真なる勇者の覚醒
王都は、黒い煙と絶望に包まれていた。
『災厄の獣』によって王城は跡形もなく吹き飛び、国王をはじめとする上層部や神官長たちは全滅。国を統べる中枢機関は、たった一夜にして完全に消滅した。
レオン
「……酷い有様だ」
崩れ落ちた広場の中心で、本来の勇者であるレオンは、煤で汚れた剣を杖代わりにしながら立ち尽くしていた。
「エルド! 駄目だ、あちこちで略奪が起きてる! 兵士たちも指揮官を失ってパニック状態だ!」
仲間の一人が、血相を変えて駆け寄ってくる。
「近衛騎士団の生き残りは?」
「第一から第三部隊は全滅。残っている下級兵士たちも『国はもう終わりだ』って武器を捨てて逃げ出そうとしてる。……俺たちも、早くここを離れようぜ」
「……駄目だ」
レオンは短く答え、落ちていた王国の軍旗を拾い上げた。
「ここで軍隊が完全に解体されれば、治安は崩壊する。暴徒化した兵士が周辺の村を襲い、いずれ他国や魔物の大軍に蹂躙されて、人間の国は終わるぞ」
「だけど、俺たちに何ができる!? お前は勇者として召喚されたけど、スキルも魔法もないただの剣士じゃないか! あの古代竜みたいな圧倒的な力があるわけじゃ……」
「力がないなら、知恵と結束で戦うしかないだろう!!」
レオンの怒号が、煙くすぶる広場に響き渡った。
仲間はビクッと肩を震わせ、言葉を失う。
レオン
「……俺は、あの夜の森で誓ったんだ。理不尽に命を奪われる子供を、二度と出さないって。あの古代竜に救われておめおめと逃げ出すくらいなら、俺は俺のやり方で、この国を立て直す」
レオンは軍旗を高く掲げると、逃げ惑う残存兵たちが集まっている避難所へと向かって歩き出した。
臨時の避難所と化した広場では、怪我を負った兵士たちがうめき声を上げ、絶望の空気が蔓延していた。
そこへ、レオンが静かに歩み寄る。
レオン
「生き残っている兵士たち! 武器を取れ!!」
兵士A
「あ、あんたは……確か、勇者様のパーティーの……」
「俺はレオンだ。今この瞬間から、この場における全軍の指揮権を俺が掌握する」
「な、何を馬鹿な! 指揮官は全滅したんだぞ! なぜただの一冒険者に従わなきゃならない!」
兵士たちが反発の声を上げるが、レオンは一歩も引かなかった。
圧倒的な魔法も、チートスキルもない。だが、その瞳には、かつて腐敗した上層部には決してなかった「死線を潜り抜けた者の強烈なカリスマ」が宿っていた。
レオン
「王も将軍も死んだ! だが、お前たちが守るべき民草はまだ生きているだろうが! 武器を捨てるなら今すぐこの街から出て行け。残る者は、俺の指示に従い、防衛線を再構築しろ!」
その気迫に、反発していた兵士たちが思わず息を呑む。
レオン
「第一小隊は直ちに市街の消火と生存者の救出! 第二小隊は南門に防衛線を張り、暴徒の侵入を阻止しろ! 第三小隊は兵站の確保だ、無事な食料庫から物資を接収し、怪我人のテントへ回せ! 急げ!!」
的確で無駄のない指示。
指揮系統を失い、誰かにすがりたかった兵士たちの目に、再び光が戻り始める。
兵士A
「……っ! 第一小隊、勇者レオン殿の指示に従え! 消火活動に向かうぞ!」
「おうっ!!」
「第二小隊、南門を固めるぞ! 武器を拾え!!」
次々と兵士たちが立ち上がり、レオンの指示のもとで組織的な動きを取り戻していく。
ただの烏合の衆になりかけていた集団が、再び『軍隊』としての機能を取り戻した瞬間だった。
仲間
「……すげぇ。スキルなんて一つもないのに、あいつ、言葉だけで軍隊を動かしてやがる」
「ああ……。今までのお飾りの勇者なんかじゃない。あいつは本物の『将』だ」
数時間後。
街の火はあらかた消し止められ、略奪も収まり、王都は最悪の事態を脱しつつあった。
臨時司令部として設営された天幕の中で、レオンは広げられた王国の地図を見つめていた。
そこへ、生き残った騎士の代表が敬礼をして入ってくる。
騎士
「レオン殿。市街の制圧、および生存者の避難誘導が完了しました。……あなたがいなければ、我が国は今日、完全に滅んでいたでしょう」
レオン
「礼には及ばない。だが、問題はこれからだ。軍のトップが消え、防衛の要だった魔導砲も古代竜に破壊された。他国や魔族領からすれば、今の俺たちは丸裸も同然だ」
「はい。如何致しましょう」
「まずは軍の再編と、情報網の構築だ。魔力に頼った兵器開発はもうやめる。地の利を活かした戦術と、純粋な兵の練度で国を守る体制を作る」
レオンは地図の『魔族領』を指さした。
「……あの古代竜が、これからどう動くかは分からない。だが、もし奴が人間国へ牙を剥く時が来たなら、俺たちが人間の最後の盾になる」
チート能力で無双する魔王軍の特務幹部、ブライス。
圧倒的な知略とカリスマで残存兵をまとめ上げる真なる勇者、レオン。
対極の力を持つ二つの運命が、新たな世界情勢の中で、再び交差しようとしていた。




