始まりの村の『聖地化』
魔族領との国境付近に位置する『始まりの村』。
かつて人間国から魔導砲で狙われ、ブライスが救ったこの辺境の村に、今日はこれまでにない異様な緊張感が漂っていた。
村長
「ブ、ブライス……。その後ろに控えておられる、恐ろしく整った顔立ちの方々は……?」
村の広場に降り立ったブライスの背後には、シワ一つない漆黒の執事服に身を包んだシュヴァルツとヴァイス、そして優雅なメイド服のルビーとサファイアが、彫像のように完璧な姿勢で控えていた。
魔力を極限まで隠蔽しているものの、神話クラスの悪魔が四体も並ぶ異様な威圧感に、村人たちは後ずさりしている。
ブライス
「あ、驚かせてすみません。僕の屋敷の管理人というか、世話係の悪魔たちです。何もしないので安心してください」
ブライスは苦笑しながら、村長とお爺さんに向けて分厚い羊皮紙の束を差し出した。
ブライス
「約束通り、魔王軍の『四天王』として権限をもらってきました。今日からこの村は、ヴァル=ガルデ帝国の正式な直轄保護領になります。人間国の干渉は一切受けず、税も免除されます」
お爺さん
「おお……! なんと、本当にそこまでしてくれたのか。お前さんは、どこまでもこの村の恩人じゃ……」
村長とお爺さんが涙ぐみながら羊皮紙を受け取った、その瞬間だった。
シュヴァルツ
「……おお、おおおッ!!」
背後に控えていたシュヴァルツが、突然両手で顔を覆い、感極まったように天を仰いだ。
ヴァイス
「ええ、分かりますぞシュヴァルツ。ここが……人間どもに傷つけられた我が至高の主様の御心を癒やし、優しき原点となった場所……!」
ルビー
「なんという尊い土地……! まさに我らが王の『聖地』! このようなみすぼら……ゴホン、素朴な状態のままにしておくなど、我ら悪魔の恥ですわ!」
サファイア
「直ちに! 主様の聖地にふさわしい、完璧な環境を構築いたします!!」
ブライス
「えっ、ちょっと待って君たち、何を――」
ブライスが止める間もなく、四体の神級悪魔たちが凄まじい速度で動き出した。
シュヴァルツ
「まずはインフラの整備です! 指パッチン一つで、泥だらけの道が最高級の『黒耀大理石』で舗装されます! 水はけも完璧、転んでも痛くないクッション魔法付きです!」
パチンッ!という小気味良い音と共に、村の土埃が舞っていた道が、王都の王城すら凌駕する美しくピカピカな大理石の道へと一瞬で変貌した。
村人A
「ひぃっ!? 道が、道が光ってるだぁ!?」
ヴァイス
「休んでいる暇はありませんぞ! 裏山の地下深くを流れる『神聖魔力泉』の脈を強引に引き上げました! 岩を削り出して、村人全員が入れる巨大な露天風呂の完成です! 効能は疲労回復、万病平癒、ついでに寿命が五十年ほど延びます!」
ズゴゴゴゴゴッ!!という地響きと共に、裏山に超豪華な和風の温泉宿(のような巨大施設)が隆起して現れる。
ルビー
「建築はお任せを! 隙間風の吹く木造の家屋は、すべて『絶対防御の魔神木』で建て替えます! これで竜のブレスの直撃を受けても、中でお茶が飲めますわ!」
サファイア
「仕上げは防衛結界です! 主様の聖地に害をなす者が触れた瞬間、対象を原子レベルで分解し、その魔力を村の畑の肥料に変換する『超・自動迎撃エコシステム結界』を展開いたしました!!」
わずか三分。
カップラーメンが出来るよりも短い時間で、辺境の貧しい村は、他国の王族が土下座してでも住みたくなるような『超絶・未来型魔法要塞リゾート』へと変貌を遂げてしまった。
ロゼ
「……お前ら、いい加減にしろぉぉぉぉっ!!!」
たまらず、杖を構えたロゼ師匠が血相を変えて飛び出してきた。
ロゼ
「ただの農村に、なに神話級の結界張って大理石敷き詰めてんだ!? トマト畑の肥料が『消滅した敵兵の魔力』とかエグすぎるだろ! どんな魔王の居城だ!!」
シュヴァルツ
「おや、主様の師匠殿でしたか。ご不満ですか? でしたら、あなた様の杖も国宝級の『神樹の杖』に作り変えて差し上げましょうか」
ロゼ
「いらん!! 私の素朴な魔術師ライフを壊すな!! ブライス、お前のとこの悪魔たち、優秀すぎて逆に迷惑だぞ!!」
ロゼが涙目で抗議するが、神級悪魔たちは「主様のため!」と全く聞く耳を持たない。
エルナ
「わぁぁ……! ブライスお兄ちゃん、このお風呂すっごくあったかい! お水がキラキラしてるよ!」
リエル
「本当ですね! お肌もツルツルになります! ブライス様も一緒に入りましょう!」
呆然とする大人たちをよそに、エルナやリエル、そして村の子供たちは、真新しい大理石の道を走り回り、新設された温泉施設ではしゃぎ回っている。
お爺さんに至っては、温泉の効能のおかげか「腰の痛みが完全に消えたわい!」と、若者のようにピンピンと飛び跳ねていた。
ブライス
「…………まあ、みんなが喜んでる(?)なら、いっか」
ロゼ
「よくない!! お前、権力持ってから完全に感覚が麻痺してるぞ!!」
ブライスはロゼのツッコミをスルーしながら、ため息をついて温泉の縁に腰掛けた。
過保護で暴走気味な悪魔たちには頭が痛いが、これで人間国の兵士がどれだけ攻めてこようと、この村の人々が傷つくことは絶対にない。
(……これで、本当に安心だ)
圧倒的な武力と、結界と、少しの狂気。
四天王となったブライスは、守りたかった「始まりの場所」を、誰にも手出しできない完璧な『聖地』として完成させたのだった。
⸻
しかし。
この時、ブライスの悪魔たちが展開した「神話級の防衛結界」が放つ異常な魔力波動は、遠く離れた地にも波紋を広げていた。
――人間国の北方、宗教国家『聖都アルカディア』。
大聖堂の奥深くで、祈りを捧げていた一人の少女が、不快そうに目を見開いた。
聖女
「……なんて、おぞましくも強大な魔力。辺境の村に、次元を歪めるほどの結界が張られました。しかも……教皇様の足元にも、微かな『闇』の匂いがこびりついています」
白銀の髪と、黄金の瞳を持つその少女は、女神の代行者と呼ばれる『聖女』。
彼女だけは、ブライスが世界に張り巡らせた見えない影の盤面に、ただ一人、疑念の目を向けていた。
聖女
「異端審問会を動かしなさい。……この世界を裏から操ろうとしている『悪魔』を、神の御名において暴き出します」




