帝国筆頭魔術師の“教育”と、暴かれる闇
魔族領ヴァル=ガルデ、帝国魔術研究所の地下深く。
そこは、分厚い結界に覆われた冷たい石造りの尋問室だった。
奴隷狩り組織の幹部「ヒッ……! 頼む、殺さないでくれ! 金なら払う! いくらでも払うから!」
部屋の中央、魔封じの椅子に縛り付けられた男が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら命乞いをしている。
その目の前には、全身包帯だらけのサリエラが、怪我人とは思えないほど機嫌の良い足取りで立っていた。
サリエラ「殺さないわよ。古代竜くんからも『生かして連れてきた』って言われてるしね。それに、貴重な“実験体”を無駄にするほど、私は野蛮じゃないわ」
サリエラはニヤリと笑うと、杖の先端に怪しげな紫色の魔法陣を展開させた。
サリエラ「ただ……私、彼にボコボコにされて、まだ体が痛いのよ。だから八つ当たりも兼ねて、最近開発した『真実の吐露』の実験に付き合ってもらうわね」
奴隷狩り組織の幹部「な、なんだそれは……! やめろ、来るなァァッ!」
サリエラ「簡単な魔法よ。嘘をついたり、黙秘したりするたびに、脳が『全身の骨が砕かれる幻痛』を錯覚するの。さあ、教育(尋問)を始めましょうか」
サリエラが杖を振るうと、紫色の光が男の額に吸い込まれていった。
奴隷狩り組織の幹部「ガ……ァ……ッ!?」
男の目が大きく見開かれ、全身が痙攣する。
肉体には一切の傷がないにもかかわらず、男の脳は想像を絶する痛みをダイレクトに味わっていた。
サリエラ「第一問。あなたたちが奴隷を売って得た莫大な利益は、どこに流れているの?」
奴隷狩り組織の幹部「ぐ、あァァァッ! し、しらな……ギャアアアアアアッッ!!」
嘘をついた瞬間、魔法陣が明滅し、男は鼓膜が破れそうなほどの絶叫を上げた。
椅子がガタガタと激しく揺れる。
サリエラ「あらあら、素直じゃないわね。脳が壊れる前に答えた方がいいわよ?」
奴隷狩り組織の幹部「ひぃぃぃっ! は、吐く! 吐くから止めてくれェェ!! か、金は……人間国の王都! 上層部と……『勇者軍』の裏資金に流れてる!!」
その言葉に、結界の外で腕を組んで様子を見ていたブライスの眉がピクリと動いた。
ブライス「……勇者軍?」
サリエラ「へえ。勇者はとっくに追放されたって噂だったけど、軍だけは残してるのね。……その金で、何を作ってるの?」
奴隷狩り組織の幹部「『魔族特効』の兵器だ……! 古代の遺跡から掘り出した技術と……エルフや獣人の魔力器官を抽出し……て……アァァァッ! 痛い! もう痛いのは嫌だァァ!!」
男は泡を吹きながら、狂ったように情報を吐き出し続けた。
リエル「……同胞の魔力器官を……兵器に……?」
ブライスの隣に立っていたリエルが、顔を青ざめさせて口元を手で覆う。
エルフや獣人を奴隷として売るだけでは飽き足らず、その命を解体して兵器の部品にしているというのだ。
ブライス「…………」
ブライスの瞳に、再び『金色の縦長瞳孔』が浮かび上がる。
人間の際限のない強欲さと残酷さに、ブライスの心の中で、人間に対する最後の一欠片の情すらも完全に灰となって消え去った。
サリエラ「なるほどね。よく分かったわ。……で、その兵器の保管場所と、関係している貴族のリストは?」
奴隷狩り組織の幹部「あ、ああ……教える……全部教えるから……もう許して……」
完全に心が折れた男は、涎を垂らしながら王都の機密情報を事細かに喋り始めた。
⸻
数十分後。
サリエラ「ふぅ、大収穫ね! いやー、この魔法の完成度は素晴らしいわ。論文にまとめなきゃ」
満足げに尋問室から出てきたサリエラは、羽ペンをくるくると回しながらブライスたちの方へ歩み寄ってきた。
部屋の中では、幹部だった男が抜け殻のように虚ろな目で宙を見つめている。死んではいないが、廃人一歩手前だ。
サリエラ「聞いたでしょ、ブライス。人間どもは、私たちの想像以上にエグいことを考えてるみたいよ」
ブライス「……ええ。聞いていました」
ブライスの声は、ひどく落ち着いていた。
怒りで暴走することもなく、ただ静かに、冷たく事実を受け止めている。
ブライス「……リエル。目を背けずに聞いていて、えらかったね」
ブライスは、震えを我慢しているリエルの頭を優しく撫でた。
リエル「ブライス様……私、あの人間たちを……絶対に許せません」
ブライス「うん。許さなくていい。僕も同じ気持ちだ」
サリエラ「さて、この情報を帝国上層部に持っていけば、人間国との戦争の大義名分ができるわね。……どうする? 古代竜くん。あなたも一枚噛む?」
サリエラの問いかけに、ブライスは静かに振り返った。
その金色の瞳は、かつて人間の街で「誰かを傷つけたくない」と怯えていた少年のものではなくなっていた。
ブライス「……もちろんです。人間たちが作ったその『兵器』ごと、僕が全部壊しますよ」
魔族の街で居場所を見つけた半魔は、今、明確な意思を持って人間国を「敵」と認定した。




