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自業自得の破滅と、王都を食い破る獣

人間国の王都、地下儀式の間。

神官長が振り下ろした杖を合図に、魔法陣から赤黒い瘴気が爆発的に噴き出した。


ズズズズズ……ッ!!


魔法陣の中心から這い出してきたのは、複数の獣と人間の死体を無差別に繋ぎ合わせたような、名状しがたい巨大な肉塊の化け物だった。

全身から数え切れないほどの腕や触手が生え、その表面には、生贄にされたエルフや獣人たちの苦悶の顔がボコボコと浮かび上がっては消えている。


貴族A

「ひ、ひぃぃぃっ! な、なんだこの悍ましい姿は……!」


神官長

「案ずることはありません! 姿はどうあれ、これは我らが召喚した使役獣。さぁ、行け『災厄の獣』よ! 魔族領へ飛び、憎き古代竜を喰らい尽くすのだ!」


神官長が命令を下した、その時だった。

『災厄の獣』の巨大な肉塊がグチャリと蠢き、その中心に開いた底なしの口が、神官長へと向けられた。


神官長

「なっ……? 何をしている、早く行けと……ギャアアアアアッ!?」


災厄の獣から伸びた無数の触手が、一瞬にして神官長の身体を串刺しにし、そのまま巨大な口へと放り込んだ。

ムシャムシャと骨を噛み砕くおぞましい音が、地下室に響き渡る。


貴族B

「ば、馬鹿な!? なぜ召喚主を食うんだ!?」


そもそも、無残に殺された他種族の魔力器官と怨念を寄せ集めた化け物が、人間の言うことなど聞くはずがなかった。

獣の目的はただ一つ。目につく人間を全て喰らい、その命と魔力を貪ることだけ。


災厄の獣

『オォォォォォォォォォォ……ッ!!!』


咆哮と共に放たれた瘴気が、儀式の間を一瞬で満たす。

「助けてくれ!」「嫌だ、死にたくない!」と叫びながら逃げ惑う貴族や上層部の人間たちは、自分たちが生み出した化け物の触手に次々と捕らえられ、自業自得の最期を遂げていった。




ズドォォォォォォォンッ!!!


王城の床が吹き飛び、巨大な肉塊が王都の中心へと這い出してきた。

朝焼けに照らされた平和な王都は、突如現れた化け物によって一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変貌する。

建物が薙ぎ払われ、逃げ惑う悲鳴と燃え盛る炎が街を包み込んでいった。


そして、崩れ落ちた儀式の間。

瓦礫の陰に潜む真っ黒な『影』だけが、その一連の破滅劇を、瞬き一つせずに静かに見つめ続けていた。




同じ頃。

魔族領との境界にある『始まりの村』では、夜明けの宴が穏やかな終わりを迎えようとしていた。

温かいスープを飲んでいたブライスの脳内に、再び《隠密のシャドウ・ポーン》からの強烈な視覚共有が流れ込んでくる。


ブライス

「……っ!」


「どうしたの、ブライス様? また頭痛ですか?」


心配そうに覗き込んでくるリエルに、ブライスはゆっくりと首を横に振った。


「違うんだ。……王都に潜ませていた影から、報告が入った」


「報告? 人間どもが、また何か企んでるっていうの?」


サリエラが果実酒の杯を置き、真剣な顔で歩み寄ってくる。

ブライスは目を閉じ、影が見ている地獄の光景を二人に伝えた。


「人間国の上層部が、僕(古代竜)への対抗策として『禁忌召喚』を行ったらしい。でも、呼び出した化け物が暴走して……召喚した神官も貴族も、全員食い殺された」


「……はっ。自業自得ね。馬鹿な連中だわ」


サリエラが呆れたように鼻で笑う。

自分たちに害をなそうとした敵が勝手に自滅したのだ。魔族であるサリエラからすれば、これほど手間が省ける痛快な話はない。


シルフィア

「ですが……その化け物は、一体何を触媒にして呼び出されたのです?」


静かに話を聞いていたシルフィアの問いに、ブライスの表情が暗く沈んだ。


ブライス

「……生贄にされたエルフや獣人たちの、魔力器官です。だから、あの化け物は怨念の塊みたいなもので……今は王城を飛び出して、王都の街を無差別に破壊しています」


その言葉に、リエルとシルフィアが息を呑んだ。

同胞たちの遺体が、そんな悍ましい化け物のパーツとして弄ばれている。その事実が、二人の胸を深く抉った。


「自業自得で人間国が滅びるのは構わない。でも……あの化け物のせいで、関係ない一般市民や子供たちまで逃げ惑ってる。何より……」


ブライスは立ち上がり、王都がある空の彼方を真っ直ぐに見据えた。


「リエルたちの同胞の魂が、あんな醜い化け物の動力源として囚われ続けてるなんて、絶対に許せない。……僕が、終わらせてくる」


その背中に、リエルが駆け寄った。


「私も行きます! 同胞たちの魂を、この手で解放したいんです!」


「……わかった。一緒に行こう」


ブライスは優しく頷くと、上空で待機している火竜の長を呼んだ。

人間の身勝手さが生み出した最悪の災厄。

それを沈めるため、心優しき竜王は、再び王都へとその翼を向けるのだった。

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