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盤上の遊戯

魔族領、ブライスの屋敷。

シュヴァルツの淹れた極上のダージリンの香りが漂う執務室で、ブライスはふかふかのソファに深く腰を沈めていた。


影(念話)

『――主様。勇者レオンの密使が、北方の宗教国家へ到着。教皇への謁見を求めています。密書の内容は「魔導技術と引き換えの食料支援」です』


ブライス

「……なるほど。レオンも考えるね。でも、あの教皇は欲深いから、口約束の技術提供くらいじゃ、冬を越すための大規模な食料なんて絶対に出さないよ」


サリエラ

「人間の宗教国家なんて、腐敗の温床だもの。勇者くんの泥臭い努力も、ここでおしまいね。これで冬には人間国は飢餓で自滅かしら」


「いや、それはそれで困るんですよ。指導者を失って暴徒化した数万の兵士が、盗賊になって世界中に散らばったら監視が面倒になります。……それに」


「それに?」


「絶望の中で這いずり回って、必死に軍隊を立て直そうとしてるレオンを……もう少し、この特等席で観察していたいじゃないですか」


ブライスは紅茶のカップをソーサーに置き、薄く笑った。

それはかつての心優しい青年のものではなく、世界を盤上に見立てて遊ぶ『黒影の四天王』としての、底知れぬ笑みだった。


ブライス(念話)

『教皇の足元に潜んでいる影。教皇の脳に微弱な魔力を流して、思考を誘導しろ。レオンの要求を最高条件で丸呑みし、ただちに支援を決定するように』


影(念話)

『御意。教皇の精神に介入し、支援の承認書にサインさせます。……完了いたしました』


ブライス

「ありがとう。引き続き監視をよろしく」


ブライスが念話を切ると、背後に控えていたシュヴァルツが、感極まったように身を震わせた。


シュヴァルツ

「おお……ッ! なんという深謀遠慮! 敵の勇者の希望すらも主様の手のひらの上! 弄び、飼い殺しにするその圧倒的な支配力……! このシュヴァルツ、主様の悪魔的えげつない采配に痺れ憧れます!!」


ルビー

「本当に! まさに我らが王にふさわしい、慈悲と残酷さを併せ持つ完璧なお姿……ッ!」


悪魔たちが目をキラキラさせて拍手喝采を送る中、サリエラだけはドン引きしたような顔でブライスを見つめていた。


サリエラ

「……あなた、本当に性格悪くなったわね。勇者くん、自分があなたの掌の上で踊らされてるなんて知ったら、ショックで泡吹いて倒れるわよ」


ブライス

「えー、そうですか? 僕はただ、彼らの背中を少し『押してあげた』だけですよ」


ブライスはクスクスと笑いながら、シュヴァルツが用意した焼き立てのスコーンに手を伸ばした。


知らず知らずのうちに神の庇護システムに組み込まれた勇者と、特等席からその盤面を操作する魔王軍幹部。

部屋の片隅でリエルとサファイアが「ブライス様すごーい!」と無邪気に笑う中、人間国の運命は、優雅なティータイムの片手間で決定づけられていくのだった。

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