリアへと視線を戻した。


「羽虫の羽音は止んだ。話の続きを聞こうか、王女よ」


アリアはごくりと唾を飲み込んだ。

自国を滅亡の淵に追いやった魔獣の群れを瞬殺し、そして今度は、世界を牛耳る神聖教国の精鋭を声だけで気絶させた。この御方は、本当に次元が違う。


アリアは深く頭を下げ、真実を語り始めた。


「……今から数百年ほど前。争いのない平穏な世界を享受していた人間たちの中に、『この平穏は女神様が不浄な魔族を滅ぼしたからだ』と狂信する者たちが現れました。それが、先ほどの彼らが属する『神聖教国』の始まりです」


アリアの声には、深い絶望と憎悪が滲んでいた。


「彼らは女神の威光を傘に着て、世界を支配しました。そして……教国に従わない我々のような辺境の小国を『不浄の地』と断定し、女神の試練と称して、定期的に魔獣の群れを差し向けるようになったのです」


「なるほど」


ブライスの冷たい瞳の奥で、深淵の炎が微かに揺らいだ。

彼がかつて創り上げたのは、無駄な争いの一切を排除した、完璧で静かな箱庭だったはずだ。


「僕が手ずから定めた美しいことわりを、下等な人間どもが自らの欲望のために濁し、あろうことか僕が堕とした女神の名を使って歪めたというわけか」


それは、神に対する冒涜ではない。

この世界の真の支配者たる、原初の王に対する万死に値する『反逆』であった。


ブライスはゆっくりと玉座から立ち上がった。

その瞬間、王城そのものが震え上がるほどの、途方もない覇気が放たれる。


「ヴァイス」

「はっ。ここに」


第一の悪魔が、恭しく頭を下げる。


「……少し、大掃除が必要なようだ。女神の名を騙る愚か者どもに、この世界が誰の箱庭であるか……その魂に、直接刻み込んでやろう」

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