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『黒影』の四天王

ヴァル=ガルデ帝国の中枢、漆黒の尖塔がそびえ立つ魔王城。

その最上階にある広大な玉座の間の扉を、サリエラが魔法で重々しく押し開けた。


サリエラ

「連れてきたわよ、魔王様。先の王都の騒動を片付けた、規格外の古代竜くんよ」


玉座の間に足を踏み入れたブライスは、その場を支配する凄まじい魔力と覇気に、わずかに目を細めた。

部屋の最奥、黒曜石の玉座に深く腰掛けているのは、四本の角と威厳に満ちた顔立ちを持つ巨漢――ヴァル=ガルデ帝国を統べる『魔王』その人だった。

そしてその玉座へ続く真紅の絨毯の両脇には、魔王軍の最高幹部『四天王』たちが控えている。


魔王

「よく来たな、半魔の少年。王都での『災厄の獣』の討伐、そして我が帝国の筆頭魔術師の命を救ったこと、大儀であった。……だが」


魔王が顎を撫でながら、面白そうに目を細める。


魔王

「どうにも、ひ弱すぎるな。その細腕で、本当に戦略級魔導砲を防ぎ、王都を更地にするほどの古代竜になれるというのか?」


その言葉を待っていたかのように、絨毯の脇に立っていた筋骨隆々の獣人――獅子の頭部を持つ四天王の一人、獣王ガランが好戦的な笑みを浮かべて前に出た。


ガラン

「俺もそう思いやすぜ、魔王様! サリエラのババアが持ち上げすぎなんじゃねぇのか? 空席になってる四天王の座をコイツにやるってんなら、まずは俺が強さを確かめてやりまさぁ!」


サリエラ

「誰がババアよ、この脳筋毛玉。後で全身の毛をむしり取ってやるわ」


カーミラ

「はぁ……。また始まったわ。ガラン、あなた学習能力がないの? サリエラが連れてきたってことは、そういうことでしょうに。死んでも知らないわよ」


もう一人の四天王、妖艶な吸血鬼の美女カーミラが、血の入ったワイングラスを揺らしながら呆れたようにため息をついた。


ガラン

「うるせぇ! 魔族は力が全てだろ! おい半魔、古代竜とやらに変身してみろ! この俺が真っ向から叩き潰してやる!!」


ガランの全身から、灼熱の闘気と炎が噴き上がる。

床の石畳が熱でドロドロに溶け出すほどの、純粋で暴力的な力。


ブライス

「……変身は、しませんよ」


ガラン

「あぁ!? ナメてんのか!!」


ブライス

「ここでお互いが本気を出したら、魔王城が吹き飛んじゃいますから。……このままで、十分です」


ガラン

「言いやがったなァァァッ!!」


激昂したガランが、床を爆発させてブライスへと突進する。

音速を超えるような拳の連打。食らえば城の壁ごと山を貫通するほどの威力が、無防備なブライスに迫る。


だが、ブライスは一歩も動かなかった。


ブライス

「――《神聖防壁ホーリー・ウォール》」


ブライスの言葉と共に、彼の目の前に眩いほどの『白銀の光』が展開された。

女神の加護を持つ者にしか使えないはずの、純度百パーセントの神聖魔法。


ガラン

「なっ!? 魔族の分際で神聖魔法だとォォ!?」


ガランの豪腕が光の壁に激突するが、壁はヒビ一つ入らず、逆に神聖な光がガランの闘気を浄化して打ち消していく。

驚愕で動きが止まったガランの足元を、ブライスは冷たく見下ろした。


ブライス

「――そして、《黒影の縛鎖シャドウ・チェーン》」


今度は、床の『影』がまるで生き物のように跳ね上がり、漆黒の鎖となってガランの四肢に絡みついた。

光の魔法で敵の力を封じ、闇の魔法で肉体を縛り上げる。

相反するはずの二つの魔力が、ブライスの中では何の矛盾もなく完璧に融合していた。


ガラン

「ぐおぉぉぉっ!? ば、馬鹿な! 力が、全く入らねぇ……っ!」


ブライス

「動かないで。その鎖、抵抗すればするほど影が肉に食い込むから」


一切の詠唱も動作もなく、古代竜に変身することすらなく、四天王の一人を完全に無力化してしまった。


カーミラ

「……あら。あの子、神聖魔法と黒魔法を同時に使ったわよ。冗談でしょ……?」


呆れていたカーミラでさえ、その異常すぎる光景にグラスを落としそうになっていた。


沈黙する玉座の間。

数秒の静寂の後――。


魔王

「――カハハハハハハハッ!! 見事!!」


魔王が腹の底から愉快そうに大笑いし、玉座の肘掛けをバンバンと叩いた。


魔王

「光と闇を同時に従えるか! 確かに、竜に化けるまでもない圧倒的な力よ! ガラン、お前の負けだ!」


ガラン

「……くそっ。完敗だ。あんた、とんでもねぇ化け物だな。俺の席、譲ってもいいくらいだぜ」


影の鎖を解かれたガランが、素直に負けを認めて豪快に笑った。

陰湿な妬みなど一切ない、サッパリとした実力主義。ブライスは、この魔王軍の空気が嫌いではなかった。


魔王

「さて、ブライスとやら。お前の力は十分に証明された。空席となっている四天王の座……『黒影こくえい』の称号と共に、お前に預けよう」


ブライス

「……お受けします。ですが、条件があります」


魔王

「ほう? 言ってみろ」


ブライス

「僕の行動は完全に自由とすること。そして、帝国の権限で『始まりの村』の不可侵を約束し、リエルたちエルフが迫害されずに暮らせる特別自治区を設立すること。……これが条件です」


ブライスは、魔王の威圧感に一歩も引かずに真っ直ぐに要求を突きつけた。

自分のためではない。大切なものを、組織の力で完全に守り抜くためだ。


魔王

「よかろう。お前が帝国に与えてくれる武力と情報網に比べれば、安い条件だ。今日からお前は『無任所むにんしょ』の四天王。何にも縛られず、己の意思のままにこの世界を飛び回るがいい!」


魔王が立ち上がり、高らかに宣言する。

サリエラが満足げに頷き、カーミラが面白そうに微笑み、ガランが歓迎の雄叫びを上げた。


人間の勇者として召喚されたはずの青年は、こうして正式に、魔王軍最高幹部『黒影の四天王』としての地位を手に入れたのだった。

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