夜明けの宴と、蠢く禁忌の影
魔導砲の脅威が去り、ブライスと村人たちが涙の和解を果たした広場。
夜空に浮かんでいた厚い雲が晴れ、うっすらと夜明けの光が差し込み始めていた。
ブライス
「みんな、降りてきていいよ。もう安全だ」
ブライスが上空に向かって声をかけると、雲間に隠れていた数十頭の火竜たちが、地響きを立てて次々と村の周囲に降り立った。
さらに、一頭の火竜の背中から、エルフの少女リエルと、第一王女シルフィアがふわりと広場へ舞い降りる。
村人たち
「ひぃっ!? りゅ、竜の群れ……! それに、エルフまで!」
エルナ
「ブライスお兄ちゃん、この人たちは……?」
ブライス
「大丈夫、僕の大切な家族と、仲間たちだよ。……リエル、シルフィアさん。ここが、僕が話していた『始まりの村』です」
リエル
「初めまして! ブライス様にはいつもお世話になっています、リエルです!」
リエルが元気よく頭を下げると、その無邪気な笑顔に、村人たちの緊張がふっと解けた。
お爺さん
「なんと……あのブライスに、こんなに可愛らしい家族ができとったとはなぁ」
村長
「竜の群れを従え、エルフの方々を連れておられるとは……。あんた、本当にただ者じゃなかったんだな。さぁさぁ、立ち話もなんだ。村を挙げて、恩人たちを歓迎させてくれ!」
村人たちは恐怖を完全に拭い去り、家々から保存食や樽酒、果実を次々と広場に運び出し始めた。
焚き火がいくつも焚かれ、広場はあっという間に活気あふれる宴の席へと変わった。
人間、半魔、エルフ、そして火竜。
絶対に交わるはずのなかった種族たちが、一つの火を囲んで笑い合っている。
エルナ
「リエルちゃん、その服すっごく可愛いね! 魔族の街で買ったの?」
リエル
「えへへ、ブライス様が魔法で作ってくれたんだよ! エルナちゃんは魔法の練習してるの? 私も少しなら教えられるよ!」
年が近いエルナとリエルは、あっという間に打ち解けて楽しそうに魔法の話で盛り上がっている。
一方、村長やお爺さんたちは、火竜たちに恐る恐る羊の丸焼きを差し出していた。
お爺さん
「ほれ、竜の旦那方も食べてくだされ。あんたたちも、村を守ってくれたんじゃろ?」
火竜の長
「ガウッ!(なんと! 我らのような魔物にメシを恵んでくれるニンゲンがいるとは! 王が守りたくなるわけだ!)」
言葉は通じずとも、火竜たちは嬉しそうに尻尾を振りながら、村人たちから肉を受け取っている。
シルフィア
「……奇跡のような光景ですわね」
村人たちが持ち寄った果実酒の杯を傾けながら、シルフィアが目を細めた。
シルフィア
「人間とエルフ、そして竜が共に食卓を囲むなど、アルフヘイムの長い歴史書を探してもどこにも記されていませんわ。あなたが繋いだ絆です、ブライス殿」
ブライス
「……僕一人じゃ、無理でした。村のみんなが、僕の姿を見ても受け入れてくれたから」
ブライスは、手元の温かいスープの入った木の器を見つめた。
人間の残虐さに触れ、一度は完全に人間を憎んだ。だが、目の前で笑っているこの村の人たちもまた「人間」なのだ。
(……人間を、一括りにして憎む必要はなかったんだ。僕の大切な人たちだけを、この手で守っていけばいい)
胸の奥にあった冷たい呪いが、朝日に溶けるようにスッと消えていくのを感じた。
しかし、その穏やかな夜明けの裏側で――。
人間国の王都は、取り返しのつかない狂気の淵へと足を踏み入れようとしていた。
王城の地下深く、冷たい石造りの儀式の間。
国の重鎮たちと、黒いローブに身を包んだ神官たちが、青ざめた顔で円陣を組んでいた。
貴族A
「魔導砲部隊が全滅だと!? しかも、発射した砲撃を無傷で防がれた上に、一瞬で蒸発させられたというのか!」
貴族B
「報告では、古代竜が単体で放った魔法とのことです……! このままでは、王都が火の海になるのも時間の問題だ!!」
絶望と恐怖が、彼らの理性を完全に焼き切っていた。
神官長
「……もはや、出し惜しみをしている余裕はありません。地下牢に残っている『アレ』を、全て使いましょう」
貴族A
「まさか……! だが、あれはエルフや獣人から抽出した魔力器官だぞ! それを使って『禁忌』に触れれば、我々も無事では済まん!」
神官長
「古代竜に滅ぼされるよりはマシでしょう。……魔族には、魔族の神をぶつけるのです」
神官長が歪んだ笑みを浮かべ、杖を振り下ろす。
部屋の中央に描かれた禍々しい魔法陣の上に、どろどろとした無数の「魔力器官」が投げ込まれた。
無残に命を奪われた者たちの怨念と魔力が、魔法陣の動力源として赤黒く発光し始める。
神官長
「贄は満ちた! 冥府の底より這い出よ、古の破壊神! 我らが敵、赤鱗の竜を喰らい尽くせ――『禁忌召喚・災厄の獣』!!」
魔法陣から、この世のものとは思えないおぞましい咆哮が響き渡った。
王都の空を、不吉な赤黒い雲が覆い始める。
平和な夜明けを迎えた村から遠く離れた場所で、人間たちの愚かさが、世界を終わらせかねない最悪の『災厄』を呼び覚まそうとしていた。




