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聖女セシリアの『メイド修行』24時

【 AM 5:00 ―― 起床と「匠」の先制攻撃 】


聖都アルカディアでは、この時間は祈りの時間だった。

しかし、ブライスの屋敷に住み込み(志願)したセシリアにとって、今は「戦い」の始まりだった。


セシリア

「(……見ていなさい、悪魔たち! 私だって女神の加護を受けた聖女。お掃除くらい、神聖魔法でパパッと片付けて、ブライス様に『君の方が優秀だね』と言わせてみせるわ!)」


セシリアは鼻息荒く、愛用の聖杖を手に執務室へと忍び込んだ。

塵一つない部屋をさらに浄化し、完璧な朝を演出するつもりだったのだが。


シュヴァルツ

「……おや、セシリア殿。随分とのんびりとしたお目覚めですね」


セシリア

「なっ……!? し、シュヴァルツ!? なぜもう掃除が終わっているのよ!」


シュヴァルツ

「このシュヴァルツ、主様が眠りにつかれた後、一秒間に一兆回の『ナノレベル空間清掃』を完了させております。今、この部屋の空気中に浮遊する塵は、主様にとって最適なミネラル分を含むもの以外、存在しません」


セシリア

「いち、一兆回……!? バカじゃないの!? 掃除にそこまでリソースを割く必要があるの!?」




【 AM 8:00 ―― 洗濯物と「次元」の壁 】


朝食(神級悪魔が作った、食べるとレベルが上がる絶品料理)を終え、セシリアは洗濯を志願した。


セシリア

「ふふん! 浄化魔法を使えば、どんな汚れも一瞬で真っ白よ! さぁ、ブライス様のシャツを持ってきなさい!」


サファイア

「あら、それならもう終わっていますわ。ルビーが『次元の隙間』にシャツを放り込み、時間の流れを加速させて乾燥と殺菌を同時に完了させましたもの」


セシリア

「洗濯に次元の隙間を使うな!!」


サファイア

「見てくださいませ、このブライス様のシャツを。アイロンなど使わずとも、繊維の一本一本が主様の体型に合わせて最適化され、シワ一つありませんわ。機能性と美しさの究極の融合……まさに神の衣ですわね」


セシリア

「(……確かに、あのシャツ、汚れどころかシワ一つないわ。ブライス様が着ると、なんだかものすごく『仕事ができる男』に見えるのは、あの完璧なシャツのせいなのね……)」


ブライスが愛用する、シワにならない機能美を極めた白いシャツ。それは悪魔たちの狂気的なメンテナンスによって、もはや聖遺物以上の輝きを放っていた。




【 PM 1:00 ―― リエルと「究極」の遊び 】


午後のひととき、セシリアはエルフの少女リエルの遊び相手をすることになった。


セシリア

「(これよ! これなら私の得意分野だわ。聖なる光で動物の幻影を作って、リエルちゃんを楽しませてあげれば……)」


リエル

「セシリアお姉ちゃん! 今、ルビーお姉ちゃんに『本物の古龍』を召喚してもらって、背中に乗ってお散歩してるところなの! 一緒に乗る?」


セシリア

「……えっ? あ、あれ……本物のドラゴンじゃない。……ねぇ、なんでお庭に古代の守護竜が大人しく座ってるの? 絶滅したはずじゃ……」


ルビー

「あぁ、これですか? 主様が『リエルが退屈そうだ』と仰ったので、地獄の底から一匹、躾けて連れてまいりました。セシリア殿、お茶のおかわりはいかが? ちょうど今、女神の涙を蒸留した水でお淹れしましたわ」


セシリア

「女神の涙を飲料水にするな!! バチが当たるでしょ!!」


ルビー

「あら。主様が喜んでくだされば、それが正義。女神もきっと、お茶の出汁になれて本望でしょう」


セシリア

「(……だめだわ。この屋敷の人たち、根本的に価値観がぶっ壊れてる。でも……このお茶、悔しいけど聖都のどの聖水よりも美味しいわ……)」




【 PM 4:00 ―― 買い出しと「究極の乗り心地」 】


ブライスに頼まれ、セシリアは食材の買い出しに同行することになった。


セシリア

「(やっとブライス様とお出かけだわ! 聖女として、民衆に慈愛を振りまく姿を見せて、好感度を稼ぐチャンスよ!)」


ブライス

「あ、セシリアさん。今日は歩かなくていいですよ。ヴァイスたちが『主様に土埃を吸わせるわけにはいかない』って言って、とっておきの移動手段を用意したみたいだから」


セシリア

「移動手段? 馬車かしら?」


セシリアが首を傾げたその時、ヴァイスが黒い霧と共に、一頭の異様な「馬」を引き連れて現れた。

漆黒の毛並みは鋼鉄のように鋭く、瞳には紅蓮の炎を宿した、悪魔と魔馬が融合した高位個体だ。


ヴァイス

「主様。深淵の底より、最高級の駿足を持つ『影鋼魔馬エイガナハト』を召喚いたしました。そして……主様のご助言を形にした、特製の馬車でございます」


そこに現れたのは、装飾こそ控えめだが、どこか機能的な美しさを放つ漆黒の馬車だった。


ブライス

「うん、いい出来だね。セシリアさん、この車軸の接続部分を見てください。魔法銀ミスリル製のバネと、影の魔力で減衰力を調整する『多リンク式アクティブ・サスペンション』を組み込んであるんです」


セシリア

「……サスペ……? なんのことかさっぱり分からないけど、これ、馬車なのよね?」


ブライス

「ええ。どんな悪路でも、車体は常に水平を保ちます。振動は一切、座席に伝わりませんよ。……さぁ、乗って」


セシリア

「(……な、なにこれ。本当に動いてるの? 空を飛んでいるような……いえ、もっと静かだわ。お尻に全く振動が来ないなんて、聖都の最高級馬車でも有り得ない……!)」


セシリアは車内のあまりの快適さに愕然とした。

外では影鋼魔馬が音もなく荒野を駆け抜けているはずなのに、車内はブライスの淹れたお茶の香りが漂い、図書館のような静寂が保たれている。


ブライス

「やっぱり、乗り物は耐久性と乗り心地(居住性)が一番ですから。シワにならないシャツと同じで、実用的なのが一番ですよ」


セシリア

「(……実用性ってレベルじゃないわよ! 聖女の祈りで天国を夢見るより、この馬車に乗ってる方がよっぽど救いがあるじゃない……!)」


ブライスの圧倒的な「前世知識×魔法」の合わせ技に、セシリアの常識はまた一つ、音を立てて崩れ去った。




【 PM 9:00 ―― 就寝と「禁断」の居心地 】


怒涛の1日が終わり、セシリアは自分に与えられた客間に倒れ込んだ。


セシリア

「(……ボロボロだわ。聖女の加護なんて、ここではお茶汲み程度にしか役に立たない。……でも)」


セシリアが横たわったベッドは、ヴァイスが「主様のゲストに不快感を与えるわけにはいかない」と、雲の巨人の魂を贅沢に詰め込んで作った究極の寝具だった。


セシリア

「……っ!? なにこの吸い付くような柔らかさ……。体が、溶ける……。聖都の、あの硬い石の床での修行は一体何だったの……。神よ、私は……堕落してしまいそうです……」


ブライスの屋敷に来て、まだ数日。

しかし聖女セシリアは、神級悪魔たちの過保護すぎるおもてなしと、ブライスの圧倒的な「実利主義(シワのないシャツ、快適な移動、完璧な食事)」に、心も体も完全に屈服させられようとしていた。


セシリア

「……明日こそ、シュヴァルツより先に起きて、ブライス様の靴を磨いてみせるんだから……むにゃむにゃ……」


静まり返った屋敷の廊下では、シュヴァルツが「靴を磨く? 片腹痛い。私はすでに、主様の歩く場所すべてを予見し、一歩踏み出すごとに地面を洗浄しているというのに」と不敵に微笑んでいた。


ブライスの屋敷のドタバタな夜は、こうして更けていくのだった。

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