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魔王城の定例会議

魔族領の最奥にそびえ立つ、空を貫く漆黒の魔王城。

その中枢にある重厚な円卓の間には、月に一度の定例会議のために「黒影の四天王」が集結していた。


吸血鬼の真祖・カーミラが退屈そうに血のワインを揺らし、巨人の王・ヴォーグが巨大な戦斧を床に突き立てて鼻息を荒くしている。


ヴォーグ

「ガハハハッ! おい新入り! 随分と余裕な顔で来やがったな! 人間国の勇者との戦争はどうした! 首は取ってきたのか!? もし手こずってるなら、俺の軍団を貸してやってもいいぞ!」


ガラン

「ヴォーグ、黙れ。戦争は遊びではない」


魔将軍ガランが、歴戦の猛者らしい鋭い眼光でブライスを睨み据えた。


ガラン

「人間国の中枢、大魔導塔を落とすには、あの防衛機構の堅牢さを考えれば最低でも三年、そして三万の犠牲が出るはずだ。……新入り、貴様はどれだけの兵と物資を消耗した? 報告しろ」


魔族たちにとって、戦争とは力と数のぶつかり合いであり、血を流して領土を奪うものだ。

円卓の最座に座る魔王もまた、沈黙のままブライスの口から語られる『被害報告』を待っていた。


だが、ブライスは静かに立ち上がると、シワ一つない漆黒のシャツの袖を直しながら、事もなげに口を開いた。


ブライス

「ご心配には及びません、ガラン殿。……結論から申し上げますと、我が軍の損害は『兵士の死傷者ゼロ』、そして『消費した物資もゼロ』です」


ガラン

「……は? ゼロ、だと……? 貴様、大魔導塔への進軍を諦めたのか?」


ブライス

「いいえ。大魔導塔の制圧および、人間国の完全な平定は完了しました。……ただ、力で制圧するのは『管理コスト』が跳ね上がるため、方針を変えただけです」


ブライスは、まるで会社の四半期決算を報告するような、淡々とした事務的なトーンで言葉を続けた。


ブライス

「勇者レオンの心を論理的に折り、彼を『我が軍の傀儡システム』として人間国へ返還しました。現在、人間国は勇者という『中間管理職』の指揮の下、彼ら自身の手で開拓と生産を行い、その利益だけを魔族側に上納する『完全な自律稼働ファーム(子会社)』として機能しています。……我々が手を下す必要はありません。向こうが勝手に、死に物狂いで働き、富を納めてくれます」


円卓が、水を打ったように静まり返った。


ヴォーグ

「……は? 戦ってねえのに勝った? 勇者が俺たちのために働いてる? ……ダメだ、意味が分かんねえぞ!? 勇者の野郎、なんでそんな大人しく言うことを聞いてるんだ!?」



ガラン

「……貴様、まさか……」



ガランの顔色が変わった。彼は百戦錬磨の戦略家であるがゆえに、ブライスの言葉の裏にある「恐るべき盤面」を瞬時に理解したのだ。


ガラン

「あの教国の聖女を……人質にしたのか。そして、勇者を民衆の前で英雄として祭り上げ、その『賞賛』と『責任』を、勇者を縛り付ける呪いの鎖に変えたというのか……?」


ブライス

「ご明察です。彼らはもう、自ら死ぬことも、反逆することもできません。完璧な『永久機関』の完成です」


微笑むブライスを見て、ガランの額から一筋の冷や汗が流れ落ちた。

血を流すこともなく、敵の最も尊い感情(正義と愛)をシステムの歯車として利用し、国ごと奴隷に作り変える。


ガラン

「(……貴様、どれほど悪辣な盤面を描けば気が済むのだ。力で蹂躙する我ら魔族よりも、遥かにタチが悪い……!)」


サリエラ

「うわぁ……本当にえげつないわね。私、あなたの領地には絶対関わりたくないわ」


サリエラが本気でドン引きしたように肩をすくめる中、最座の魔王が低く、深い笑い声を上げた。


魔王

「ククク……見事だ、ブライス。無駄な血を流さず、敵の英雄すらも資源として自軍のインフラに組み込むその異常な手腕……お前を四天王に迎えた私の目に狂いはなかった」


魔王はゆっくりと立ち上がり、円卓を見回した。


魔王

「地上の憂いは、黒影の四天王によって完全に排除された。……だが、盤面が変われば、新たな敵が動く。ブライスよ、お前のその『論理』が通じない相手が、間もなくやってくるぞ」


ブライス

「……と、おっしゃいますと?」


魔王の瞳に、かつてないほどの緊迫した光が宿る。


魔王

「天界だ。……自らの代行者である聖女が魔族のメイドとして屈服し、人間国が魔族の牧場に堕ちたこと。天界に座す『女神』が、この結果に激怒している」


ガラン

「女神が……動くというのですか!?」


魔王

「ああ。女神は不甲斐ない人間どもを完全に見限り、自らの手で地上を粛清する腹積もりのようだ。……間もなく、魔族領に直接、女神直属の『純粋な殺戮兵器』が降臨する兆しがある」


ブライス

「殺戮兵器……天使、ですか」


魔王

「そうだ。奴らには恐怖も、絶望もない。感情を持たず、ただ絶対の命令で破壊を行うだけの兵器の軍団だ。……ブライス。お前の得意な『心の破壊』や『管理』は通じないぞ。どう迎え撃つ気だ?」


挑発するように問う魔王に対し、ブライスは一切の動揺を見せず、ただ涼しげに目を細めた。


ブライス

「心がなく、管理もできないただの兵器(機械)なら……話はもっと簡単ですよ」


ブライスの背後の影が、不気味に、そして圧倒的な質量を伴って蠢いた。


ブライス

「僕の優秀な部下たちが、ただの『物理的なスクラップ』に変えて差し上げます」


天界からの規格外の脅威。

だが、その脅威すらも、ブライスと配下の悪魔たちにとっては、新たな「蹂躙」のための舞台装置に過ぎない。

人間国の悲劇を終えた盤面は、いよいよ神と魔が直接激突する、次元の違う戦乱へと突入しようとしていた。

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